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Footage5「粉砕のサルヴォ」

『マイグラント、今回のミッションは――

 待ってください、あなたに通信回線の応答を要求している信号が……

 ……わかりました、回線繋ぎます』


『やあ、これが君の連絡先で合っているかな。

 君の同胞、へレノールだ。

 随分苦労したよ、かなり高度な暗号通信を使っているようだな。

 なるほど、これだけの技術があれば所属の欺瞞など朝飯前というわけだ。

 ああ、すまない。普段は軍を指揮する立場である以上は無駄話を長々としていられないのでな。

 君に連絡をしたのは、ある仕事を頼みたくてね。

 誰かさんが加減をせずに暴れまわったせいで、こちらは城塞が陥落し、樹竜の多くを失い、世界樹まであと半分といったところまで攻め込まれている。

 そこで、だ。

 君には先行しているガイア製薬の部隊をいくつか壊滅させて欲しい。

 君が第三勢力として、ガイア製薬に肩入れしているのはよくわかるが……世界樹まで到達してしまったら、彼らの存在は邪魔になる。

 今のうちにバランスよくどちらも消耗させたほうがいいと私は思うが……まあ、引き受けてくれれば報酬は弾む。見たところ、君の後ろ盾は魔法には詳しくないようだからね。

 色よい返事を期待しているよ』


『通信、切断……

 同封されていた作戦指令書によると、あなたが断った場合はへレノールが単騎で殲滅するようになっているようです。

 自分の仕事を横流し……しかも、ガイア製薬に渡らないように最大限の注意が為されている魔法を報酬に、と……

 マイグラント、受けるかどうかはあなたに任せますが……どうか、警戒を怠らぬよう』
























 世界樹・樹海中部

 城塞内部に作られた即席の格納庫から飛び出し、作戦区域で樹海へ降下する。浅部よりも湿度が高く、地面には明確に水溜りが複数形成されており、森の匂いが強く舞い上がる。

『マイグラント、先行部隊は三地点に散在しています。その内の一つは、四脚が二体、更にガイア製薬幹部にして実働部隊の三番隊隊長、テュールが指揮している部隊です。

 今回の兵装はあなたが自分で選んだものですが……増援を断つという意味でも、他二つの部隊を排除してからテュールに挑むべきだと考えます』

 フィリアの言葉に従い、最も身近な、視界の右奥に展開している部隊へ駆け寄っていく。

「なあ、知ってるか?」

「なんだ?」

 哨戒している二足歩行兵器たちが雑談をしているようだ。

「樹竜を殺したのも、城塞を落としたのも、ガイア製薬のやつじゃないって噂」

「ああ、あれだろ?アースガルズの集落を焼き払ったり、採取に出た俺たちの仲間をぶっ殺したのも……そいつだって話だろ?」

「全く怖えよな。どっちにも牙を剥く第三勢力なんざ、アースガルズのボケ共よりよっぽど面倒――」

 喋りながら隣を見ると、先程まで雑談していたはずの同僚の胸部が極太の杭で貫かれている。

「ひぃっ……!?」

 杭が引っ込みながら、同僚の遺骸を盾にして突っ込み、直前で投げ捨てて頭を捕まれ、左腕の発振器によって首を断たれて絶命する。

『マイグラント、まだ周囲に敵性反応……』

「どうした?何か物音がしたが……!?」

 フィリアの通信を遮るように二体の二足歩行兵器が現れ、大破した同僚二体を見て即座に右手のアサルトライフルを構える。こちらは既に頭上を取って降下しつつ発振器を振って一体を両断し、続いて右手に持つ大型ニードルガンを撃ち、一撃でもう一体の頭部を貫いて即死させる。

「おい、あまり持ち場を離れるな」

 最後に隊長であろう四脚機兵が現れ、それを発見して即座にブーストによる急接近から蹴りをぶつける。四脚機兵がこちらを捉えて反応するより早く頭部のメインカメラに強烈な衝撃を与え、そのままフルチャージのパイルバンカーを胸部目掛けて叩き込む。爆発と独特な機構により、そのまま杭を射出して離脱し、残った杭が爆発して四脚機兵を瞬殺する。

 パイルバンカーに、三本用意された替えの杭が装填される。

『殲滅したようです。次の部隊の殲滅へ向かってください』

 ブースターを噴射して樹海を突き進み、続いて展開している部隊の下まで到着する。

「デルタ部隊の反応が消失している。城塞を落とした、“山猫”かもしれん。警戒を怠るな」

『ふむ……どうやら、今まで派手にしすぎたようですね。ガイア製薬があなたのことを、“山猫”と呼んでいるようです。オセロット、またはリンクス……とでも言うべきでしょうか』

 隊長クラスの四脚機兵を中心に、二体の通常の二足歩行兵器、そして浮遊している、軽装の二足歩行兵器が二体が展開しているようだ。

『マイグラント、どう仕掛けるかは自由――』

 フィリアの言葉を遮り、右肩の二連グレネードキャノンを発射する。軽装型は回避し、四脚機兵は怯むだけに留まるも、随伴していた通常型が吹き飛んで地面に身を投げ出し、重ねて発振器からフルチャージした光波を撃ち出し、その幅広い刃で軽装型を二体とも撃墜する。

「化物か……!?」

 四脚機兵は狼狽しつつも、左腕の実体ブレードを起動しながら、右手に持つ大型ショットガンを発射する。瞬間的な上昇で散弾を躱し、再装填の終わった二連グレネードキャノンを撃ち下ろして体勢を立て直しきっていない通常型に追い打ちをかけて破壊し、爆炎で四脚機兵の視界を遮る。

「ちっ……!」

 四脚機兵は瞬間的に判断して減速用のブースターを一気に吹かし、地面を引き摺るように強引に後退し、こちらが仕掛けようとしていたパイルバンカーの直当てを躱す。

「舐めるな!」

 真正面に捉えた四脚機兵がショットガンを発射し、ブースターを瞬間的に噴射して左へ避けるも、何発かが掠める。四脚機兵は胴体部だけを回転させて正面の向きを変えて、飛び込んで強引に実体ブレードをぶつけようとしてくる。そこでこちらは前に詰めて距離感を狂わせる。

「なっ――」

 チャージせずにパイルバンカーを当てて胴体部に穴を空けて強烈な衝撃で滞空させ、至近距離でその穴にニードルガンを撃ち込み、内部のパイロットを殺傷して機能停止させる。

『残るはテュールの部隊のみ……』

 フィリアの言葉に頷き、最後の部隊目掛けて急加速して向かう。

「テュール第三隊長殿、展開している他の部隊からのシグナルが……」

 随伴する四脚機兵が、あからさまに重武装の四脚機兵にそう言う。

「わかっている。もうじき山猫が来る。気を引き締めろ」

 テュールの声は明らかに若く、しかし自信に満ち溢れている。

「あの樹竜の群れを単騎で撃破したとすれば、相当な強者だ。ガイアの通常分隊では歯が立たないのも頷ける」

「……!第三隊長殿!噴射音です!何者かがこちらに急接近していると……!」

「ああ、了解した。楽しみだな……!」

 木々の合間から姿を現し、左後ろにいた四脚機兵目掛けて最接近し、胴体連結からの生命エネルギー衝撃波でそれを粉砕する。

「随分と豪快な登場だ」

 テュールが背部ブースターで前方に逃げ、四脚を展開しながら下部からブースターを吹かして滞空し、胴体を反転させて向かい合う。

『ガイア製薬第三隊長、テュールです!』

「空飛ぶ山猫か。面白いな」

 滞空したまま右手に持ったデトネイトバズーカを発射し、器用にブースターを制御して巡航しつつ、こちらが回避したところに左腕を振るって、歪なコンテナのような銃器から大量のミサイルのような子弾が放たれる。

『ハンドミサイル……!』

 フィリアの読みとは違い、しばし前進して滞空した子弾は指向性を持って弾け、ショットガンのように散弾を撒き散らす。

『……!?なんて面妖な武器……!』

 読みきれずにかなりの弾数に被弾し、そこへ生き残っていたもう一体の四脚機兵がグレネードを撃ち込んでくる。すぐに姿勢を戻して瞬間的にブーストしてグレネードを躱し、続けて実体ブレードを展開して斬り掛かってくる四脚機兵をフルチャージのパイルバンカーで撃ち抜く。

 そこへテュールのデトネイトバズーカが放たれ、こちらが飛び退いたことで四脚機兵にトドメを刺す形になる。更にテュールは右肩から大型ミサイルを発射し、それは緩やかなカーブを描きながらホーミングし、大量の子弾を撒き散らしながら進んでいく。左手の特殊ショットガンと異なり、こちらの子弾はそのまま落下し、爆発して広範囲を炎上させてくる。

 大型ミサイルはゆっくりと進み、すぐに着弾しないことによる圧力を長時間かけてくる。重ねて特殊ショットガンを撒き散らし、こちらの行動範囲を極端に制限してくる。追い込んだところにデトネイトバズーカを撃ち込み、こちらは瞬間的な上昇で避けつつ、脚部を掠めた爆風を耐えながら、一気にブースターを噴射して突進する。子弾から飛び散る散弾を突進の勢いで弾き飛ばしながら距離を縮める。

「なるほど、そういう戦い方もあるか」

 テュールはブースターを前に噴射して遠ざかろうとするが、慣性をつけたこちらの接近からの蹴りを叩き込んで逃さずに姿勢を崩させ、そこに発振器から光波を二発叩き込む。一発目は身体の制御で避けるが、二発目を仕方なくデトネイトバズーカの銃身を犠牲にして防ぐ。そこで彼の左肩から蒸気が吹き出し、突如として三本の砲身が展開して左肩に沿うように並ぶ。光波を撃ち終わった後隙を狙い、既にチャージの終了していた砲身から、極太のビームを照射する。

『避けてください!』

 咄嗟に左へ飛び退くが、右半身をビームに掠めて焼かれ、衝撃で高度を維持できずに落下し、だが大きく硬直したのはあちらも同じで、強引に身体制御を取り戻して急接近し、ニードルガンをマガジン分乱射しながらチャージしたパイルバンカーの杭を撃ち出し、テュールはギリギリで身体を動かしてコックピットを外し、右腕を犠牲にする。至近距離でテュールは前方二脚で蹴り飛ばしつつ自身も反動で後退し、両者着地する。

「あのへレノールを撤退させただけはある……流石に俺では荷が重いか」

 テュールはエネルギーバリアを形成しながら、脚部を変形させてブーストし、凄まじい速度で空を飛んで撤退していく。

『第三隊長テュールの撤退を確認……敵の残存なし。任務完了です』
























『お疲れ様でした、マイグラント。

 へレノールより、デブリーフィングのメッセージを受け取っています。

 再生します』


『やあ、君の同胞、へレノールだ。

 見込んだ通り、君は仕事を果たしてくれた。

 第三隊長テュール……彼は、火力補助において右に出るものはいない。彼を一時的に退かせただけでも、攻め手は相当鈍るだろう。

 最も、彼を使うにしても個々の分隊の位置が離れすぎていたように感じるが……

 まあ、今は君の成果を喜ぼう。

 報酬は、君の後ろ盾に渡してある』


『とのことです。

 約束通り、アースガルズ側の魔法のデータが送られてきています。

 次のミッションまでには、あなたが使いやすいようにしておきますので、期待しておいてください。

 ではマイグラント、ゆっくりとお休みください』

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