水晶山の洞窟1
「このもう少し先から山を登る道に入ります。そこをゆくと、大昔にこの山で暮らしていたドワーフ達の隠し扉がありますので、そこからドワーフの坑道を通って山の反対側にでることができます」ゼニスは一行の先頭で立ち止まると、振り向いて全員に向って言いました。今彼らが進んでいる道は、馬車でも通れそうな山の麓を巻いてゆくゆるい昇りの街道ですが、両わきには大木が連なり天頂に陽があっても明るいとは言えない場所でした。
「水晶山のドワーフ達の事は小耳に挟んだことはあるが、たしか、大昔にそこを捨てて他の山に移り住んだらしいな」バーントが、うなずきました。「言い伝えでは、災難にあって住処を追われたとか・・・」
「赤のドラゴンの一家に住処を取られたのですよ。」ゼニスは、ゆっくり歩を進めました。「ドラゴンは、山の守り手。山を壊して作られた金銀胴の製品に引き寄せられるのです。水晶山では多くの鉱脈が発見され、ドワーフ達は多くの優れた製品を作ったと言われます」
「じゃあドラゴンが居るのか?」バーントは顔をしかめました。
「そのドラゴンの一家も退治されたとのことです」ゼニスの答えにバーントは表情をゆるめました。「水晶山のドワーフの戦士達が戻ってきて、ドラゴンの寝込みを襲ったとのことですが、その時に奈落に落とされたドラゴンが死に際に発した瘴気の為に、洞窟に居たドワーフ達は全員死に絶え、以後何十年と瘴気が残っていました。」
「おいおい、今は大丈夫なのか?」
「はい、私も、何度か通っていますが、影響は無くなっているようです、ただ、その瘴気のために、姿を変えてしまった小動物が住んでいましたが」
「小さいならいいか、悪さはしないのだよな、その小動物とやらは」
「私が知る限りでは、悪さをするものはいません」
「ならいいけど、なにやらと曰く付きの通路らしいな。ドワーフの幽霊でも出るのじゃないか?」
「さて、私は見たことはありませんけど、まもなく分かれ道ですよ」
すぐにゼニスは大小の石が混じっている細い路に足を踏み入れました。一行は一列になって細い山道を登ってゆきました。途中幾つかの季節の花が気持ちを穏やかなものにしてくれましたが、当然山道を登るのはドワーフでも楽なものではなく、登りがあれば、登った分降りるような下りもあり、その度に山育ちのドワーフ達も嫌気がさしてきました。
山道になれていない、カーディナルはもっと悲惨でお尻をドワーフに押してもらってやっと脚を前に出している始末でした。
「未だかい?ゼニス」とうとうバーントは、先頭から遠く離れたしまった後続を待っている間に訊きました。「あとどれくらいだ」
「あともう少しです」ゼニスは返事をしました。しかし、バーントの未だかい、とゼニスのあともう少しのやりとりは、もう何回も行われていました。ゼニスは道順はよく知っていましたが、あとどれくらいと訊かれると、彼自身も判断が付かなかったのです。
「どれくらいあともう少しなのやら、間もなく陽も暮れるぞ」バーントは、後続の見え隠れする頭を眺めながら言いました。
「この先、尾根を下って、次の昇りの途中にドワーフの隠し扉があります」ゼニスは、判っている範囲で答えました。「そうしたら、洞窟で休めると思われます」
「もうひと頑張りってことか、しかし後ろは相当にへたばっているぞ」
「しかし、途中で野営できる場所も無いので、頑張ってください」
「分かった、分かった。後続が着いたら、少し休ませてから最後の頑張りだ」
馬を失い、荷を自分で担いで昇り続けた彼らがへとへとになって、目的地に辿り着いたのは、丁度陽が沈んだ時でした。正面の岩壁には、大きな縦長の亀裂が入りその周りには沢山の石が散乱していました。
「此所が、水晶山のドワーフの坑道に入る隠し扉でした。」ゼニスは、その大きな裂け目を上から下まで眺めました。
「かつてはここに、荘厳な岩戸があったのですけど、竜に破壊されてからは、このまま放置されています」
「放置だって?おいおいゴブリンやトロールの住処になっていないだろうな?」バーントは周りを見回しました。
「大丈夫だと思います、もしここがやつらの住処なら、食い散らかした獣の骨や、汚物がこの出入り口辺りに散乱していますから、それに彼らは竜の匂いが嫌いなのですよ」
「確かに、やつらの住処の周りの汚さは半端ないからな」バーントは、うなずき、鼻をひくひくと動かしました。「それにだれだって、竜の匂いは苦手だしな、まだその匂いは残っているのか?」
「多少…」ゼニスは、小声で答えました。
「ま、仕方ない。今夜は洞窟の中でゆっくり休める場所を探してから、明日にでも洞窟の中を進むとしよう」バーントは、周りで腰を下ろして休んでいる仲間達に向って大声で洞窟の中に入って休憩するぞと伝えました。そうして、ゼニスが岩戸の割れ目に中に入ってゆくと、すぐさま後を追うように松明を片手にして入って行きました。後ろからは、互いに松明の火を分け合い、火が付いた仲間から順に、バーントの後を追ってきました。
「そういや空五倍子の旦那は大丈夫なのかねぇ」洞窟の中で誰かが言いました。
「分からんよ、しかし魔法使いってのは、結構したたかだからなぁ」
ふとその会話を小耳にしたバーントは、何も言わず。洞窟の入り口を振り返りました。やあ早かったねと、魔法使いがやってきそうな気がしたのです。しかし、後方で月明かりが差込み小さく見える岩戸の割れ目に求める人の影はありませんでした。
しばらく洞窟を歩き少し広い場所を見つけると、全員が一度集合し、点呼を取りました。そこからドワーフ達は、灯りの列を作って闇の通路を下へと下って行きました。ドワーフ達はかすかに残っている生臭い匂いに顔をしかめたり、文句を言っていましたが、それでも列は崩れる事もなくやがて一つの広間に出ました。
そこでは松明をかざしても、天井の一番高い部分は見えません。その広さに彼らは思わず感嘆の声を上げました。故郷の洞窟にはこれほど広い場所は作れなかったからです。
彼らは、広間の真ん中付近に円陣を組む様にして体を寄せ合いました。中央には小さなたき火を焚きました。彼らは疲れから、あまり食欲も湧かず、会話もする気になれませんでした。それでもかろうじて、乾いて喉を通りにくい焼き菓子を少ない水で飲み下すと、一人、また一人と横になっていびきをかいてしまいました。
ただ、体力にまだ余裕のある者だけが、バーントの指示で交代で見張りを続け、火を絶やさないように起きていました。
洞窟の中なので、朝かどうかは不明でしたが、なんとなく起きた順に各自は支度を始めたり広間の周囲を調べ回りました。そうしてまだ寝ている者が起きるのを待っていましたが、疲れ切ったカーディナルだけは、全員が起きても未だ寝ているので、とうとうしびれを切らしたノームがカーディナルの鼻の穴に、落ちていた藁を突っ込んでなんとか起こすことになりました。カーディナルは大きなくしゃみをしたものですから、ウォルナットはころんと地面に転げてしまいました。
「あれ、みんな起きていたんだ」カーディナルは目をこすりながら、のんびりした声で体を起こして辺りを見回しました。
「まだ夜じゃない」とまた横になったものですから、ウォルナットはすくっと起き上がると自分の腰をぽんぽん叩いてから、足で彼の頬を蹴りました。
「何、寝ぼけてんだよ。」
「痛いなぁ」と彼は頬を撫でながら、もう一度回りを見回しました。ドワーフ達は、松明を持ってなにやらせわしなく動き回っていました。
「そっか、洞窟の中だっけ」
「みんな準備が出来ている。朝飯をさっさと食べろ。」バーントは、カーディナルの背をぽんぽんと叩きました。
ドワーフ達は、松明を手にし、洞窟の奥へと足を踏み出しました。しかし、ドワーフ達といえば、鉱脈を探すためにちこちに穴をあけて掘り進むものですから、分岐がいたるところにあります。これでは、まるで迷路状態です。ただ、当のドワーフ達も迷わないようにしているためか、各所にある穴の入り口には、一応案内らしい文字が岩壁に穿いてありましたが、それは単に番号と”‐”の羅列になっていました。
「まぁ、数字が少ない程本道に近いってことだろうな」バーントはゼニスの横顔をちらっと見て言いました。
「そうですね、新たな坑道を掘る時に元の坑道の番号の後ろに番号を追加しているんですよ。尤も、このまま大きな通路だけを進めば、中心街に出ます。そこから反対側の一番大きな坑道を通れば、この山を抜ける事ができます」
「すると中心付近に街もあるってことか」
しかし、その大きな通路と呼ぶべきものが、3本現れてしまいました。ゼニスはそこで足を止め、目をその3本に向けました。そしてその分岐には、トロールの子供が膝を抱えてぼんやりとしていました。
「やべ、トロールだ」バーントは思わず身構え、斧を手にしました。「居ないのじゃなかったのかよ」
「他にいねえだろうな」ビスタも折れた剣を構えましたので、いきなりドワーフ達の間で殺気だちました。
「あれ、おじさん達も宝探しにきたの」トロールの子供がのんびりした口調で不意に話しかけました。
「いや、旅の者だよ、私はゼニス、君の名は?」ゼニスはものおじしないで子供の問いに答えました。
「焼け山のシンメントの子、銀鼠だよ」
「トロールなのにネズミだってよ」こそこそと、ビスタがバーントに言いました。これを小耳に挟んだのかトロルの子は悲しそうに、うつむきました。
「ボクだって、こんな名前やだよ。でも、トロールのくせに小さいからって、ネズミって付けられてしまったの」
(おいおい、どこが小さいんだ?子供の癖に熊みたいにでかいぞ)ドワーフの中で小さい声がしました。
「大人達はどうしたんだい?」ゼニスは、ほぼ自分と同じ背丈ながらも腕も足も倍以上ある、その子に対して少し身を屈めて訊きました。
「多分、どこかで寝ていると思うよ、外は昼だからね、お日様に当たったら石になっちゃうもの。ねぇみんなで宝を探しにきたの?」
「いや、俺たちはただの通行人だ」バーントは胸を張って言いました
「ふうん、小さいおじさん達は何処に行くの?」
「山の反対側の出口さ」
「なんだ、ひょっとしておじさん達迷ったのかい?」
「いや、そういうことでもないが…」
「ボク小さい人でも行ける道を知っているから案内してあげようか」銀鼠の言葉に一行は、不安そうに互いを見つめあいました。
「トロールの銀鼠、確か中央の路が町の中心につながっている筈だが、違うかね」ゼニスはその路を指さしました。
「ちょっと前まではそうだよ、でもゴブリンどもがやってきて、あちこち引っかき回して金目の物を物色してさ、その時馬鹿な奴がふざけて通路の途中にあったつり橋を壊してしまったんだよ」
「ゴブリンが来たのか、此所へ?」思わずバーントが声を上げました、周りでも皆がざわつきました。
「うん、僕らも手伝わされてさ、でも何の見返りもなしさ、全くケチな奴等だよ」
「未だ居るのか?」
「もう居ないと思うよ、もう取る物を取った気分でいたし、山の路を塞ぐとか言って全員手伝いに出されてしまったからね、でも、僕らだって金目の物がある倉庫を全部教えてやったわけじゃないのさ、ざまあみろだよ」
「じゃあ、中央の路は行けないと言うんだね」ゼニスは、話を戻しました
「うん、橋が壊れたからね、でも右の通路から迂回路があるんだよ」
「そんなのがあったのか・・・」
「あったと言うか作ったんだよ、ドワーフの通路はどれも狭いからね」
(狭くて悪かったな)どこかで小声がしました。
「まぁ、ここで話してばかりいても進まないしな、銀鼠くん・・・かな、案内をお願いするよ」バーントは、銀鼠を見上げながら言いました。
「なんか、きちんと頼まれると嬉しいな」銀鼠は、大きな顔に笑みを浮かべました。「ゴブリンは低脳のくせに命令ばっかりだったもの、じゃあ案内するね」と銀鼠は、穴の中に先頭を切って入って行きました。
(おいおい、本当に大丈夫かい、トロールだよ。取って食わないだろうな)誰かの小声に、バーントは、静かにと注意してから、(見た目で判断するんじゃないよ、俺たちだって、場所によっては、ろくな噂がないしな)と小声で追加しました。
穴は確かに、大きく拡張されて歩き易くなってはいましたが、トロール向けに作られた階段や段差をドワーフ達に上れる訳もなく、それに突き当たる度に銀鼠に手伝って貰いながら洞窟を進んで行きましたが、ほどんどは登りで彼らは本当に大丈夫なのかと、だんだん疑わしい気分になってきました。このまま洞窟を登り続けていっても向こう側の山腹に出たところで相当頂上に近い所になりそうでしたし・・・
やがて、ひとつの大きな空間にでました。行く先は深い崖となり、天井もどこまでも続いているようです。
「おいおい、行き止まりじゃないか?」バーントが先頭を行く銀鼠の尻を突きました。「迷ったのか?」
「大丈夫だよ、ここからロープで向こう側に渡るのさ」
「ロープだって?」と揺らめく松明で崖の方を照らすと確かに洞窟の地面から奈落のようなところに向かって一本のロープが渡してありますが、その先が見えません。
「ロープの先が、最初の分かれ道の真ん中の通路の所に出るのさ」そう言うと銀鼠は、片手でロープを掴みひょいと崖から飛び降りる様に外にとびだし、鈍重そうな見た目とは比較にならない程に、身軽にロープを左右交互の腕で掴みながらひょいひょいと進んで行きました。
「あんなのありか?」バーントは呆れた様に、銀鼠の背中が闇の中に消えて行くのを見送っていました。
「早く来ないと、竜蝙蝠がやって来るよ」闇の向こう側から銀鼠の声がやって来ました。
「竜蝙蝠だって?」バーントは、ふと首を傾げました。その頭の上を何かが掠めました。
「今の見たか?」後ろに居たビスタがごくりと唾を飲みました。
「ああ、でかい蝙蝠みたいだったけど、首が長くて竜にも似ていた。」後ろのドワーフが答えました。それと共に後ろで悲鳴があがり、一人のドワーフが大きな羽根を持つものに襲われ上空に連れ去られました。更にもう一匹が襲い掛かって来ましたが、ドワーフ達が松明をかざすとそれを嫌うかの様に逃げて行きました。
「バーントさん、みなさん松明を持ってください、どううやら向こうに行くしかなさそうです。」ゼニスは、頭上を飛び交う生き物を避けて大声を出しました。「そしてできるだけ明るくしましょう」
ドワーフそして、カーディナルは、背嚢から各々松明を取り出し、それにも火を点けて両手に松明を持ちました。すると、洞窟の中は一段を明るくなり、上を飛び回る生き物たちは遙か上の方で旋回を始めました。
「バーントさん、あんたが先頭だ。私は最後に渡ります」ゼニスは、じっとドワーフの隊長の目を見ました。
「解ったよ、せいぜい明るくしておいてくれ、みんな行くぞ、びびんなよ」バーントは松明を掲げて綱の前に立ちました。そして一方の手に持っていた松明を、後ろに居たビスタに渡しました。ビスタは流石に3本を持つのは辛いらしく、受け取った松明を地面でしっかり消すと更に岩から染み出ている水に浸けてから、背嚢に放り込みました。
綱は丈夫でそれは十分な太さがあり、バーントは松明の柄を口にくわえ、綱を両手で掴むと腹ばいになって、尺取虫の様に進み始めました。そして竜蝙蝠の気配を感じると、口に咥えた松明を片手で持って、それを振りましたが、片手と両足だけで体を支えているので、バーントはその度に、落ちそうになってしまいました。
それに習って後続が続きましたが、思わず口から松明を落としてしまったものには容赦なく、生き物が襲いかかり、そのたびに悲鳴が広い洞窟に木霊となって響き渡りました。
御者であるシェンナとチェスナットは、連れだって綱を渡ってゆきました。二つ炎があった方がより安全と思ったのです、ゆっくりと進み奈落の中央付近にきたときに、竜蝙蝠がシェンナに襲いかかりました、シェンナは必死に松明振りましたが、しつこくそれは何度も襲ってきます。
チェスナットも綱に掴まったまま、松明を振ります。そんな様子が後ろから見えるのか、皆の声援が聞こえました。
「なんだくそったれめが」シャンナもチェスナットも悪態をつきます。「これじゃ全然進まねぇ」
そのとき、竜蝙蝠の一匹がシェンナの頭を足のかぎ爪で掴みました、彼は思わず松明を持っていない方の手を離し、そいつの足を掴みました。当然彼は綱から放れましたが、両足でしっかりと綱を挟み込んでいたので、逆さまにぶら下がる格好になりました。
そのままの格好で、暴れる動物を掴んだシェンナは、松明の炎を獣にあてがいました。獣は大きな叫び声を上げ、周りを飛んでいた竜蝙蝠は、ぱっと闇の中に飛び去ってしまいました。
シェンナが掴んだ獣は、炎にやかれ暴れましたが、シェンナはそいつを離すことなく、死ぬまで炎をそいつに押し続けました。
しかし、シェンナも無事ではありません、腕も頭や顔もそいつに噛まれて血だらけになっていますし、疲労で体を持ち上げるのも辛そうです。
「おれにつかまれ、シェンナ」チェスナットが、片手を下に伸ばしました。シェンナは、足で綱を挟み込んだ状態で、手を上に上げましたが、とても互いに手を掴む事はできません。
そこでチェスナットは、松明を口に咥えシェンナのズボンを掴んで持ち上げ、その手を徐々に、ズボンの腰のところまで、引き上げました。腕力に自信のあるチェスナットですが、そこで握力が潰えそうでした。
「わるい、チェスナット・・・」シェンナは、そう言ってなんとか片手で綱を掴み、もう片方の手で掴んでいた松明を口に咥えると、ようやく両手で綱を掴むことができました。
そのとき、強い風が二人を襲いました。チェスナットの悲鳴が、響き渡ると、シェンナの目に奈落に落ちてゆくチェスナットの姿が見えました。そしてぎゃあぎゃあと不気味な声が、闇の中に響き渡りました。
シェンナは、口にした松明を一度手にして、大声でチェスナットの名を叫びました。怒りと悲しみが、こみ上げてきましたが、今は前に進む以外にありません。シェンナは血で滑りながらも手でしっかりと綱を掴みながら前進を始めました。
前を見れば、遠くの先に綱渡りを続けている者達の松明の列が見えています。まだ、向こう側に辿りついたものが居ないのか、着いたぞうと声を上げる者さえいません。
後続は、必死になって続きました。しかし、竜蝙蝠達はシェンナにより仲間が殺されたので、大胆に攻めることが少なくなりました。しかし、竜蝙蝠の中には、火の明かりの届かない場所で、綱につかまり揺らすものも居ましたので、ドワーフ達は決して安心できる事はありませんでした。
それでも彼らは、穴を掘ったりしているので、誰もが力自慢なのですが、突然襲ってくる竜蝙蝠にやられたり、力尽きたりして奈落に落ちてしまうものもいました。
そして綱渡りの順番を待つ側も、少しづつ火の数が減ってゆきましたので、うっかりしていると頭上から竜蝙蝠が襲って来たので、常に警戒が必要となってきました。
「わぁ、見てられないよ。」銀鼠は、向こう側でそうつぶやくや、綱を大きな足の親指と人差し指で掴みながら戻りました。そしてバーントと出くわすと、バーントと後ろに居たビスタをひっつかみ、両脇に抱えてまた戻って行きました。それを何度か繰り返して生き残ったドワーフとカーディナルをなんとか、運びました
最後に残ったゼニスは、綱の上に足を乗せるとまるで普通の道を歩くかの様に、歩み始めました。それでも、火の明かりが揺れ一瞬弱まると生き物は彼に襲い掛かりましたが、彼はなんなく松明を振りかざし生き物を追い払いました。
「すくなくなっちゃたね」銀鼠は、地面に座り込んでいるドワーフ達を数え終わると寂しそうに言いました。
「今、どれくらい残っている」バーントは、周りを見回しました。
「ドワーフは5人、人間の子が一人、大きいのが一人」銀鼠が答えました。
「俺もわすれないでくれ」とカーディナルの服の中からウォルナットが顔を出しました。
「あと、すごくちっちゃいのが一匹」銀鼠が追加で言いました。
「半分以上死んだか」バーントは立ち上がりました。「屍にまみえることもなく、俺たちは進まなければならない、せめて葬送の歌を送って彼らを安らぎの国に送ることとしよう」
すると、残った5人のドワーフ達が立ち上がりました。闇の中で悲しげな声が響き渡りました。
我が友よ、草を枕とし、落ち葉を寝具とした旅、目的地の半ばで
倒れたる魂よ、故郷にも似た、この深い穴の底で安からに
眠れ。お前達の行く先には、力強い鉱物が潜み、宝石が顔を覗かせている
ことだろう
我が友よ、馬を失い、破れた靴で歩いた旅、目的地の半ばで
倒れたる魂よ、お前の思いは引き継げないが、私が進むこの先の旅の
灯火たれ。お前達の行く先には、力強い鉱物が潜み、宝石が顔を覗かせている
ことだろう
我が友よ、勇気ある友よ、果敢に戦って倒れた友よ、目的地の半ばで
倒れたる魂よ、お前らの死が我らの荷とならぬよう、我らは強く進むその道を
照らせ。お前達の行く先には、力強い鉱物が潜み、宝石が顔を覗かせている
ことだろう
「さぁ、先へ進もう」彼らは、更に奥へと歩み始めました。




