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悪役令嬢だったらしい3

 情緒不安定になった母親の看病はメイドたちに任せ、私は向かいの席に腰を下ろした。すかさず公爵家のメイドがお茶を出してくれるところは、さすがだわ。


 私の身の回りのことはジーナが請け負っているけれど、他人の家で勝手に振る舞うわけにはいかない。ジーナは黙って私の後ろに立った。


「ねえジーナ。お父様は、このことを知っているの?」

「はい。セドリック様が連絡なさいました」


 父親は仕事の都合で、一足先に王都を訪れていた。後から来た私達が魔獣に襲われたと聞いて、さぞ心配したことだろう。うちの領地から王都までは、普通なら安全な道のりだもの。


 ジーナによると、父親はいま魔獣に襲撃された件で王城へ行っているらしい。私達は父親が迎えに来るまで、ここで待つ予定になっている。


 少し頭の中を整理したくなったわ。すでに一周目の人生とは違う展開になっているから。


 とりあえず、私はどう動けばいいんだろう。

 またグリムに利用された挙句、誰にも顧みられない末路になるのは嫌だ。グリムが撒き散らす鱗を避けたいけれど、見えないものをどうやって避ければいいの?


 もし私が一周目と同じく聖女になる令嬢に嫌がらせをしたら、グリムに操られていると言ってもいい。手遅れになる前に手を打たないといけないわ。


 グリムが聖女を憎んでいるのは、操られている時に知った。聖女と一緒にグリムを封印した王家の人間も、恨みの対象よ。一周目でグリムを再封印しに来たのは、新たに聖女になった令嬢と、王太子、セドリック、あと三人ぐらいいたのは覚えている。グリムは彼ら全員を殺してしまいたかったけれど、乗っ取った私の体では勝てないことが分かりきっていた。だからまず聖女になったばかりの令嬢を狙ったのよ。


 つまり私はグリムから見て役立たずだと思わせれば、心を侵食される被害を防げるかもしれない。役に立たない人間を道具にして操るなんて、無駄な行動だもの。グリムにそう思わせるには、聖女や王家と接点をなくせばいいのよ。


 新たに聖女に選ばれるのは、子爵家の令嬢だったわね。我が家と交流している家ではないけれど、娘がいることは当時から知っていたわ。私から名指しでお茶会に誘ったりしなければ、今後も関わる確率は低いと思う。


 私は危険を回避できる可能性を感じ始めていた。


 次は王太子ね。


 伯爵家の私が王太子と交流する機会は、ほぼ無い。大規模な夜会で姿を見かけるぐらいよ。もちろん会話なんてしたこともないわ。王太子も私の顔は知らないと思う。ひとまず放置しても大丈夫そうね。


 それで、問題はセドリックよ。彼は私の婚約者。公爵家の子息で、彼の父親は現国王の弟。だから王太子の従兄弟にあたる。こう書くと、なかなか由緒正しい生まれだわ。


 公爵家のセドリックと伯爵家の私が婚約しているのは、たぶん政治の事情とかが絡んでいる。父親に尋ねたことはないけれど、貴族の結婚だから外れてはいないはず。


 一周目に出会ったセドリックは、有能さを評価されて王太子の補佐をしていたみたい。王太子の代理で遠方へ赴くこともあった。新聖女が役目を果たせるように訓練計画を立てていた、なんて聞いたこともある。


 セドリックと一緒にいると、新聖女や王太子と遭遇する可能性が一気に高くなりそう。それにセドリックも王家の血筋よ。


 じゃあ私が平穏に暮らすためには、まずセドリックとの関係を見直さないといけないってこと?


 私が領地から王都へ来たのは、結婚に向けてセドリックと仲を深めるため。


 一周目のセドリックは優しかったけれど、どこか婚約者の義務だからやっているという態度が滲んでいた。私への好意は低い。そこを利用すれば、交流回数が減らせるかもしれない。


 新聖女がグリムの結界を強化するまでは、必要最低限の交流にしておいた方がいいわ。


 方針は決まったけど、肝心の作戦が思いつかない。


 セドリックを避けすぎて婚約を白紙にされるのはまずい。結婚は私だけの問題じゃない。家同士に繋がりが生まれるのだから、慎重にしないと。貴族の確執は怖いのよ。


 セドリックの両親、ベルレアン公爵夫妻は人格者かつ社交界に影響力があるから、敵に回すような真似はしたくない。


 いきなり難題にぶつかった気がするわ。

 知恵を総動員して悩んでいると、公爵家のメイドがサロンに入ってきた。


「セドリック様がお帰りになられました。メルシェローズ伯爵もご一緒です。レティシア様がお目覚めなら、同席してもらいたいとの仰せです」

「私も?」


 ねえ、帰って来るのが早くない?

 私、あなたを避けたくて、対策しようと思っていたところなのよ。

 どうしよう。まだ何も策が浮かんでないわ。

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