Critical Footage4‐2「メガロマニア・ハードポイント」
『マイグラント、城塞の攻略に移りましょう。
あなたがアースガルズ側の指揮官を排除したため、ガイア製薬が城塞前部防衛線を占領中です。
この機を逃さず、あなた単騎で城塞内に乗り込み、城塞の総指揮に就いているアースガルズ幹部の一人“へレノール”を排除してください。
ヘレノールは極めて高い戦闘能力を有し、ガイア製薬からも大いに警戒を示されている人物です。
これを排除できなければ、ガイア製薬は城塞を破壊しようとするでしょう。ここでの消耗は、後の戦況に大きく影響します。我々が世界樹へ辿り着く道程がより険しくなる前に……確実な遂行を、お願いします』
アースガルズ城塞
補給を終え、正門の前に立つ。
『もちろん、正面突破というわけにはいきません。ガイア製薬を無闇に刺激し、攻勢を早めれば無用な損失が増加しかねない
そこで、ここから斜め上方に移動し、中段の外廊下から突入し、へレノールが居ると思われる最上層まで一気に進みましょう』
言われた通り、上昇して城塞中段の外廊下に着地する。幸い哨戒の兵はおらず、平行移動の速度を保って城塞内部へ突入する。
『マイグラント、その通路を道なりに進むと、大きな格納庫が二つ続いています。その先に貨物運搬用のローテートテーブル式のリフトがあり、そこから上層部へ、ひいては最上層へ直接乗り込むことが出来ます』
通路を進み、左へ曲がって隔壁に到達する。
『私がハッキングします。少々お待ちを』
フィリアがそういう通り、原始的な装備だったアースガルズの拠点の割には、やたらと先進的な仕組みであり、彼女が順番に電子ロックを解除しているのがわかる。
『隔壁、開きます。警戒を、マイグラント』
身を引き締めると、隔壁の向こうから大量の弾丸が飛んでくる。ブースターを瞬間的に吹かして隔壁の隙間を潜り、換装した右腕に持つ大型ショットガンで至近にいた二足歩行兵器を粉砕し、左腕の発振器をチャージして振り抜き、巨大な光波を飛ばして完全武装した獣人たちを薙ぎ払う。遠くで大型のスナイパーライフルを構えていた獣人たちへ六段三連装ミサイルを全発射し、発振器と左肩のハンドミサイルを入れ替え、左へ高速移動しながらそれをばらまき、発振器へ持ち替えてからスナイパー獣人たちへ急接近し、意を決して放たれた弾丸を蹴り飛ばして打ち返し、流れ弾で一人撃ち抜く。発振器から刀身大の光波を飛ばして二人目を切り裂き、三連装ミサイルが退路を断ちつつハンドミサイルの雨が追撃して粉砕、殲滅する。着地しながら次の区画の隔壁の前に立つと、フィリアの声が聞こえる。
『隔壁の解除に移ります。安全の確保を』
それに続いて、格納庫内のスピーカーが鳴る。
『随分、派手に戦っているようだ。我々が排除する予定だったガイア製薬の分隊を単独で撃破するだけでなく、我々の拠点の一つを焼却し、この城塞前の樹竜でさえ、ガイア製薬ごと軽く殲滅した……そのうえで、ガイア製薬の顔をしてここまで来るとはな。どちらにつくでもない第三勢力だけあって、なにか突出した実力と覚悟があるようだ』
優しげな男の声だが、確かな自信と経験、僅かな諦観を感じ取れる。
『この声は……間違いありません、へレノールのものです。……マイグラント、隔壁、開きます』
次の隔壁が開くと、先程よりも広大な格納庫が現れ、そして巨大な二足歩行兵器が出迎える。それには逆に折れた特徴的な脚部と、翼のようなヒレのパーツが二つ、腕のようについていた。
『これは……!ガイア製薬の上級特務機体、ヴォジャノーイです!』
ヴォジャノーイは頭部の口と思しきパネルを開き、あからさまにエネルギーをチャージしてからビーム状にプラズマを投射する。右へ素早くステップして躱し、頭部を振り上げきる動作にチャージした光波を叩きつけ、ヴォジャノーイは気にも留めずに飛び上がり、踏み潰そうとしてくる。
『マイグラント、この程度の機体ならばあなたの敵ではありません』
踏みつけを前方への噴射で後方へ飛んで躱し、先程光波が当たってヴォジャノーイの顎部にショットガンを撃ち込み、光波が刻まれた傷跡がより醜く変形する。
『上級特務機体……ヴォジャノーイは強力な機動力、巨大な火力、陸海空兼用……それらを全て兼ね合わせますが、汎用性の代償として非常に装甲が脆い』
ブーストでヴォジャノーイの背後に回り込みながら、持ち替えたハンドミサイルを撒き散らす。既にロックオンしていた頭部カメラにミサイルを集中して叩き込んで視界不良に持ち込む。
『流石に一般的な二足歩行兵器には負けませんが、四脚が数体集まれば大破に追い込むことが可能です。あなたの実力と、私の用意した武装があれば……』
瞬間的なブーストで股下を潜り抜け、再びショットガンを同じ部位に叩き込み、急上昇して蹴りをぶつけて装甲を剥ぎ取り、至近距離でチャージした光波を叩き込んでヴォジャノーイの首を切断する。
ヴォジャノーイは制御を失い、後方へ豪快に倒れる。
『上級特務機体、ヴォジャノーイの撃破を確認……流石です、マイグラント』
そのまま先へ進み、円形のリフトにまで到達する。
『リフト、起動します』
フィリアの声と同時にリフトが上昇を始める。
『それにしても……先程の音声はへレノールのものでしたが、私たちの侵入に気付いたのならば、増援を至急向かわせるはず。あれほど余裕を持って、我々の印象を語るなど……どういう意図があるのか読めません。ただ……間違いなく待ち伏せされているでしょう。警戒を、マイグラント』
頭上のパネルが開き、青空と陽光が差し込んでくる。やがて上昇しきり、屋外の広場に出る。
『……!? マイグラント、回避を!』
言われるまでもなく殺意を気取って前方へ飛び、転がりながら反転して上へ視線を向ける。元々立っていた場所には大斧が突き刺さっており、一拍遅れて白いフルアーマーの騎士が着地し、立ち上がりつつ右手で大斧を掴んでこちらを向く。
「やあ。私はへレノール。まあ……この城塞の、主と言ったところだ」
スピーカーから聞こえたのと同じ、優しいながらも潜った修羅場の多さを想起させる声がする。
「それにしても……驚いたな。先の報告にもあったが、本当に全て独自規格の兵装だ。弾頭こそガイア製薬のものを流用しているようだが……光波の発振器など、ロストテクノロジーレベルだな」
『マイグラント、長話は……』
こちらが戦意を見せるように僅かに動くと、それを察したへレノールが腰の右に佩いていた長剣を抜く。
「まあ、そう急くな。私からすれば、こんな城塞はさっさとガイア製薬に渡してしまったほうがいい。それよりも……」
左半身を引き、右に持った大斧をこちらに向けるように構える。
「君は、何のつもりでこの世界に来た」
彼の鎧の隙間から、目も眩むほど昏い蒼の粒子が漏れては立ち上る。
「渡り鳥……いや、狂人と言うべきか」
『ッ……!?通信を傍受されて……!?
……いえ、その形跡はありません……ではなぜ……?』
動揺するフィリアを余所に、へレノールを続ける。
「まあいい。戦い、勝ち残り、自ら選んだものだけがこの世界を進めるのなら……私は、君を打ち砕くだけだ。
さあ、行くぞ!」
へレノールはわかりやすく大振りに大斧を振りかぶり、こちらは三連装ミサイルを撃ちながらホバーで後退していく。間もなくへレノールは凄まじい踏み込みとともに薙ぎ払い、それを光波を纏わせた発振器で往なし、続いて飛び上がってから大斧を叩きつけ、前方五方向に巨大な斬撃を発射する。避けきれずに一発直撃し、大きく姿勢を崩される。続く大斧のフルスイングを受けて後方に激しく吹き飛ばされる。
『この剛力……!魔法による強化限界を遥かに超えて……!』
「君はどうだ、狂人。君は自ら選んで私と戦っているか?」
姿勢を戻しつつ、長剣による薙ぎ払いからの切り返しで斬撃が飛んできて、回避のために上昇しつつもハンドミサイルを撒き散らし、へレノールは力を込めて大斧を身体ごと一閃し、生じた強烈な力の波濤でこちらを撃ち落とそうとする。一瞬だけ大きく噴射して上昇することで躱し、今度はブースターから一気に噴射して一直線にへレノールへ突っ込む。
振り切った後隙にショットガンを直撃させてよろけさせつつ、勢いを付けた蹴りで一気に吹き飛ばす。そこにチャージしていた光波を続けて叩き込み、鎧の胴体部分に大きな切創を刻む。
「中々やるな……!」
彼から噴き出る粒子の量が増し、鎧を修復する。
『この程度の修復ならばガイアの緊急補修や回復魔法でも出来る……けれど、プラズマ以上の切断力を持たせたはずの光波であれだけしか削れないなんて……』
「君はアースガルズを、文明を拒んだ偏屈な集団だと思っているだろう。殆ど正解だが……少し疑問に思わないか。なぜ……アースガルズの祖先は自分たちを電子化して、植物に移植しようなどと考えたのか……」
『マイグラント、これは彼の精神攻撃だと思われます。無視して戦闘を続行してください……』
ショットガンを撃ち込み、へレノールは大斧を盾にして弾き、輝きを帯びた長剣を突き出して超高速の光線を撃ち出す。反応できずに反射で身を捩り、右肩の三連装ミサイルが粉砕される。姿勢を戻しながら光波を二つ放って防御の硬直を延長させつつ、僅かな距離に対して大幅に燃料を注ぎ込んで急接近して蹴りを繰り出す。だがへレノールは完璧なタイミングで大斧で爪先を弾き、こちらの隙を強引に作り出す。
「残念だ……!」
『マイグラント!』
だがこちらも好機とばかりに胴体部を自身と接続し、生命エネルギーを変換して莫大な衝撃波を起こす。へレノールは当然回避できず、堪えきれずに大斧を取り落としながら激しく吹き飛ばされる。長剣を床に突き立てて堪えるが、既に動いていたこちらの蹴りを受けて更に吹き飛び、更にショットガンを受けて膝をつく。
『止めを!マイグラント!』
「やるな……凄まじい圧力だ。とても目的のない無法者からは感じられないほどのな……!」
再びブースターの噴射で距離を詰め、発振器を全力で稼働させて光波でブレードを形成して斬りかかる。
「だが私にも成すべきことがある……!」
ブレードが振り下ろされた瞬間、へレノールの身体は蒼い蝶の群れになって消える。
『目標の反応、消失……!?周囲にも同じような反応は検出できません……』
周囲を見渡すと大斧も消えており、へレノールという男の痕跡が丸ごと全て消えたようになっていた。
『取り逃がしたようですが……一先ず、へレノールの排除には成功しました。
ガイア製薬へはこちらで連絡しておきます。帰投してください、マイグラント』
『城塞の制圧、お疲れ様でした。
へレノール……私以外に、あなたのことを渡り鳥と呼ぶ者がいたとは……それに、あなたが狂人であることも見抜いていた……
ふむ。マイグラント、あなたはどうですか?
彼と交戦する中で、何か感じ取れたことはありますか?
……
失礼。私以外があなたをそう呼ぶのが、少々不快でして。
ともかく、これで本格的に世界樹へ接近する目処がつきそうです。
では、私はこれで。
ミッションのより安定した遂行のために、装備を見直そうと思いますので』