ルール破りの本屋さん
カカッと音を立てて白いチョークが黒板の上を駆けていく。
授業の時間は退屈だ。
頬杖を突き、数式をノートに書いていく。
私は五教科の中で算数が一番苦手だった。
わからないことがあれば、その都度計算が速い葛乃に教えてもらっている。
葛乃からお爺ちゃんが亡くなったことを聞いたのは、二人で大冒険を行ってから二ヶ月が経過した後だった。
葛乃自身もお婆ちゃんから直接聞いたわけではなく、別居しているお父さんから家に電話がかかってきて知ったらしい。
亡くなってから伝わるまでに約一週間かかったのだという。
その話を聞き、どうして両親に頼ることができなかったのかを理解した。
あの後、私たちはたくさん話をした。
好きなお菓子や本、私は詳しくなかったが芸人やドラマの話など。
葛乃は本を読む習慣がなかったが、お爺ちゃんを理解したくておすすめの本を借りたのだという。
葛乃のお爺ちゃんは私たちのやりとりを微笑ましそうな表情で眺めていた。
「そういえばどうして私じゃないといけなかったの?」
ふと当時のことを思い出して、私は隣の席に座る葛乃にそう質問する。
先月行われた席替えで偶然隣の席になった。
小声で呼んだおかげか先生には聞こえていない。
「あれ、背が高い人じゃないと届かないでしょ?」
葛乃がチラリと横目でこちらを見る。
「そうだけど」
たしかにあの高さは葛乃には届かないだろうが、他にもインターフォンを押せるぐらいのクラスメイトはいる。
断られたとしても私だけを頼りにしていた理由がわからない。
「それにね」
葛乃が口元に手を当てて目を背ける。
「お爺ちゃんが言ってたの。本が好きな人と自分の勝手を聞いてくれる人は貴重だから大切にしなさいって」
照れた様子で葛乃がそう続けた。
「五味さん。授業中は静かにしてください」
手を止めて先生が言う。
「すみません」
葛乃はギリギリ先生に届くぐらいの声量で言うと口元を歪ませた。
先生がため息を吐き、背中をこちらに向けて板書を再開する。
私も葛乃も他人からの印象は変わっていない。
「……ねえ、帰りにあそこの本屋さん行かない?」
学区外に出る大通りにある老夫婦が営む本屋。
読む本がなくなると、私たちはそこへ行って新しい作品を探した。
他にも本を売っているお店はたくさんあったが、老夫婦の優しさや店内の雰囲気が好きでそこへ通っている。
家に帰っても親がいない私たちは、寂しく暇な時間を潰すため機会があれば必ず本屋へ足を運んでいた。
「いいね。菊莉のおすすめ教えてよ」
「うん。任せてよ」
こくりと頷き、視線を前に向ける。
訝しげな表情をする先生から目を背け、まるで算数の話をしていたかのように頭を捻りながらノートの上で鉛筆を走らせた。




