第三話
「失礼する」
ガチャリと銀行の扉をくぐると事務員の初老の男性が礼儀正しく近づいてくる。
「なにかご用でしょうかお客様」
「ああ、これの照会を頼む」
「わかりました、宝くじでございますねこちらのソファーでお掛けになってお待ちください」
そして一時間後、先程の男性が戻ってくるとあたまを下げて別の部屋に案内される。
部屋にはおしゃれな調度品が並べられた部屋で、ひとめで特別な客のための部屋とわかるが、落ち着かない、ひょっとしてこの部屋は罠で魔王である我を捕らえるためのものではないか?
など考えていると先程の初老の男性が姿勢を低くしてやってくる。
「どうもどうも、グレイス様お待たせしました」
「グレイス? あああうむ」
"おっと、危ないグレイスとは我の人間の時の偽名であったな"
「突然ではございますが、宝くじ一等当選おめでとうございます」
「はっ?」
呆気に取られいると、ベルを鳴らし紙吹雪を散らし始める、えらいテンションで迫ってくる男性といつのまにか増えている職員、それから怒涛の勢いで職員に流されるまま口座をつくり送り出される。
「お、おうこれは良いことなのか? ま、まあとりあえず戻るか」
疑問に思いつつも隠れ家に戻る、このお金はどうすれば良いのだ? マロンならなんか良い案があるかもと思いたずねてみる。
「えー? 魔王様宝くじあたったのチョーアゲアゲじゃん!☆」
「アゲアゲ?」
「チョー最高ってこと☆」
「ああ、うん、そだね、ありがと、でどうしようこれ」
「どうするって、ご自分のモノなんですからご自由になさったらあいじゃないですかぁー?」
そういいながらバンバン背中を叩いてくるマロン、痛い痛い。
「まぁ、ゆっくり考えたらいいじゃないですか☆」
「そうすることにしよう、後くれぐれもこの事は秘密にな」
「ハァーイ、私と魔王様だけの秘密ですね、おけまる☆」
口調は軽いがこう見えても信頼のおける口の固さひと安心だろう、胸を撫で下ろして帰ろうとするとマロンが思い出したように一枚の報告書を差し出す。
「これは関係ないかなぁと思ってお渡ししなかったんですけどぉ、今の魔王様には必要かなぁっと思ってお渡ししておきますね☆」
「えっ? これは何の報告書?」
「前に宝くじが当たった人間の資料です☆ 面白半分でまとめた物ですが、お役にたてそうでよかったです☆」
マロンはそういうとイタズラっぽくウィンクしてみせるのであった。