第10話 登録
先日より事情徴収のように話を聞かれていたが、どうやら話すこともなくなり、二人して別の場所へ行こうと考えていたのだが、辺境伯からは滞在を懇願されてしまった。
理由は、自国の王へ工作員云々等の内容を手紙にて送ったそうで、その返答が来るまでの間は別の場所へと行かないで欲しいと頼まれた為である。
「じゃ、俺達は出かけて来るよ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
最初はレオンとタイガを怖がっていたメイドも、すでに慣れたようで、今はニコヤカに送り出してくれた。
――――
「ここが冒険者ギルドって奴か。へぇー、普通の建物よりも大きいな」
「そうだね、ここでジッとしてても仕方ないよ。さっ、中に入ろうよ」
ギィ
ギルドの扉を開けると身体が大きく、恐ろしい風貌の二人の獣人をみた他の冒険者達はギョっとした顔をする。
誰も近寄ってこようともしない。
「冒険者の登録をしたいのだが、ここで合っているだろうか?」
「ヒッ、は、はい、こ、こ、ここで登録ができます」
「そうか、俺と隣の奴と二人の登録を頼む。あぁ、それとコレを渡しておく」
一通の手紙をギルドの受付嬢に渡すと、途端に顔色を変えて席を立って、どこかに行ってしまった。
「「??」」
しばらく待っていると奥から男性が来るようにと手招きするので、そこへ向かう事にした。
部屋に入ると席に座るようにと促され、座ると同時にお茶まで用意してくれた。
「冒険者ギルドってのは、聞いてた話とは違うなぁ」
「そうだよねぇ、プリムローズさんも危ない所だって言ってたもんね」
「あ、あのウィリアム・アッシュフィールド辺境伯様からの紹介状を読ませて頂きました。冒険者登録をされたいとのことですが、…………本当ですか?」
「あぁ、そうだ。俺と弟の二人とも登録をしたいんだがな。なにか問題でもあるのか?」
「問題はないのですが、辺境伯様からのご紹介は初めてなもので、私もどうすればいいかと思っておりまして」
「ふーん。無理なら別にいいぞ。違う街で登録するだけだからな」
「い、いや、問題はないです。どうぞ、登録をしていってください」
登録用紙を渡され、名前と種族名を書く。住所はわからないので空白のまま渡すしかなかった。
「はい、確かに受け取りました。あっ、私のことを話しておりませんでした。私はこの街の冒険者ギルドのギルドマスターをしております、ハンスと申します」
口調は丁寧だが、やはりこの男も修羅場を潜り抜けて来たんだろうとわかる。
強者の匂いを感じるのだった。
「はい、登録料も頂きました。お二人は冒険者ギルドのことをご存じですか?」
「あぁ、辺境伯に聞いてるから大丈夫だ。まず登録した後で試験があるんだろ?その結果で等級が決まるってことも聞いてる」
フムフムとうなずくハンス。
「ギルドマスター、僕からいいかな?」
「あぁ、タイガ殿、なんでしょうか?」
「あのさぁ、僕たちは冒険者になったんだよね。そうするとだよ、ギルドマスターは僕たちより偉い立場でしょ。だから丁寧な口調を止めて欲しいな」
「…………しかし、辺境伯からの紹介だから……、そうだな、俺も丁寧な口調は嫌で堪らんのだよ。じゃ、これからは同じ冒険者同士ってことで口調は元に戻させてもらうぜ。レオンもいいよな?」
「あぁ、そうしてくれ。俺もそのほうがありがたい」
「よしっ、じゃ、訓練場へ行こうぜ。そこでお前らの等級試験をするからよぉ」
ギルドの裏に行くと広い何もない場所があった。
数人が訓練をしているようだったが、ギルマスのハンスを見て、俺達を見て試験だと理解したようで、訓練を止めて見学者になるようだった。
「さて、どっちからやるんだ?」
「僕から行くよ。それで何するの?」
「あぁ、ちょっと待っててくれな。あぁ、来た来た。おい、ロッシュ。試験を頼んだぜ」
「あぁ。へぇー獣人か。珍しいな。さっ、いつでもいいぜ、かかってきな」
「しつもーん。これってスキルを使ってもいいのぉ?」
「あぁ、なんでも使えばいいぜ。これでも俺は第三級冒険者だ。負けることもねぇよ」
「じゃ、いっくよー。『ステルス・クローク』、『シャドウ・ステップ』っと」
タイガはステルス・クロークで自身の魔力と存在感を完全に遮断する隠蔽術を使い、その後、影の中を一瞬で移動し、敵の間合いを自在に操る俊敏の魔術でロッシュの背後に現れる。
「おっと、危ねぇ!」
タイガの鉤爪をとっさに剣ではじき返し、反撃を行おうと振り返ったときには姿は見えない。
完全に気配を断っているタイガは、レオンでも見つけることができない。
シュ、シュと何度かロッシュの背後や正面に現れては鉤爪で攻撃を行う。
どこから現れるかわからない攻撃にロッシュは翻弄されてしまった。
「わかった。降参だ、降参!」
ロッシュの声を聞いたタイガは姿を現す。
オォォォー
見物人から大きな歓声が沸き起こった。
「どれ、次は俺か」
「ちょ、ちょっと待てって。休憩させろよ」
「じゃ、アタシが代わってやるよ。アタシはアンナ。第二級の冒険者さ。同じ獣人仲間だ。遠慮せずにかかってきな」
「その前に、アンタはなんの種族だ?」
「アタシか?アタシは猫だよ。そんな悠長にお話してる暇はないよっ!」
ダガーはレオンの顔面を狙ってきたが、それを一歩下がるだけで躱す。
「や、やるじゃないのさっ!」
「次は俺の番だな。『|ブレイジング・フィスト《灼熱の剛拳》』」
ブレイジング・フィストとは、拳に炎を圧縮し、爆発的な破壊力を叩き込む技である。
その炎をまとった拳でアンナへと襲い掛かる。
「うわっ、アチチチ」
アンナはレオンからかなりの距離まで後退した。
「遠くまで逃げたもんだな……。では、『パーガトリー・ロア』」
パーガトリー・ロアは、炎を束ねたブレスを吐き出し、遠距離の敵を焼き尽くす攻撃手段である。
「ガォォォォォー」
レオンの咆哮とともに、灼熱のブレスが勢いよくアンナへと向かって行く。
「ほいっと、危ない、危ない。大丈夫かな?アンナさん」
直撃かと思われたレオンの攻撃は、タイガの『ダーク・バインド』のスキルによって、別の場所へと運ばれた。
ズガーン
アンナがいなくなった場所の後方の壁へとレオンのパーガトリー・ロアがぶつかり、壁は一瞬で蒸発して消えてなくなってしまった。
「ふむ、加減をしたつもりだったのだがな。もう少し勢いを弱めた方がよさそうだな」
ギルドマスターのハンス、そしてタイガの相手をしたロッシュ。そして見物に来ている他の多くの冒険者達は声も出せない様子だった。
そこへアンナを連れて戻って来たタイガ。
「兄ちゃん、加減しなよぉ~。あんなの当たったら死んじゃうよぉ~」
「加減したつもりだったんだがなぁ。あぁ、アンタ大丈夫だったか?」
アンナはレオンの問いかけには、コクコクコクコクと頷くだけで、声も出せなくなったようだった。
「スマンな。ちょっと勢いがありすぎたみたいだ」
「ウ、ウ、ウン、ダイジョウブ」
レオンに対峙した時は勢いのある女性だったが、可哀そうにカタコトでしか話せなくなってしまった。
「おい、ギルドマスターよ。我らの試験は合格か?」
「…………」
「おい、聞いてるか?」
「あっ、あぁ、ご、合格だ。あぁ、合格だ」
「そっか、タイガ、俺達、合格だってよ」
「じゃ、冒険者登録できたって訳だ。それでギルドマスターさん、僕たちの等級は?」
「あ、あぁ、ちょっと時間をくれ。想定外なものでな……」
「あっそ、じゃ、兄ちゃん、辺境伯様の所に戻ろうよ。僕、お腹減っちゃったよ」
「そうだな。ギルドマスターよ、後日来るのでな。その時までには等級をハッキリさせといてくれ」
「あ、あぁ、わかった」
二人が帰った後、ギルマス、ロッシュ、アンナは腰が抜けたような有様になり、職員に抱えられるようにギルドマスターの部屋へと運ばれて行ったのである。
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