Footage3「樹竜狩り」
『マイグラント、次のミッションです。
あなたもこの世界には慣れてきた頃でしょう。そのため、今回は手頃な大物を目標とします。
目標は樹竜。樹海に住まう、大型の竜種ですが……樹海の木々に干渉し、根を急成長、地表に露出させることで攻防に使用する、危険生物です。
また背中には木や植物などが繁茂し、一つの独立した植生を形成しており、個体によっては毒や植物の性質を利用した防御手段を有しています。
現在、ガイア製薬が、アースガルズの重要拠点前に複数体配備された樹竜を撃破する作戦を立てています。
この樹竜は自らの意思でアースガルズと協力状態にあるようであり、樹海の深部を目指すのなら避けては通れない障害となります。
火力に優れた重装備を支給しますので、確実な撃破をお願いします』
世界樹 樹海浅部・城塞街道
一方通行のドローンに身を委ねて、樹海の上を飛翔する。
『なお、ガイア製薬からの攻撃は考慮しなくて構いません。こちらのハッキングにより、彼らの友軍識別機能を欺瞞して、あなたを友軍と認識させるよう工作しています』
間もなくドローンから切り離され、慣性で前方へ流される。樹海へ潜り、木々の隙間を抜けて、遠く前方に巨大な城塞を望む、広い街道に到着する。
『ミッション開始――!?』
フィリアが驚く。それも宜なるかなというべきか、前方には既に複数の樹竜の亡骸と、ガイア製薬の兵器群の残骸が大量に用意されており、お互いに全滅という言葉が相応しい惨状となっていた。
『これは一体……』
最も近くで死亡していた樹竜の鼻先に、人間の少女が立っている。焼き裂け、煤けたワンピースセーラーに、脇差を右手に、古風な六連装を左手に持ち……そして何より、兎耳を生やしているのが分かる。しかも、右耳だけだ。左耳は外部要因によって千切れたように見える。
『……来たぞ。この世界の、戦いの火種だ』
あちら側の電子音声か、それとも何かの魔法か、片耳の少女から男の声がする。そして少女は振り返り、吸い込まれるような濁った金色の瞳をこちらに見せてくる。
「……」
『……ふむ、殺気も闘気も凄まじいな。彼なら、僕たちの望みも果たしてくれそうだが……どうする?』
少女は身動ぎ一つせず、男の声が続く。
『……そうだな。全ては戦いで決める……!』
少女は全身から赫々とした炎を発して加速し、真っ直ぐこちらへ向かってくる。
『マイグラント!応戦を!』
こちらは胴体部の装置に自身を直接連結させ、励起させた生命エネルギーを解放して強烈な衝撃波を発して反撃する。少女は衝撃波の中を強引に突っ切り、脇差を突き出してくる。左腕のパイルバンカーを構え、脇差を甘んじて肩口で受けながら少女本人を狙って突き出す。しかし少女は脇差を刺したままその場で飛び上がって躱し、空いた右手から火球を投げ飛ばして直撃させ、爆発で押し込んでくる。少女は着地しつつ、脇差を右手に戻して六連装のトリガーを引く。明らかに装弾数を超え、しかもフルオートでマシンガンのように弾丸が高速で吐き出される。左肩に装着されたエネルギーシールドを展開してそれを受け止め、ブースターを吹かして右にホバー移動しながら、右手の重機関銃をフルオート連射し、重ねて右肩の二連四連装ミサイルを斉射する。少女は六連装を戻しながら脇差を地面に突き立て、全身に帯びる赫々たる炎で弾丸を焼却しつつ、脇差を振り抜いて前方の広範囲に熱波を起こす。こちらは飛び上がって躱し、一気にブーストを噴射して急接近し、慣性を使って滑りながら蹴り込む。が、脇差によって完璧なタイミングで弾き返され、左腕に装着している籠手に備えられた鞘に脇差を収め、瞬時に爆発させて抜刀し、斬られたことを認識できないほどの速さによる居合抜きで右腕を斬り飛ばされ、その衝撃で後方に吹き飛ばされる。
『マイグラント!?くっ……そんな、あなたでも……』
少女はゆっくりと姿勢を戻す。
『……少なくとも可能性はある。トドメを刺す必要はない』
相変わらず少女は反応を示さず、踵を返して飛び去っていった。
『敵性生物、撤退していきました……マイグラント、大丈夫ですか……?』
右肩口からは夥しい出血が起こり、切断されたパワードスーツからは白煙とスパークが絶え間なく発生している。
『すぐに回収に向かいます。幸い、周囲の生物反応はないので……なるべく体力を消費しないようお願いします』
『お疲れ様でした、マイグラント……
ミッション自体は成功です。撃破目標であるアースガルズ側の樹竜は全滅していました。
あなたの右腕は、こちら側の治療できちんと元に戻しています。次のミッションに支障はありません。
それと、あなたを襲撃し、樹竜、ガイア製薬の部隊を壊滅させたあの少女……
……マイグラント、あなたは“怨愛の修羅”……の、お伽噺を知っていますか?
地獄より来たりて、絶えぬ戦火を撒き散らす、片角の鬼……
または、宇宙の核より差し伸べられた、救いを齎す滅びの白い鳥……
考えすぎなのかもしれませんが、私のデータベースでは、彼女こそが……
いえ、憶測に過ぎませんね。聞き流してください。
ともかく今回は……よく、休んでください……』