3話 code:BR
黒い闇に視界を奪われること数分。唐突に開けた視界に鮮やかな緑が入ってくる。
「ここは、、、」
「さっきの宿から5キロほど離れた森のなかです。追手は巻きました。安心してください。」
体を起こすと炎が揺らいでいる。
「えっ?か、火事?」
「キャンプファイヤーですよ」
とエリィが苦笑する。
「暗いと魔物に襲われますから」
「そうか。グエンは?」
「隣で寝てますよ。」
キャンプファイア越しに彼女の顔は驚くほどに整っている。本当に彼女は、、、
「私の顔に何か着いてますか?」
「いや、、、なあ、君は、、その、何て言うか、本当に家族を殺したのか?俺にはそうは見えない」
「私がまだ9歳のときです。部屋に入ってきた大勢の魔族を倒したら、それは魔族じゃなくて家族だったんです。」
「ん?どういうことだ?······」
「もう寝ましょう。話したい思い出ではないです。」
「それはそうだな。ごめん、無遠慮なことを言って」
程よく乾いた雑草を枕に夜空を見上げる。いまひとつ話が分からなかった。
、、、もし彼女が殺人鬼だとしたら。でも俺には、多少素っ気なくても邪気はない、そんな気がする。今は信用してもいい、、、かな。
そんなことを考えるうちにうとうとして、いつの間にか寝てしまった。
「起きてください、ご飯食べたら山をこえて小さな集落を探します」
「食べ物持ってきてたのか」
「夜中、魔法で移動させました。こんなものしかないですけど。」
「クッキーか。保存もきくし食べるものはあればあるほどいいからな。ありがとう」
『オレの分も残しといてくれ、まだ寝てえ』
『まったく、、、先食ってるぞ。いただきます』
『いただきます』
クッキーにクリームチーズをはさんだりして、質素だけど楽しかった。
「レーズンとか挟んでも美味しいんですよ。私は人生の半分くらいを旅で生きてきたから、意外に合う組み合わせとかも知ってるんです。例えば、、、」
と彼女は朗らかに話し続けるのだが、その旅は逃亡生活だと考えると素直に会話に乗れない。そんな感じでビミョーな朝食も終わりに差し掛かるころだった。
『おい、なんか嫌な感じするぜ』
『あれ、いつの間に起きて、、、!』
感じたことのない、ぬたっとした鋭い気配を感じ、背筋が凍った。エリィも何か感じたらしく表情がこわばっている。
後方から迫り来る殺気、とっさに腕をあげ、ガードの姿勢を取る。
一瞬、自分が突き飛ばされたことを理解できなかった。はるか前方にエリィさんと何者かが見える。体が頭から切り離されたかのように言うことを聞かない。立つことが出来ない。
唐突に上から声が降ってきた。
「そこのドラゴンテイマー、僕は不必要な殺しはしない主義だ。あの女の用心棒といったところか?選べ、任務を遂行し女と共に死ぬか、このドラゴンを犠牲に逃げ延びるか。」
『放しやがれ、このやろう!後で消し炭にしてやる!』
『グエン!』
その冷酷非道な言葉とは裏腹に、彼の首筋を掴む男はまだ少年と言ってもいいくらいだった。
頭が割れるように痛い。パキィンと何かが割れる音がした。
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「君、いい加減にしなよ。何度目?この書類出すの。パッと見ただけで何個も間違いがある。やる気あんの?服もダサいし。そんな格好で職場来てる時点で、何それってこっちは思うけどね。とりあえず駄目だから。もう一回。今度は仕上げて来いよ」
なぜ、思ってもいない事を口にしてしまうのだろう。社食はいつも一人で食べる。
いつからか、人といることを避け、人から避けられるようになった。当たり前だ、こんな物言いをしているのだから。いつからか人と話すと悪口しか言わなくなっていた。
俺は事務仕事はできる方だ。それは上司も認めてくれている。同時に上に立つ者としては向いていないことも。
俺は怖いのだ。自分よりも全てが上の人間が。そんなやつに会いたくない。だから俺は全ての人を拒絶した。
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俺の記憶か。分かっていた。こんなことをしていくうちに信頼されなくなることなど。俺にとってはそれが普通だった。
だが、今考えると前の世界はひどく味気ない。たった1日でも俺のことを信頼してくれた人がいるこの世界が、、、
「グエンは、エリィさんは!一度でも俺のことを信用して一緒に旅してくれた!俺はまだ一ミリも、それに答えられてない!」
だが俺の振るった拳は掠りもしない。グエンを掴んでいないほうの拳が飛んでくる。
またもや突き飛ばされる前、一瞬だけ彼の手の甲に緑の矢印が見えた。
そうか、今までの二撃の体感、拳の衝撃の後、二度目の衝撃で俺は吹き飛ばされている。
「やる気はあっても実力はないか。その魔力量に期待して損したよ。答えはノーでいいんだな」
もう追い付いてきたのか。あまりにも速い。
確かにそのとおりだ。いくら気持ちがあろうと実力がともなっていなければ意味がない。
「すまない、死ね」
目をつむる。だが何も起きない。そっと目を開く。
『グエン、、、!』彼が目の前に立ちはだかっていた。彼の展開するサファイア色の結界が拳を受け止めている。
「くそっ、殺せてなかったか」
『ドラゴンの耐久なめんなよ!』
だが噛みしめた口の端からは血が流れて出ている。かなり大きなダメージではあるのだろう。
『スバル、おめえはいいやつだな。いや、お人好しかもな、ハハハッ』
俺とスバルの頭上に魔方陣が現れる。溢れ出す光が俺たちを包み込んだ。
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「エリィ=クラリス、リーダーはあんたをご所望だ。ちなみに遺体でもいいってよ」
「二人一組での襲撃、瞬時に判断して1対1に分ける、ホントに変わってませんねcode:BRは」
「なぁエリィ、お前の実力ならいずれリーダーになることも夢じゃなかったろう。なぜ抜けた、俺たちに与えられた使命はお前の捕獲及び殺害、あの方はもうお前に興味がなくなったようだ」
「もう二度とあの殺人集団には入りません。家族を戻すためにさらに手を血で染めることはもうしたくないです」
「俺たちの持っている記憶の水晶は31個。その意味は分かるはずだ。組織にもどれ、お前の願いに大きく近づくはずだ」
返事はしない。手のひらに黒い渦を集める。現れるのは漆黒の剣。
「ユニークスキル<メイド·イン·アビス>」
「、、、それが答えか」
「<オーバードライブ·サンダーコマンド>」
「真っ向勝負か!<ストームスパーダ>!」
基礎魔法のひとつ、サンダーコマンドは本来一直線に相手へ突っ込む技、だがエリィの場合は違う。相手が正面に放った風の斬撃は当たらない。
相手もバカではない。回り込んできたエリィの剣を見切りよける。が、この剣はただの剣ではない。刀身が伸び、相手を切り上げる。
「なるほど、お前、二色使いか、、、あらかじめ通るルートに水を湧かせてルートをたどるように動いた。弱点ともなる二つの色を使う。面白いな」
「終わりです。あなたにとって致命傷でしょう。退くべきじゃないですか?」
「本当にそうか?」
「っ!氷で傷を!」
氷が胸元のキズを埋め、血が止まる。エリィの頭にスバルの姿がちらつく。はやくこの男を倒して助けに行かなくては。
「さあ、第2ラウンドといこうか」
完全に私事ですが、今日誕生日だ!やったー(?)
ツキイチ更新というかなりロースピードな更新ですがこれからもよろしくお願いします