「オープニング」
※この物語はフィクションです。作中の人物、団体は実在の人物、団体と一切関係なく、また法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。
怨愛の修羅。
片角の鬼。
滅びを齎す白い鳥。
この世界の理、規範に従う存在ならば、生命はもちろん、あらゆる物質、気体、液体、事象に現象に至るまで、全てがそれを知っている。
安定し、進化を放棄することを認めない、争いという相互作用それそのものの化身。
我々は止まれない。
治世を完成することを許されない。
闘い続ける歓びを、強要されている。
……
…………
………………
『ようこそ、狂人よ』
視界が復旧し、しかし完全な暗黒で満たされた向こうから、声が聞こえる。
『あなたの帰還を、心よりお慶び申し上げます』
声は丁寧な女性のもので、恐らくは電子音だろう。
『私の名前はフィリア。あなたのような、たった一つの目的を持ってここに迷い込んだ方の、サポートを担当しています』
フィリアは続ける。
『あなたは、何が起きてここまで来ているか把握しているでしょうが、一度、説明を聞いていただきます』
視界に仮想モニターが表示され、映像が投影される。片兎耳の少女と、紅いツインテールの女性が凄絶に争っているもの、黒い球体と、黄金の竜人が戦っているもの、大柄な優男と、軍服を纏った赤髪の男が拳を交えているもの。そのどれもが凄まじい攻防で、もはや戦っている者たちの姿を視認するのさえ不可能に近い。
『この世界は演算世界ではない。あなたが狂人であるならば、きっとこれがどういう意味なのかお分かりでしょう。たとい、この映像の意味が理解できなかったとしても大丈夫です』
モニターが消え、視界が開けていく。可視光で顕になったそこは、真四角の閉鎖空間だった。
『では早速、実際に身体を動かしてみましょう』
眼前には2mほどの二脚歩行兵器が現れ、右手にアサルトライフル、左前腕部に何かの装置を装着している。
『ご自身の兵装をご確認ください』
言われるがまま下を向いて両手を確認すると、自身の両手は龍鱗で紡いだ鎧のようであり、左手にバックラー、右手に長剣を持っていた。
『生物の機能上、新たな身体に即座に対応するのは困難です』
兵器が徐ろに右腕を構え、トリガーを引いて弾を撃ち出す。咄嗟にバックラーで防ぐと、弾丸はゆっくりとテンポを取るように緩慢な速度で吐き出されており、バックラーで弾丸を弾き返しながら斜め前転で前に出て、大きく円を描くように走って弾丸を避けつつ、一気に側面から駆け寄って長剣を振る。一発目の袈裟斬りがアサルトライフルに当たって切断しつつ、もう一歩踏み込んだ一撃が届く寸前で兵器が左腕の装置を起動し、光線で形成されたブレードを生み出して受け止める。押しきれずに切り返され、飛び退いて体勢を整える。
『ふむ、良い反応速度です。戦闘を継続しましょう』
兵器は猛然と駆け寄り、斜め前方に飛び上がってブレードを振りかぶり、鋭く踏み込みながら振り抜く。それに対して直上に飛び上がり、落下しつつ直剣を振り抜いて左腕をブレードごと断ち切る。兵器はコントロールを失い動力系に誘爆したのか、膝から崩れながら爆散する。
『基本技能はこれで充分でしょう。フィリアは、この世界でのあなたの活躍に期待しています』
やがて、再び視界が暗黒へ落ちて行く。
だが、それが何だというのだろう。
命はいつか尽きる。
それを使って好きに生き、理不尽に死ぬ。
人生そのものが、抗いがたい“闘い”であり、
生きるという“歓び”だろう。
もし何かこの理論に不備があるのなら……
きっと最初からイカれているのだろう、
世界の方が。