Interlude「屍山血河の昔話」
『マイグラント、起きてください』
暗闇の中、フィリアの声が聞こえる。
『右腕の調子はどうですか?私のスキャンによると、傷も癒え、接続部の修復も完了していますが……あなた自身の感覚としては如何でしょう』
見えないが、右手を振ったり握ったり開いたりしてみせる。
『問題なさそう……ですね。
ああ、今回はミッションのブリーフィングではなく、あなたにその傷を負わせた、あの少女についての話をしようと』
視界に仮想モニターが現れ、先の戦闘中に撮影していたのだろう、片耳の少女の画像が表示される。
『この世界の伝説、お伽噺に語られる、怨愛の修羅……それは彼女のように、片角の鬼であった……と、言われています。
平和の兆しが現れた世界に不意に現れ、全てを焼き尽くして滅ぼし、新たな生命の芽吹きを促す、世界の自浄システム……
私も確信を持っているわけでは有りませんが、私に蓄積された情報を元に考えれば、彼女がその、怨愛の修羅である可能性は極めて高いです。
ですがこの世界は平和とは程遠い……現に私たちが関わっているように、知恵を持った生き物たちがそれぞれ徒党を組み、限りある資源を巡って永遠に戦い合っている……』
フィリアが溜息をついて、なお続ける。
『マイグラント。彼女がもし本当に、怨愛の修羅であるのならば……あれは、生き物には止めようのない自然災害のようなものです。
倒すべき敵ではなく……遭遇してしまったら不運だったと諦めて逃げるべき、天災です。
万が一再び遭遇した場合は、生存を最優先してください。
話は以上です。次のミッションまで、ゆっくりと休んでください』
仮想モニターが消え、フィリアの声が遠ざかる。