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茨街道の馬達(3)

 ドワーフ達は疲れ切って朝が来てもまだ目覚めていませんでした。オムラドの木の周りには沢山のゴブリンの死骸が地面を覆い、その上をハエが飛び交っていました。そして数頭の大きな馬が周りで草を食んでいました。しかしそれを従えていたエポナの姿はありません、ドワーフ達がつれてきた小さな馬も居ませんでした。


 一番最初に起きたのは、オムラドの木の洞で寝てから、朝まで寝続けていたバーントでした。彼は、ずっと寝ていたので昨日に起きた戦いのことは全く知りませんでした。


 そんな事ですから、周りの惨状に大きく口をあけて、見渡すばかりでした。そこで、ゴブリンの死体に囲まれながらも、すやすやと寝ているビスタを見つけると、胸ぐらを掴んで無理矢理起こし、昨晩に起きた戦いについて語らせました。もっとも、カーディナルが側に座りひたすら祈った事は、ビスタを始め、誰も覚えていませんでした。


 やがて皆が起きたものの、馬車を引く彼らの馬が無いので、途方に暮れていると、一頭の馬がビスタに近づきました。馬には鞍が付けられ手綱には、羊皮紙が結んでありました。


 おやと、それを外して羊皮紙を開くと、そこにはエポナからの伝言が記載されていました。


 親愛なるドワーフ達へ。

 昨夜は、皆良く戦い、誰一人喪わなかったのは、よほど運に恵まれていたのでしょう。

 しかし、野にはまだ多くの悪鬼どもが未だ潜んでいますので、くれぐれも

 気を緩めることが無いようにしてください。


 私も出来れば、あなた方を守り目的地まで送って差し上げたいのですが、

 私の身も心も馬と伴に草原にあり、この草原を荒らす者どもを

 放って置くわけにはいかないのです


 悪鬼どもの脚は早く、あなた方の馬車では再び襲撃に遭うと予想されます。

 そこで、あなた達が早く目的地に着けるように、私の馬を置いてゆきます

 この馬たちに乗れば、風の様に走りゴブリンとの距離を大きく開けてくれる筈です


 あなた方の小さい馬達は、私が暫く預かっておきます。いずれこの地に

 戻って来た時お返しします。


 ご健闘を  エポナ。



「こんな大きな馬にどうやって乗れというんだ?」思わずビスタが馬を見上げました。あぶみが、丁度頭の処にあるので、とてもそこに足をかけることなんて出来そうにありません。


「どうせ、馬車の大きな荷物は持って行かれないからな。それを重ねて足場にでもするか」バーントが、ビスタに言いました。


「そうですね」とビスタは頷きました。「みんな、馬車からテントやら樽やら下ろしてくれ、馬に乗る足場を作るぞ」と声を張り上げました。


 すると、皆はのそのそと動き始めました。誰も馬に直接乗りたく無いからでした。山の洞窟を住処にする彼らとしては、おさやその取り巻き以外は、それほど遠くに行く用事も無かったので、歩いて移動するのが普通で、里に住む他の種族を交易をするときに、はじめて馬車を使っていましたので、馬に直接またがることなどは無かったのです。


 いやいや働きながらでも、そもそも動いていないと、気が滅入るような性格が多いドワーフ達でしたので、いつの間にやら、荷が積み重なって、馬に乗るための足場ができあがってしまいました。


 あとは、誰が先に馬の背に乗るかです。互いに顔を見合わせ、牽制しあっていましたが、やがて彼らの目は日頃から馬になれているだろうってことで、ヘンナ、チェスナット、シェンナにむけられることになりました。しかし、この三人でまた互いに目を合わせては、首を横に振ってばかりいて、埒がつきません。そこでビスタが、三人の傍にやってくると、握り拳を差し出して、指を開きました。掌には、一個の賽がありました。

「これが一番だろ」


「分かった、その代わりあんたも参加しろ」ヘンナが、賽を取って言いました。


「俺は、馬は苦手だ」ビスタは、首を振りその場から逃げようとしましたが、ヘンナがその腕を掴みました。「みんな、馬に乗ったことのある奴なんか居ないのだからな」とビスタと他の二人の御者に向っていいました。御者達は、そうだそうだと頷きました。


「しかしおれは、じいさまの遺言で馬にだけは乗るなと・・・」ビスタは、しどろもどろになりながら弁解を試みました。


「そういや、お前のじいさま、大猪に乗って山の中を駆け回っていたそうだよな」バーントが横から口を出しました。


「いや・・・それで落ちて動物には乗るなと」ビスタは、必死な形相になってきました。


「鹿にも乗っていたと、聞いた事があるし」シェンナがぐっと顔を寄せてきました。


「ああ・・・鹿からも落ちたとか」


「熊にもまたがっていたそうだな」ヘンナが笑いながらいいました


「それは、ない!」


と、その時、カーディナルの甲高い声が響きました。


「すごーい!!高くて気持ちいい!!」そして、ドワーフ達の歓声が聞こえました。バーント達がそちらを見れば、いつの間にか他に踏み台が作られて、カーディナルは、一人で馬に乗ってゆっくりと草原の中を歩んでいました。


「いいな・・・あれ」ふと、ビスタが思わず口に出しました。


「櫟山のドワーフが、人の子どもに先を越されるとはなぁ」バーントは、一度息を吸うと、踏み台にあがって行きました。「馬をここに引っ張ってきてくれ」


 しかし、連れてくる必要はありませんでした。馬の方から踏み台によってきて、バーントの前で止まったのです。


 そこでバーントは、ゆっくりと鐙に足をかけて鞍に腰掛けました。そして手綱を持って見よう見まねで、あぶみで馬の両わきを優しく打ちました。すると、馬はゆっくりとした足取りで前に進みました。


 バーントは、最初はおっかなびっくりのまま馬を進めていましたが、馬はバーントの言う事をよく聞くどころか、まるで何も指示しなくても、彼の行きたいところが分かるように進むのです。草原をかるく小さい円を描くように回ると、馬は再び踏み台の場所に戻ってきました。


 バーントが、馬から下りると、いつの間にか踏み台にはドワーフ達の列が出来ていました。


 ドワーフ達は、交替しながら馬にまたがり、そして降りると妙に興奮して「こりゃいい」と未だ乗っていない仲間に、唾を飛ばしながら報告していました。


 馬になれてくると、ドワーフ達は各自どの馬に乗るか相談しました。馬達はそれを面白そうに周りを囲んで見ていましたが、なかなか決めかねていたので、とうとう馬達がしびれをきらし、一頭の栗毛が頭で一人のドワーフを押し、踏み台に向わせ、さらにもう一人のドワーフにも同じことをしてから、みずから踏み台の脇に立ちました。


 「二人で乗れってことみたいだな」二人のドワーフは、顔を合わせると、順番に馬にまたがりました。馬は、そこでゆっくりと踏み台から離れました。


 すると、別の馬が同じような行動をとってやはり、二人のドワーフを選ぶと、背に乗せました。


 そうして、ドワーフ達が全員馬に乗ると。一斉に馬達は、茨街道を走り始めました。風が強く顔に当たり、前に坐ったドワーフは必死に手綱を握り、後ろのドワーフは前に坐った仲間の体をしっかり掴んでいました。


 カーディナルは、前に乗ったビスタの体に必死にしがみついていましたが、鞍が硬いのでお尻の皮が剥けそうな気持ちでした。しかし、ドワーフ達は、山の中で硬い石の上に坐っている事も多いために、お尻の皮がとても丈夫にできていましたので、全く苦にしませんでした。


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