ラストバトル
「よくぞここまでたどり着いたと誉めてやろう。よもや独りでこの魔王城に乗り込むとは、勇者の名に誤りはないということか」
闇を体現したかのような漆黒の衣をまとい、魔王は玉座の高みから招かれざる客――勇者を見下ろしていた。勇者は精霊の加護を受けた蒼い鎧を身に着け、その手の剣は淡く真白の光を放っている。魔王を滅ぼすことのできる唯一の武器、聖剣を携え、数多の苦難を乗り越えて、勇者は今、独り魔王の前に立っていた。
魔王は異界より現れ、地上の魔物を瞬く間に支配下に置き、突如人類に戦いを挑んだという。その出自も、目的も、何もわからぬまま人類は魔王との戦いを開始した。魔王に支配の意志はなく、おおよそ全てを殺し、破壊することが目的としか思えぬその態度には和解も妥協の余地もない。掃き清めるがごとく人々を殲滅していく魔王の軍勢を前に、人々は神に祈るより他に為す術はなかった。神は人々の祈りに応え、ひとりの若者を地上に遣わした。若者は聖剣を手に人々を守り、魔物の軍勢を次々に打ち破っていった。そしてついに、勇者は魔王の居城、その玉座の間に足を踏み入れた。
「哀れだな、神の傀儡よ」
魔王の目には侮蔑と嘲笑がある。勇者は無表情にその目を見返している。
「命じられるままに戦い、傷付き、なお人々のためとここに立つお前に、世界は何をしてくれた? ただ無責任にお前を『勇者』と讃え、全ての責任を押し付けているだけではないか。その証拠に、見よ。お前の後ろには誰もおらぬ。世界の命運をかけた戦いの場に、お前を助けようと駆けつける者は誰もおらぬのだ」
勇者の鎧には無数の傷があり、その下にある身体も無傷ではない。勇者は小さく笑みを浮かべた。
「構わないさ。足手まといになられても困る」
「虚勢だな」
勇者の言葉を魔王はばっさりと切り捨てる。勇者は思わずといった風情で苦笑いする。
「そう、虚勢だよ。だが、そういうのが案外、必要なのさ。命を賭けようって時にはな」
表情を引き締め、勇者は聖剣の切っ先を魔王に向けた。
「世界のために、その命、貰い受ける」
「下らぬ」
玉座から立ち上がり、魔王が不快そうに鼻を鳴らす。
「それがお前の死ぬ理由とはな」
「わかってないな」
勇者はおかしそうに笑った。
「そういうのが、カッコいいのさ」
聖剣を構えた勇者が地面を蹴る。魔王の身体から暗紫色の闘気が立ち上る。
世界の命運を賭けた最後の戦いが、始まった。
勇者は一気に距離を詰め、聖剣を上段から袈裟懸けに振り下ろす。魔王はわずかに身を引いてかわし、勇者に右手のひらをかざす。手のひらから赤黒い刃の剣が飛び出して勇者の頭部を襲う。身を沈めて剣をかわし、勇者は魔王のすねを狙って聖剣を薙ぐ。しかし魔王は後方に飛びずさってそれを避けた。勇者は追撃すべくさらに踏み出し――魔王が、嗤った。
ぞわりとした悪寒に似た何かが背を這い、半ば本能的に勇者は身体をひねった。勇者の左肩に激痛が走る。魔王が放った赤黒色の刃の剣、避けたはずのその剣が、ありえない軌道を描いて勇者の肩を貫いていた。辛うじて踏みとどまり勇者は奥歯を噛む。魔王は右足を振り抜き、勇者の身体を大きく後ろに蹴り飛ばした。勇者が床を転がり、血の跡が絶望を刻む。
「所詮、人間などその程度だ」
歯を食いしばって立ち上がり、勇者は荒い息で魔王をにらみ据える。左腕はだらりと下がり、右手に持つ聖剣の放つ光がわずかに翳った。
「この魔王に刃を向けた、その傲慢の報いを受けるがいい」
魔王が勇者に手をかざす。破滅の気配が大気を震わせる。怯えるように地面が揺れ、魔王の手から全き闇が溢れる。回避さえ叶わぬ膨大な魔力を前に、勇者は目を大きく見開いた。
「死ね」
無慈悲な宣告と共に、光通さぬ黒が勇者の視界を覆い――同時に勇者の耳に、懐かしい雄たけびが聞こえる。
「うおぉぉぉぉぉーーー――っ!!」
いつものようなやかましい吠え声と共に、ひとつの影が魔王と勇者の間に割って入った。見慣れすぎるほどに見慣れた背中が勇者の目の前にある。己の肉体を盾として、戦士であるその男は勇者を襲う闇の全てを受け止めていた。
「どうして――」
勇者の顔が焦燥と苦痛にゆがむ。
「どうして来た! 足手まといだと言ったはずだ! 帰れ!」
「うるせぇ!」
戦士は闇に身を削られながら振り返ることもなく叫んだ。
「足手まといだろうが関係ねぇ! お前が命を賭けて戦ってるときに、俺だけのんきに家で待ってられるかバカ野郎!」
勇者は唖然と口を開けて目の前の単細胞を見つめ、そしてすぐに目を吊り上げて怒鳴った。
「バカはお前だ! 魔王を倒すのは勇者の役目だろうが! 世界の未来を賭けた戦いに、お前の出る幕は――」
「世界も、未来も、魔王も勇者もどうでもいい! 俺は!」
戦士は闇を押し返さんと両腕を突き出す。奥歯を噛んで苦痛に耐え、戦士は運命をねじ伏せる咆哮を上げた。
「俺は! 俺がお前の友だと証明するために、ここに来たんだ!!」
破滅を押しつぶすように戦士は腕で闇を抱え込んだ。闇は無数の欠片となって大気に散る。魔王が軽く目を見張った。戦士は力尽きたように膝をつき、荒く息を吐いた。
「……俺だって、ちったぁ役に立つだろうが」
戦士の身体がぐらりと揺れ、倒れる。勇者は戦士に傍らに駆け寄り、聖剣を床に突き刺して膝をついた。
「バカ野郎……」
勇者のかすれた罵倒の声に小さく笑みを浮かべ、「勝てよ」の言葉を残し、戦士は気を失った。
「ああ、必ず、勝つさ」
左肩を貫く魔王の剣を引き抜き床に放って、勇者は立ち上がる。その瞳には強い決意が宿っていた。聖剣を手に取り、勇者は魔王に向かってその波動を解き放つ。
「受けろ! 俺たちの、これが絆の力だ!」
聖剣の輝きは奔流となって魔王に迫る。魔王が大きく目を見開いた。光に闇の力が消し飛ばされる――誰もがそう思ったとき、魔王をかばうようにひとつの影が割り込んできた。それは青白い肌に痩せてシワだらけの身体の、しかしその身に膨大な魔力を宿した魔王軍四天王の筆頭、大魔導だった。大魔導はねじくれた杖をかざして聖剣の波動を自らの魔力で抑え込む。闇の波動と光の波動が互いを食み、金属を削るような音を立てる。
「大魔導! なぜここに!? 貴様には蟄居を命じていたはず!」
「命令違反は承知の上! 戦いの後にはいかようにも処分していただいて結構!」
大魔導の魔力と聖剣の輝きの相克に耐えかね、杖が悲鳴のような音を立てる。大魔導は奥歯を強く噛み締めた。
「馬鹿なことを! 今すぐ戻れ!」
「お断り申し上げる!」
魔王の言葉を大魔導は常にない大声で打ち消した。
「陛下がおらねば我ら魔族に未来はない! あなたが何を言おうと、あなたを守ることこそ我が使命、我が望みなのだ!!」
大魔導の杖がついに折れ、放つ魔力の気配が消える。しかし同時に、聖剣の波動も空気に溶けるように消えた。己の力の全てを使い果たした大魔導の身体が崩れるように倒れる。魔王は慌ててその軽い体を抱き止めた。
「……どうか、お勝ちください。未来を、我らに」
「わかっている。わかっているとも」
魔王の言葉に満足そうに微笑み、大魔導は気を失った。彼の身体をそっと横たえ、魔王は決然と顔を上げる。
「背負うものがある。負けられぬ理由がある。ゆえに負けぬ。私は、勝つ!」
魔王の指先に炎が集まり、ごうと音を立てる。勇者は気絶した戦士をその背にかばった。冷酷な瞳で魔王は終焉の炎を放つ!
「死ね! 勇者よ!」
「いいえ、あなたは死なない」
涼やかな声が魔王の予言を否定する。勇者は信じられないものを見る目で、傍らに立つ一人の女性を見つめた。純白のローブに身を包んだ彼女――僧侶の身体から、瞬間移動魔法の発動光の名残が淡い光の粒となって散る。
「私が守るから」
円柱状の光が結界となって勇者たちを包み、魔王の獄炎を遮る。勇者は呆然とつぶやいた。
「どうして……?」
「どうして?」
勇者のつぶやきに僧侶はやや不快そうな表情を浮かべる。
「仲間を助けるのに理由が必要だなんて知らなかったわ」
獄炎が結界を削り、光の柱が揺らぐ。僧侶の額にじっとりと汗がにじんだ。
「貴女は王都を守護する聖女として大神殿にいなければならないはず。なぜ、こんなところに!」
「私を聖女に推挙したのはあなただったそうね」
僧侶の言葉に勇者は気まずそうに目を伏せる。僧侶は聖印を強く握った。結界が輝きを増し、炎を押し戻す。
「あなたらしい浅知恵ね。それで私を遠ざけようとしたなら無駄なこと。私はいつだって思うとおりに生きてきた。おしとやかに座って微笑むお人形になるつもりはないわ」
「俺は――!」
何か言い募る勇者の唇に人差し指を当て、僧侶は挑むように言った。
「生きて帰るのよ、私たちは。あなたも、私も」
ガラスの砕ける音に似て、結界が細かな光の結晶となって消える。同時に、魔王の放った獄炎もその力を失って霧散した。僧侶は勇者に微笑み、その身体が崩れ落ちるように倒れる。勇者は慌てて彼女を支えた。
「……世界を、救って。あなたなら、それができる」
僧侶はそう言うとそのまま気を失った。そっと彼女を横たえ、勇者は再び立ち上がる。
「背負うものがあるのはこっちも同じだ! 負けるわけには、いかない!」
勇者は聖剣を掲げる。立ち上る光は祈りとなり、祈りは絶望を打ち砕く雷となって魔王に降り注ぐ。魔王が唇を噛んだ。
「させるものか!」
しかし勇者の雷撃は、突如現れた魔物によって遮られる。その巨体で魔王を覆うようにかばったのは、魔王城の門番である二匹の巨人だった。雷を身に受け、巨人たちは激痛に耐えるために奥歯を噛み締めた。
「バカな! お前たちには今日、休暇を与えていたはずだ!」
巨人はややバツの悪そうに笑った。
「魔王様の一大事に、休んでいるわけにはまいりません」
勇者の雷を受けきり、ぶすぶすと焦げ臭いにおいを放ちながら巨人たちはどうと倒れる。
「……陛下。俺たちの未来を、頼みます」
「ああ、ああ! 任せておけ!」
気を失った巨人たちに手を当て、魔王はキッと勇者をにらみ据えた。
「皆の思いを無駄にはせんっ! 今度こそ勇者よ、お前を倒す!」
魔王が咆哮を上げ、酷寒の吹雪を呼び起こす。勇者は両腕で顔を覆った。しかし突如現れたひとつの影が勇者の前に立ち、凍える風が勇者を打つことはなかった。勇者が驚きの声を上げる。
「あなたは、王様!?」
頭に王冠を乗せ、赤いびろうどのマントをはためかせ、王はその身体で勇者をかばう。
「ずっと後悔しておった。世界をお前ひとりに背負わせてしまったことを。ゆえに、お前が窮地のときは必ずお前を守ると、決めておったのだ!」
吹雪を完全に受け止めきり、王はばたりと倒れる。駆け寄る勇者に王は言った。
「世界を、頼む」
そのまま気を失った王に大きくうなずき、勇者はまたも聖剣を振るった。聖なる光が幾条もの刃となって魔王を襲う! 魔王が唇を噛んだ。
「ソウハイカヌ!」
しかし光の刃は突如現れた一体のゴーレムによって阻まれた。刃をすべて身に受け、ゴーレムはぷしゅーと蒸気を上げて動作を停止する。魔王が驚きの声を発した。
「何という無茶を。お前は城のお掃除ロボであろうが!」
ピーガーともはや言葉で答えることもできないゴーレムを愛おしそうに撫で、魔王は決意を新たにする。
「救われたなら、為さねばならぬ! お前を必ず倒し、未来を手に入れて見せる!」
魔王が力を振り絞って闇の波動を放つ。それは勇者を飲み込――もうとしたとき、そうはさせぬと一人の男が立ちはだかった! 勇者は驚愕に目を見開く。
「お前は、武器屋の親父!?」
闇の波動を抑え込み、武器屋の親父は力尽きたように倒れた。勇者は親父を抱き起して問う。
「どうして?」
「……死地に赴くお前に、どうしても伝えたいことがあってな」
息子同然に思っていた勇者に武器屋の親父は慈愛に満ちた目を向ける。
「……武器や防具は、買っただけじゃ、意味がない。ちゃんと装備しなければ、な」
「わかってる! わかってるよ!!」
武器屋の親父の手を強く握って涙を流す勇者にうなずきで応え、彼はそのまま気を失った。勇者は己の為すべきことを強く胸に刻み、聖剣で空を切り裂いた。斬撃は真空波となって魔王に襲い掛かる!
「ちょっとまったぁーーーっ!!」
しかし真空波は雄たけびを上げながら現れた一匹のオークに遮られる。ぷぎーと哀れな声を上げで痛がるオークに魔王は駆け寄った。
「何をしに来た! ここはお前の来るべき場所ではない!」
「だって、まおうさまがいなくなったら、いやだ!」
シンプルで不合理な理由に魔王は言葉を失う。オークはさらに言い募った。
「しなないで、まおうさま。またあした、あそんでよ」
魔王は苦笑してうなずき、魔法でオークを眠らせる。寝息を立てるオークからそっと手を離し、魔王は勇者を見据えた。
「死ねぬ理由が一つ増えた。ゆえに、私は負けぬ!」
魔王は力を振り絞って破滅の呪文を唱える。破滅はひどく美しい光の粒の形をして勇者に放たれた。勇者がギリリと奥歯を噛む。しかし光はある男によって受け止められ、勇者に届くことはなかった。
「あ、あなたは!」
勇者はまさかそんな、という様子で叫んだ。
「始まりの村で村の名前を教えてくれた人!?」
始まりの村で村の名前を教えてくれた人は破滅をすべて引き受け、そして倒れる。勇者はその身体を抱き起した。
「どうして、こんな無茶を!」
始まりの村で村の名前を教えてくれた人は満足そうに微笑む。
「……ここは、レーベンの村だよ」
ここはレーベンの村じゃない、魔王の城だ、という言葉を飲み込み、勇者は何度もうなずいた。始まりの村で村の名前を教えてくれた人はそのまま気を失う。その思いを受け取り、勇者は最後の力を振り絞って聖剣を振るった。まばゆい光が魔王を襲う。しかしその光は一体の蒼い影に阻まれる。
「お、お前は始まりの村の周辺に派遣したスライム!?」
スライムは勇者の放った光を防ぎきり、そのままべちゃっと床に落ちる。魔王は両手でスライムをすくいあげた。
「どうしてこんな無茶を!?」
「……ぷるぷるっ」
何言ってるかわかんねぇ、という言葉を飲み込み、魔王はスライムをそっと床に置くと、厳しい表情で勇者をにらんだ。
激しく息を乱し、勇者は魔王を見る。もはや聖剣を持つ腕は上がらず、立っているだけでも辛い身体を気力だけで支えている。それは魔王も同じで、肩で息をしながらただ勇者をにらむだけだ。
彼らの周囲には、必殺の一撃を放つたびにどこからか現れる彼らの仲間が気を失って倒れている。勇者が旅の途上で出会った人々、魔王がその配下とした魔物たちが、自らの役割を果たして満足そうに転がっている。魔王はそれらを見渡し、重い口を開いた。
「……停戦を提案する」
意外な言葉だったのだろう、勇者が声を高くして答える。
「停戦? 戦いを中断しろと?」
魔王はうなずき、周囲に視線を向ける。
「皆、まだ生きているが、このまま時間が経てばどうなるかわからぬ。彼らをこのまま死なせるのはお互い本意ではなかろう」
勇者もまた、周囲を見渡す。自分が守ろうとしたもの、守りたかった人たち。勇者は魔王を見据え、首を横に振った。魔王の表情が厳しさを増す。
「あくまで、今決着を付けると?」
「いや――」
勇者は再び首を横に振った。
「停戦でなく、終戦を提案する」
「終戦だと!?」
魔王がありえぬと驚愕を叫んだ。勇者はまっすぐに魔王を見つめる。
「再戦したとして、また危機に誰かが現れて俺たちをかばうことになるぞ。そんな不毛な戦いを繰り返したいのか?」
魔王がむぅ、とうなって沈黙する。勇者は真摯な言葉を重ねた。
「大切な相手がいるんだろう? 俺にもいる。俺たちが戦えば、そいつらは俺たちをかばいにやってくるんだ。ならば、そいつらを危険に晒さないためには、俺たちが戦いを止めるしかない。違うか?」
勇者の提案を吟味するように魔王は目をつむる。大きく息を吸い、勇者は言った。
「俺は帰って人々を説得する。そちらはそちらの意見をまとめてほしい。説得でき次第、俺はまたここに来る。戦いではなく、和平の使者として」
魔王は目を開け、複雑な表情のままうなずきを返した。「英断に感謝する」と頭を下げ、勇者は帰還の呪文を唱えた。勇者と彼の仲間たちが淡い光に包まれ、次の瞬間、その姿が発動光の名残を残して消えた。消えゆく光を見つめ、魔王はつぶやく。
「……和平、か。考えたこともなかったが――」
オークの妙に幸せそうな寝息が聞こえる。苦笑いを浮かべ、魔王は独りごちた。
「――考えてみても、よいのかもしれぬ」
国へと帰った勇者は人々を説得して回り、時になじられ、激しい批判を浴びながら、少しずつ合意を形成していった。魔王もまた、魔物たちと対話を繰り返し、憎悪と悲憤をなだめ、人との対話の道筋を付けた。互いに殺し合い、傷つけあった過去は変わらず、悲しみも憎しみも消えることはない。だが、戦う以外の選択肢があるのだと、殺し合わない未来があるのだということを、勇者と魔王は粘り強く説いていき、実に十年の歳月をかけ、人と魔族の和平は実現することとなった。それは条約という形の上での和平であり、一つの掛け違いで簡単に崩れてしまうような脆いものだったが、それでも、世界は戦いの終わりを喜び、祝賀の宴は長く続いた。
勇者と魔王の戦いは、勝者のいない無意味な戦いだったと言われる。しかし、その無意味さこそが戦いを終わらせ、和平を導く偉大な一歩となった。無意味で偉大なその戦いを、後に人々はこう呼んだ。『最後の戦い』と――
独りで戦ってると思ってたけど、案外そうじゃないかもね、って話さ。