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灰色河


「一難去ってまた一難とは言うが」空五倍子は、口をあけて唖然としたまま身動きできないドワーフと目の前の河を交互に見ながら言いました。


「あんたらは、よほどついていないらしい。で、どうすれば、向こう岸に行けるだろうか、ゼニス」


 彼らの前の河には、落ちた橋が無残な形で残されていました。橋杭は残ってはいるものの、他は全部流され跡形もありません。


「なんで、こんな事に・・・」ゼニスもまた、良い考えが浮かびません。


「まあ、壊されたのか壊れたのかは分からんが、これで地域が一部分断された格好だな、徒渉するには流れはそれほどでもないが、深さはどんなものやら」


「多分、私でも泳いで渡るしかないと思いますけど」ゼニスは、滔々と流れる河をじっと見つめていました。


「ちなみに、ドワーフは泳げんからな」バーントは、どすっと地面に座り込みました。


「俺とゼニスで泳ぎながら一人一人運ぶのも辛い所だな」空五倍子がゼニスを見ましたが、彼は苦笑いをしただけでした。


「ロープはあるかい?」唐突に甲高い声がしました。見ればウォルナットがカーディナルの肩に登っていました。


「ロープ、まぁドワーフにとっての必需品だからなぁ、あるがどうするんだ?」


「向こう岸に渡せばいいだろ」ウォルナットはそんな事も分からないのかとでも言いそうです


「そうか、だれか向こう岸に行って、縄を結んでくればいいのか、で出来る奴は誰だい」

「この河、化け物も居るのですよ」ゼニスは、静かに言いました。


「小さいですけど、群れを成して河に入った者を襲う、川蜂も居ます」


「危険過ぎるな」空五倍子は、河を眺めながら方法を考えました。


「だから俺が縄を運ぶってよ」ウォルナットがじれったそうに言いました。


「お前だと普通の魚でも一口だぞ、ロープをお前の体に結んで誰かに投げてもらうのかい」バーントがだめだめと手を顔の前で振りました


「鳥を呼ぶさ」とウォルナットは胸を張りました。


「誰かロープに橋杭に丁度よさそうなわっかを作ってくれよ、それを鳥に運んで貰うからさ」


「なるほど、小さい割に賢いもんだな」バーントは感心しました。


「よっしゃあ、誰かロープをだせ。ロープ草から作った縄ほど軽くて丈夫なものはないぞ」


 そして、ロープの準備をする間に、ウォルナットは指笛を吹きならし、風にその音を委ねました。嬉しい事に、大鷹や大鷲など体格の良い鳥たちが音を聞きつけて集まってくれました。


 ウォルナットはその内一羽の背に乗ると、上空に舞い上がり河の上を回ってみました。風が頬を撫でて気持ちが昂ぶりました。しかし、ウォルナットは遠く街道沿いに一つの

土煙を見つけました。耳を澄ませば不気味な太鼓の音がかすかに聞こえます。

 彼は、急降下をして元の場所に降り立つと、大声を発しました。


「なんてこった。陽があるのにゴブリンどもがこっちに向かっているぞ」


「分かった、もう縄の準備はできている」

 ウォルナットは集まった鳥たちに指示をすると、先頭の大鷲が輪の部分を嘴で咥え、ウォルナットはその輪の部分に捕まりました。他の鳥たちは大きなかぎ爪で縄を握りしめました。鳥たちは強く羽ばたきました。先頭から順に縄は持ち上がりゆっくりと対岸にある橋杭を目指しました。


 先頭の大鷲が杭に到着すると、ウォルナットは輪をしっかり杭に押し込め、鳥たちはそこで上空に戻って行きました


 ドワーフ達は、それを見ると、縄を引きぴんと張りました。そしてこちらの岸の杭に結びました。その縄を伝ってドワーフ達は、ひっくりかえった状態で河を渡り始めましたがなにしろ泳げないものですから、斧を持たせれば岩をも砕くような腕力にものを言わせても怖がって遅々として進みません。その間にも後ろからは土煙が近づいてきます。


 やがて、その姿が目ではっきりと捉える距離まで、ゴブリン達は近づいて来ました。ずんぐりとした体つきは太っているのではなく、筋肉が隆起しているためです。背丈はどれも、ドワーフよりは大きく、ゼニスには及びません。体には、皮でできた防具を纏い手には鋭利とはほど遠い棍棒のような剣を握っています。耳は尖り、目は大きく見開き、鼻は潰れて、口からが大きな犬歯が飛び出しています。


 やがて、ゴブリンの一団の中から何本もの槍が飛び立ちました。そんな遠くから当たらないだろうと高をくくっていた、順番待ちのドワーフ達の頭を越え、槍は縄を伝っていた何人かを突き刺し、河に落としました。待っている側も、そんなものが当たるようでは、たまったものではなく、剣を抜いて待ち受ける覚悟をしました。


「誰か、最後の手段を経験してみないか?」尤も筋肉が隆々としたシェンナはそういうと、自分より小さい仲間をむんずと掴みました。


「なんをするシェンナ!!」と怒鳴る仲間を無視して相手の脚を両手で掴みぐるぐるっと回して向こう岸方面に放りました、すると投げられたドワーフは叫びながらも、飛び石のように水面を跳ねながら向こう岸へとんで行きましたが、岸までは届かず一旦沈んでしまい、その後でなんとか川底を伝ってやっと顔を出しました。

「おし、いけそうだ、次!!」と言われても自分が名乗りでる者はおらず、シェンナは片っ端から仲間を捕まえては放りなげました。しかし、槍も近づいてきているので、向こう岸まで届くようになってきました。


 仲間達を投げ終わると、今度は荷物も向こう岸に放り投げ、岸には3人が残りました。

「さて、残ったのは、俺様と魔法使いにゼニスかぁ」シェンナは息を荒げて両手を膝に付いて顔だけを上げました。


「ここであの数を相手にするのは、無理ですね」ゼニスは静かに言いました。


「しかし、だまって串刺しになるのはごめんだぜ」シェンナは、剣を構えました。


「ここは逃げるが勝ちとしましょう」


「俺も同感だが、ゼニス、お前、シェンナを持って向こう岸に渡れ、俺はここで時間稼ぎをする。」空五倍子は、杖を撫でながらポンとシェンナの背を押してゼニスに押しつけました。


「大丈夫ですか?」


「これでも一応魔法は使えるからな。ゼニス、向こう岸に行ったら直ぐに出発しろ、赤のエルフの森で会おう」


「分かりました、健闘を祈ります」ゼニスはそう言って。シェンナを掴み河に入りました。

「食われる!!食われるだろー」シェンナは大声で暴れましたが、細い体のどこにそんな力が潜んでいたのかと思われるぐらい、ゼニスは暴れるドワーフをしっかり支えながら泳ぎ始めました。


「さてと・・・」と空五倍子は、杖を振り上げ呪文を唱えると一匹の大きなトンボがすっと近づきそして川上に向かって去って行きました。彼はさらに呪文を続け、そして大きく杖を振り下ろすと、前方から向かってくるゴブリン達の前に炎の壁が立ちはだかりました。

 ゴブリンは一瞬ひるみましたが、そのうち一匹が無謀にその炎に突っ込み突破すると、大きな雄叫びを上げ槍を頭上たかく掲げました。

 

 その後ろからは大量の槍が炎の壁を突き抜けて投げ飛ばされ、向こう岸に飛んで行きました。既に、向こう岸をさらに向こうへと走ってゆくドワーフ達の中で、その槍の犠牲者が出ました。空五倍子はさらに炎の壁を厚くましたが、既に突破した一匹のゴブリンが襲いかかってきました。他のゴブリンもまた、炎の壁を突破しようと続きましたが、今度は炎を抜けきる前に焼け焦げてしまいました。


 空五倍子は、ゴブリンの太刀を杖で受ける度に押され、とうとう河に押し込まれてしまいました。ゴブリンは笑いながら、剣を振り続け魔法使いは、そのたびに後退する他ありません、やがて魔法使いとゴブリンは河に腰まで漬かりながらも、剣と杖を合わせ続けていました。


 しかし濡れては動きにくい服装をしている魔法使いはとうとう脚をもつれさせ、河の中で転び流されてしまいました。

 

 ゴブリンはその後を波を蹴りながら追いましたが、唐突に立ち止まり顔をゆがませました。炎の壁の向こう側からむやみやたらと投げ込まれる槍の一本が背中を貫いたからでした。そして河にその血が滴ると、肉食の魚がゴブリンの元に押し寄せて来ました。ゴブリンは暴れながら、必死に岸に辿りつこうとあがきましたが、既に槍で射貫かれている上、大量の魚たちは否応なしにゴブリンの肉を噛みちぎっては食べるものですから、脚がとうとう動かなくなり、叫び声をあげながら河を流されて行きました。


 怪我がないとはいえ、空五倍子の周りには同類の魚が集まってきているので、いつゴブリンと同じ目に遭うかもしれません。彼もまた必死になって岸をめざしますが、一匹の魚の鋭い鰭が彼の脚を傷つけたために、興奮した魚が集まってきました。何匹かに肉を持っていかれたものの、彼はかろうじて岸にあがると、大きなマントで身を包み、中で呪文を唱えました。火の壁は消え去り、彼のマントは見た目河原の大きな石になってしまいました。


 ゴブリン達は、一斉に河原に散り捜索を開始しましたが、ただ何もない河原をうろつくだけでした。やがて大きなゴブリンがのっそりと現れるとその周りに集合しました。大きなゴブリンは何かを指示し、そのしばらく後に一団は河を上流に向かって歩き始めました。

 ようやく静まった、河原では空五倍子がマントを跳ね上げ大きく伸びをしました。

「察するに、やつらは上流でこの河を渡ろうとしているのだろうが、さて私はどうしたものやら、泳ぐにはちと問題があるし、まあ時間は掛かるが待つとするか」


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