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昔の話

信号が点滅して私たちはブレーキを踏んだ。

たくさんの車が目の前を通り過ぎていく。

文化祭に出す文芸誌の話に夢中になっていて信号が変わりつつあることに気が付かなかった。

 

今年はおすすめの小説をまとめた冊子と自作の小説を纏めた冊子を一冊ずつ出す予定だ。

作品の構想は決まっていなかったが、冊子のテーマは決まっている。『出会い』だ。

私と葛乃の作品が二つ、他の部員の作品が一つ掲載される予定だった。


「この辺も随分と変わったね」

 

自転車のハンドルの上で頬杖をついて葛乃(かつの)が呟く。


たしかにだいぶ変わった。


横断歩道を渡った先にあった本屋もその隣の喫茶店も私たちが中学へ進学した年になくなってしまった。

高校に入る直前、そこにはコンビニが立ち、その間にも様々な店が出入りを繰り返していた。


「そこにあった本屋さんによく行ってたよね」

 

正面のコンビニを指差して葛乃に言う。


七年前まであったその本屋は老夫婦が営んでいた個人店だった。

本を安くして貰ったりなかなか手に入らない小説を取り寄せて貰ったりと良くして貰っていた。


「二人で学区外に出た話、覚えてる?」


「覚えてるよ。あの後ママに凄く怒られたからね」

 

私の問いに悩むことなく葛乃はそう返した。

 

今となっては通学路になったこの大通りを葛乃と通ると必ず思い出す。


私たちがまだそれほど仲良くなかった頃にした冒険の話だ。

小学生だった私たちにとってこの大通りはとても広く不気味なものに見えていた。


ただ横断歩道を渡っただけなのに知らない国を歩いているような感じだった。

建物が高く感じられたし、通り過ぎる人はみんな怖い人に見えていた。


「あの時、菊莉(きくり)を頼ってよかったよ。おかげで後悔しなくて済んだ」

 

葛乃が私の目を見て微笑んだ。私も葛乃の願いを断らずにルールを破ってよかったと思っている。


もし私が意地を張っていたら、今の関係だってなかったかもしれない。

葛乃がいなかったら、私の人生は正しさだけが残る暗いものになっていただろう。


「変わったよ」

 

葛乃はそう言って信号機を指差し、勢いよくペダルを踏み込んだ。

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