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氷の国の王子様

異世界物でチートはありますが、転移も転生もありません。


「……ん」


窓の外には一面真っ白な銀世界。ここはとある王邸の一室。


「う~ん……」


毛布から這い出し、少年――氷の国の第三王子であるシフォン・アイスランド――はベッドの上で背筋を伸ばした。窓から差し込む朝日は雪原を反射して輝いている。


氷の国の王子に相応しい、青白い髪の毛も寝起きなので飛び跳ねている。

9歳で中性的な顔立ちであるシフォンは女の子にも見えることがあるが、れっきとした男の子である。

シフォンがベットから立ち上がり、鏡の前に座ると侍女が櫛で髪をとかしてくれる。

シフォンは相変わらずウトウトしているが寝癖は整った。しかし、前髪が目にかかっていたので侍女がハサミで整えてくた。

その間に別の侍女が今日着る服を3点ほどセットで選んでくれていた。

また別の侍女が顔を洗うようのぬるま湯とタオルも準備してくれている。

シフォンは顔をぬるま湯で洗い、タオルを受け取り、顔を拭く。

ふわふわのタオルに癒されつつもとりあえず眠気は吹き飛んだ。

シフォンは用意された服から1つのセットを選び、侍女3人にお礼を言って部屋から出てもらう。

シフォンは窓の外の銀世界を見ながら、ゆっくり着替える。

着替え終わると、部屋を出た。向かう先は王邸の食堂である。


氷の国アイスランドの王家アイスランド家は家族団欒を大切にしており、朝は必ず、昼と夜もなるべく家族が集まり食事をとる。

シフォンが食堂につくと他の家族は全員集合していた。

マイペースなシフォンは家族を待たせることが多いが、許容範囲を超えることはないので怒られることはない。


「父様、母様、お兄様方、おはようございます」


とシフォンが丁寧な挨拶をすると


「おはよう、シフォン」


と口々に返答が返ってくる。

食堂の一番上座には王である父、シルヴァが座っている。

40代前半で立派な髭を蓄えており、王の威厳が備わった人である。

王から見て左側のテーブルの席の手前に座っているのが長兄リュークだ。

19歳の立派な青年で次期王として申し分ない才覚の持ち主である。

リュークの隣の席は次兄セルジュだ。

16歳のセルジュは柔和な美形の持ち主で、兄の助けになる人間になることを目標としている向上心の持ち主でもある。

この男性3人はツヤツヤの黒髪をしており、よく観察しないとシフォンとの血縁関係がわかりにくい。

王から見て右側のテーブルの席に座っているのは母でもある妃セレニアである

30代半ばの彼女はシフォンによく似た青白い髪の癖っ毛で、肩に着くぐらいの長さで整えられている。


つまり、シフォンのみ後妻セレニアの子であり、リューク、セルジュは前妻の子である。

少し複雑な事情はあるもののアイスランド家の面々は表立って気にしている様子はなかった。

シフォンがセレニアの隣に座ると、それを合図に朝食が運ばれてくる。

本日の朝食はトーストとベーコンエッグ、そしてポトフであった。

父シルヴァの号令で、家族が朝食を食べ始める。

和やかな家族団欒でまったりと時が流れる。

しかし、王や妃は忙しい立場だ、いつまでもこうしているわけにはいかない。

シフォン以外がほぼほぼ朝食を食べ終えたところで執事が入室し、本日のスケジュールチェックが始まった。

シフォンは食べるスピードですらマイペースであった。

食堂で、王や妃だけでなくシフォンら兄弟のスケジュールチェックまで行うのは王や妃である父と母の我が儘である。王や妃としては必要はないが、みんなの行動を把握しておきたい親心なのだ。

父と母は少し名残惜しそうにしながらも執事に話を促す。


父、母、長兄、次兄とスケジュールの確認が続き、最後はシフォンの番だ。

本日のシフォンの予定はセルニアの父、すなわちシフォンの祖父との氷の魔法の稽古であった。

シフォンの祖父の名はクレヴァス。

アイスランドどころか世界に名が轟く氷魔法の使い手で”氷の賢者”の異名が付けられている人物である。

シフォンの才能は王家の血よりもクレヴァスの血の方が濃いらしく、武芸、学問よりも氷の魔法に秀でていた。

大好きな祖父と得意な氷の魔法の稽古をする。

シフォンにとってもとても楽しみな1日であった。

執事からシフォンのスケジュール確認が終わると、シルヴァは笑みを浮かべ


「そうか。シフォン、頑張りなさい」


と短く鼓舞をした。シフォンも


「はい」


と微笑みを浮かべて返答をした。


---


シフォンたち王家が暮らしているところは王邸とは呼ばれているが、詰まるところ王城の中のプライベートスペースのことである。

アイスランド王城は城下町より少し高い岡の上に建っている。

その裏手にはすぐ山があった。

その山を少し登ったところに平らな土地があり、祖父クレヴァスはそこに居を構え住んでいた。

王城からは近いが、城下町からは少し遠い不便な場所である。

そんな場所に住んでいる理由のほとんどがシフォンの氷の魔法の稽古のためである。

クレヴァスは変わり者で、家族愛に溢れた男であった。


シフォンは1人の文官と数名の護衛を引き連れてクレヴァスの居住を訪れた。

クレヴァスを知らないものがクレヴァスを見れば、偏屈で頑固なジジイであるものの、シフォンにはとりわけ甘かった。

クレヴァスは60を超えて青白い髪の中に灰色の白髪も目立ってはきているが、腰が曲がることもなく、まだ立派な筋肉があり、引退したばかりの兵士かのような風貌であった。


「お祖父様〜、いらっしゃいますか〜」

「お〜、シフォンか、よくきたの〜」


シフォンは居住の扉を少し開け、シフォンにしては大声で祖父を呼ぶ。

奥の部屋から現れ、シフォンを持ち上げるクレヴァス。

溺愛している孫にデレデレではあるが、どこまでも声は渋い。

このままでは孫と祖父のいちゃつきが終わりそうになかったので、文官が声をかける


「クレヴァス様、そろそろシフォン様の稽古をお願いいたします」


少し、気分を損ねたような表情をしたものの、シフォンを降ろし「では準備をしてくる」と言って奥の部屋に戻って行った。


しばらくして、ローブを身を纏い杖を持ったクレヴァスが現れた。

いかにも”氷の賢者”な見た目だが、氷の魔法を使うのに適した格好なので、クレヴァスも魔法を使う時はこの格好をしている。

シフォンも同じような格好をしてきており、ある種ペアルックとも言える。

居住の近くで魔法を使うわけにも行かないので、山の麓まで手を繋いで散歩をする。

常冬の国アイスランド生まれのシフォンではあるが、長靴を履き、雪道を歩くのはいまだに楽しい。

長年この国で研究されてきた魔導ブーツは水を弾くので靴下が濡れることもない。

シフォンとクレヴァスは木が生い茂っているところの手前で止まった。

ここより先が山であり、ここがいつもの稽古の場所であった。

阿吽の呼吸でシフォンとクレヴァスが対峙すると静寂が訪れる。

9歳児の並の体力であるシフォンの呼吸が整うまでクレヴァスが待ってくれているだけなのだが、クレヴァスが喋らないでじっとしている沈黙の時間はそれを見ている文官や護衛にとって、とても気まずい時間でもある。

シフォンの呼吸が整うと


「よろしくお願いします!」


と、丁寧に頭を下げた。


「うむ」


とクレヴァスが応え、杖を掲げる。

クレヴァスが少し力むと杖の先が光だし、氷の蝶々が現れた。

シフォンも真似をして氷の蝶々を出す。

クレヴァスは蝶々を動かしつつ、氷で花を作り出し、そこに蝶々を止まらせる。

シフォンも真似をし、花を作り出し、そこに蝶々を止まらせようとするが、蝶々が羽を動かさず、スーっと花に止まった。少し、勢いがあったため、花が少し壊れてしまった。


「あっ」


失敗してしまってしょんぼりしているシフォンにクレヴァスが優しく語りかける


「焦らないで丁寧にゆっくりやるんだよ。これは魔法をコントロールする稽古だからね」


最近のシフォンの稽古はコントロールの稽古ばかりだ。

というのもクレヴァスとシフォンの魔力が強すぎて威力を求める魔法の稽古をすると、山も王城も壊してしまいかねないからだ。

シフォンが幼い日に山に向かって魔法を放った結果、雪崩が起きてしまい、少し離れているはずの王城の山側の窓が2階まで開かなくなるという事件が起こって以来、威力を重視した魔法の稽古は禁止になっている。


クレヴァスの助言で落ち着きを取り戻したシフォンは、また蝶々を動かす。

クレヴァスがシフォンの蝶々に合わせて、小鳥やウサギなどを氷で作り、リアルな動きを再現する。

シフォンも楽しくなってきたのか、リスやキツネを作り出す。

氷で作られた平和な森の日常の完成である。

シフォンとクレヴァスの間にはとても幻想的で美しい光景が広がっていた。

クラシックな音楽の幻聴が聞こえてくるような作品になりつつあった。

シフォンについてきた文官と護衛の1番の楽しみはコレである。思わず感嘆の声がでてしまう。

永遠の時に感じるそれも、幕引きはあっという間であった。


「クシュン」


シフォンのくしゃみにより、幻想的な光景は半壊。

クレヴァスも魔法をやめて、シフォンに歩み寄ったので、残りの半分も壊れてしまった。


「シフォン、今日の稽古はこれくらいにして家で暖かいココアでも飲もうか」


シフォンが頷いたので、クレヴァスはシフォンの手をとり居住へと戻って行った。

少し呆けていた文官と護衛たちもクレヴァスの咳払いで現実に引き戻され、後に続く。

シフォンたちが家に着くと、クレヴァスは護衛をアゴで使い、暖炉やココアを用意し始めた。

その様子を見ながら、シフォンは汗を吸って冷たくなっているシャツを脱ぎ、文官が持ってきてくれていた新しいシャツに着替えた。

着替え終わったところでクレヴァスからシフォンにホットココアが手渡される。

クレヴァスとシフォンのみ、ゆったりとしたソファーに座っているが、直に床に座っている護衛にも、シフォンのそばで木の椅子に座っている文官にもココアが行き渡っているあたり、クレヴァスの人間性が伺える。

しばらく誰も喋らない静寂な時間が流れたが、文官が自前の懐中時計を確認し、シフォンに尋ねる。


「シフォン様、これで本日の稽古が終了ということであれば、お昼ご飯と午後の予定はいかがいたしますか?」


文官からの問いにやや上を見ながら思考するシフォン。


「う〜ん。とりあえずお祖父様、一緒にお城でご飯を食べましょう」


とクレヴァスを昼食に招待した。

午後の予定を決めるのを後回しにする作戦である。

孫に甘いクレヴァスである。シフォンの誘いを断るわけもなく、城まで同行することになった。



シフォンがクレヴァスを伴い、王邸の食堂にたどり着くと既にいたのはセレニアのみであった。

クレヴァス来城の知らせを聞いた父と兄二人は気を遣って別の場所で食事をとるみたいだが、クレヴァスが少し距離を取られているみたいで寂しくなるシフォンであった。

クレヴァスとセレニアはそんなシフォンをさりげなく励ましつつ、昼食を始めることにした。

シフォンから見てもセレニアは朝より肩の力が抜けているように見えた。

父か長兄か次兄か、誰に対してかはわからないが母はいまだに多少緊張しているようだった。

仲の良い親子3代で談笑しつつも昼食を進めていた。

いまだに健啖家なクレヴァスも妃として早飯食いが習慣づいてしまっているセレニアもいつもよりゆっくり食べてるよう気をつけてはいたが、シフォンのマイペースには敵わなかった。

まだ少しモグモグしているシフォンに対してセレニアが問いかける


「そういえば、レスターが最近相手にしてくれないって拗ねてたらしいわよ」


レスターとはシフォンの乳母兄弟であり、大親友である。

シフォンとしては大好きな人の一人ではあるが、ここ最近は避けていた。

それはレスターが忠誠心と臣下の礼というものを学び、シフォンを主君扱いするからである。

少なくとも成人する15歳までは対等な関係でいたいと思っていたシフォンは苦手な勉強を優先してでもレスターと会わないようにしていたのだ。

レスターと会うべきか考え込んでしまったシフォンを見ながら、クレヴァスとセルニアは穏やかな表情で食後のティータイムを楽しんでいた。

クレヴァスもセルニアも、こういったときに口出しをしたりしない。

もちろんシフォンからアドバイスを求められたら応えるが、今はシフォンがどういう結論を出すのか楽しみに観察しているだけである。


シフォンが二人の表情に気づき少しため息をつくと


「わかりました。午後はレスターと稽古します」


と決心し、少し冷めてしまった昼食をまた食べ始めた。


この作品は不定期更新といたします。

2話は比較的早く投稿できると思いますが、それ以降は未定です。

『無属性チートと王家に守られてのんびり異世界で暮らします』共々よろしくお願いします。

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