第4話 若かりし頃の夢
余裕の一服ができるのはまだ先である。なにせまだタバコも手に入れてないのだ。
「いつも来てくれて嬉しいわ♡」お気に入りの店員は言う。
マツのお気に入りの店員はきれいに整えられた髭がもみあげと繋がっている、年の割にはダンディなセンスの持ち主なのだが、今日は髭がないではないか。
何も驚くことはない。ただ剃ったそれだけの事と思われるがマツいわくそうではないらしい。俺はその特徴的な髭について彼とは髭トークを繰り広げた事がありその時、彼から聞いていたのだ。これは外国のなんとかかんとかのマネで尊敬しているんだと。名前を覚えてないところを見るとマツにはそれほど興味がなかったらしい。誰しも若かりし頃はそういうのがあるものだ。そして、自分のオリジナリティのなさに落胆して辞めていく。
マツは彼についてそんなことを思い出していた。そしてその口調である。
語尾に♡がつくような間柄ではないし、彼は好青年だった。はずだ。
それがいつの間にかおネェ口調になっておりマツの思考はまだ追いつかない。マツが目を疑うのはここからである。端的に言うならば胸があるのだ。彼には誰にも言えない秘めた思いがあってそれが積もり積もって彼を決意させ行動に移らせたのかもしれない。マツはタバコを受け取りながら聞いてみた。
「なんか雰囲気変わったんだね、こう色々と」
彼の変わり方に当てられマツの口調もいくぶん優しかった。
彼は言う。「そうなんですー、さっき急に雷みたいなー光みたいなー、外が暗く光っててぇ」
デッドボーイズシステムだ。友が共鳴してしまったように彼も何らかの影響を受けているのだ。マツが解せないのは自分の存在である。共鳴してしまった友の近くにいながら自分は特に何も変化はない。マツは思考を巡らせながら自然と店内を見渡していた。
女性のお客さんばかりである。そういう時もあるだろうにマツはなんだかゾワッとした。
「あー、なんかすごい光と音だったよね。怖いよね、気を付けてね。」
支払いを済ませマツが店を出ようとすると声が聞こえた。
「気を付けるのはあんただよ。」そう言ってきたのはこの店のオーナー夫人だった。マツも幾度か会計をしてもらったことがあるが、常連とはいえオーナーと客の距離である。お客様は神様です。とは思わんがお客に向かってあんたはないだろ。
「あんた、童貞だろ?」
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