押し付け合い
「これ、あげる」
給食の時間が始まってから十分経過した頃、五味さんがそう言って私の机にデザートのプリンを置いた。
「え……」
突然のことで動揺した私はそれしか言えなかった。
少し思考を巡らせて、昨日の出来事が頭に浮かんだ。
「どうして?」
「いいから」
「……いらないです」
今日の給食が楽しみだと感じるくらいプリンは好物だったが受け取ることはできない。
ダシにして私を学区外に連れて行くつもりだろう。
貰ったら、後で「プリンあげたじゃん」と言われるに違いない。
それに誰かに給食をあげること自体いけないことだ。
食べたいという気持ちをグッと押し殺してプリンを五味さんに突き返した。
「嫌い?」
「そうじゃないけど」
「じゃあ貰ってよ」
差し出したプリンを五味さんは受け取ろうとはしなかった。
背中に手を回して顔を横に振っている。
何があっても私に押し付けようという固い意志が感じられた。
給食を食べる先生の様子を伺いつつ、私は行き場を失ったプリンをトレーに乗せた。
「……それより、あの後どうしたんですか?」
スプーンを使ってスープを呑みつつ問う。
正面に座る女子生徒が私たちの話している姿を物珍しそうな目で見ていた。
昨夜は五味さんのことが気になってしまい読書に集中できなかった。
頼みごととは一体何なんだろうか。
もしかしたらとても重要なことだったのかもしれない。
期待を裏切られてショックだったはずだ。
考えれば考えるほど罪悪感が大きくなっていった。
帰るにしても「ごめんね」くらいは言えばよかったと後悔もしていた。
悪ことをしたから謝るのではなく、相手を傷つけてしまったら謝るのだとお母さんも言っていた。
「どうしたのって。私も帰ったよ。私一人で行っても意味がないし。大浜がいなくなったら帰るしかないでしょ」
「……そうなんですか」
どうして五味さんがそこまで私にこだわっているのかわからない。
親にも他のクラスメイトにも頼めない用事とはなんだろう。
どれほど考えても思いつかなかった。
「……とにかくこれは貰えないです。先生に怒られるし、仮に貰ったとしても学区外には出られないから」
「私プリン嫌いなの。もし先生に見つかったら私に押し付けられたって言っていいよ」
「でも」
「もしいらないなら隣の男子にでもあげれば」
五味さんが言うと、私の隣に座っていた坊主頭の男子生徒が首を刻々と上下させた。
彼はよく他の生徒から牛乳やデザートをもらっていた。
一度見つかって怒られていたが、それでも止める気はないらしい。
「それじゃあ私は戻るから」
「ちょっと待って」
私の言葉も聞かずに、五味さんは自分の席へ戻っていってしまった。




