お前のような眼鏡ブスと婚約なんて嫌だと十八で、王太子殿下から婚約破棄されて妹に奪われましたが、なんと王太子殿下の弟がやってきて契約婚約を提案されたんですけど、私もう28歳で図書館司書やってるんですが。
「……はい次の方どうぞ、貸出ですね。初めての方ならこちらの用紙に……」
私はにっこりと笑い、目の前の青年に申し込み用紙を差し出しました。
すると青年は私の手をぎゅうっと握りしめ、ようやく見つけました! と大きな声で叫ぶのです。
「図書館内はお静かに願います」
「……やっと見つけました。リーファ義姉上! お願いです。僕と婚約してください!」
「はい?」
金髪碧眼の美青年はにっこりと笑ってストレートに言い放ちます。しーっと周りの人から言われても興奮冷めやらぬご様子。
私はじっと青年の顔を見てみます。見覚えがあるようなないような……。
「リーファ義姉上、僕です。クリストファの弟のアレクシスです!」
「ああ、アレク王子、お久しぶりですね!」
私が気が付かないのは当然です。だって最後に別れた時、彼は八歳だったのですから。
私はそう、十年前までは王都にいて、彼の兄、クリストファ王太子の婚約者をしておりました。
十年前にお前みたいな眼鏡ブスと婚約なんてできるか! と破棄されて、私はまあそれはそれでいっかと思いつつ、祖父が領主をしているこの辺境にやってきて、祖父が建てた図書館の司書として就職したといわけでした。
「わざわざこんなところにまで……そしてどうして?」
「だから僕と婚約をしてほしいのです!」
「……とりあえず仕事が後もう少しで終わるので、喫茶室でお待ちいただけます?」
「ええ待ってます!」
わけがわからないことをいうお子様だったのですが、大きくなってもそうかなあと私は思いました。
割ととんでも発言をしていた彼と、そしてあほの王太子といわれた兄、わが国は大丈夫なのかとよく噂は聞こえてきましたけど。
「……ああそういえば今日はうそをついてもいい日でしたね」
私は冗談が好きな子だったからからかいにきたのかななんて思いながら、カウンターの仕事に戻りました。
しかし彼の婚約者ねえ、そういえばそんな時期か後思いつつ私は昔を思い出しました。
『眼鏡ブス、お前みたいなのと結婚なんてとんでもない!』
『はあ』
眼鏡ブス、確かにその通りでした。
眼鏡がないと何も見えず、そして髪はごわごわ雨が降るとぶわああと広がる。
よく不細工と陰口で言われてました。
気持ちはわかると私がうんとうなずくと、王太子殿下は地団駄踏んで怒ります。はあとかなんだよとだってはあ以外に答えようがなくて。
『私はお前の妹のミーファと婚約する! お前との婚約は破棄する!』
『はあ? 妹はまだ六歳ですけど!』
『先物買いだ、あれは絶対に美人になる!』
『……幼女趣味でしたか、殿下』
『違う、先物買いだ!』
とりあえずこんなあほな会話を繰り返し、私は婚約を破棄されました。
しかしミーファはまだ八歳です。なのに婚約者って……やっぱり幼女趣味だったのですね。
ちらちらといつもミーファを見ていたのは気が付いてましたけど。
でもまあ私も幼女趣味の人から解放されてよかったかもです。
あのくそ生意気な妹だってまあ十年たてば少しは落ち着くし、十年たって殿下は二十九、妹は十六、まあまあお似合いですか。
私はおねえちゃまずるーい、おうちがのっているケーキはミーファのよと! と怒る妹を見てため息をつきながらも、まあいいかなどと思い、今後どうしようかななんて考えたもんですわ。
『おじい様のところにいきますか!』
婚約破棄された女に縁談などくるわけがなく、私はもう結婚はあきらめて辺境に住むおじい様のところに行って就職しようと決めたのです。
本好きであったおじい様は辺境で図書館を建てて、遊びにこないかとよく言ってきていたからです。
私は大の本好き、本が好きすぎて目を悪くしたほどでした。
ここでリーファエル・ユグナス・レグナント、十八歳の図書館司書就職、そして本に囲まれてうはうは生活が始まったのです。
そして十年後、王太子殿下と妹の婚姻が決まったのですが、結婚式にでるつもりもなく、のんきに図書館司書として生活をしていた私のもとになんと王太子殿下の弟がやってきたのです。
「そしてどうなされましたこんな辺境まで」
「リーファ義姉上、先ほどいったように僕と婚約をしてください!」
「……何かの冗談ですよね?」
「いえ、兄上が廃嫡され、僕が王太子にこのたびなりましたので、婚約者を……」
「あら年のころからみてもミーファあたりが……」
「ミーファ義姉上は兄と一緒に国外追放となりました。そして隣国で窃盗で捕まりまして今牢屋のなかです」
「はあ?」
辺境まではまだうわさが届いていないのですね。とため息ともに説明をしてくれるアレクシス王子、あほの王太子は婚約者、つまり私の妹とともに使い込みをしていまして、それが今回ばれて、陛下にも見捨てられ廃嫡されたとのことでした。
使い込みなんてずっとしていたのに、やっと気が付いたかと私は頭を抱え込みました。
喫茶室でお茶を優雅に飲みながらアレクシス王子はにっこりと笑い、僕の初恋の義姉上を婚約者にしたいと彼はにこにこと笑いながら言います。
「……半分それは嘘ですね」
「え?」
「あなたは嘘をつくとき両眉があがります。今は半分あがっているので半分嘘ですね」
「あ、あはははは、お見通しですか」
にっこりとアレクシス王子は笑い、両手をあげていろいろと周りがうるさいのでどうしても黙らせたい、だからあなたと契約婚約をしたいのでといきなり言い出したのです。
「年齢が上すぎます。もう少し説得力がある相手を探すべきです」
「あは、びしっといわれますね。昔通りだでも……」
アレクシス王子の説明によると、廃嫡された王太子の弟である自分は庶子でありつなぎだと言い切ります。確かに彼はクリストファ殿下と違い、男爵の娘であった側妃である母を持ちます。
しかし男は彼しかいないので、それも今回もわかりきったことだと思いましたが。
「……あくまで僕はつなぎ、たぶん、今度生まれる僕の弟か妹を王太子に父上はさせたいのだと思います」
「性別がわからないという跡取りを王太子になんて……」
「新しい王妃である義母上を父上は大層愛されているので、次に生まれたのが妹でもその次にたぶん賭けると僕は踏んでまして、だって義母上はまだ二十二とお若いですし」
さらっとアレクシス王子は言い切ります。クリストファ殿下も年下趣味でしたし、陛下も年下趣味でしたわ。
私はうーんと首をひねると、だからつなぎの婚約者をお願いしたいのですと彼がにっこりと笑って言います。
「つなぎでも説得力がある」
「とりあえず誰でもいいというわけではなく、口が堅い人がいいのですよねえ」
「はあ」
「なので、ミーファ義姉上、というかお姉ちゃんに頼むのがいいかなって思ってさ」
「あー、そういう人でしたわよねあなたは」
「うん」
このいたずら坊主は悪知恵が回りました。悪知恵でうまく立ち回っているところがありましたわ。
その本性を知る私が御しやすいと踏んだようですわね。
「契約ですか」
「期間は妹か弟が生まれるまでの八か月、もし妹が生まれたなら、弟が生まれるまでですね」
「……はあ」
「そうですね報酬は本十万冊が買える金貨などではいかがでしょう?」
「十万冊ねえ」
「なら二十万冊」
「……」
困ってるようなら引き受けようかなとちらっと思って、本が買えるだけのお金ときたかとおもいます。
まあそれだけもらえれば図書館に蔵書が増やせますわね。
「……もう一声」
「では五十万冊で」
「それだけのお金がどこに?」
「そうですね、僕のへそくりで」
「横領などはしてませんわよね?」
「大丈夫です。きちんと僕が正当な手順で手に入れたお金ですよ」
私はうーんと首をひねり、ならいいかと引き受けることにしました。
まあこの子が言うことなら間違いないかと踏んだのです。私が承諾すると彼はクスクスと笑い
私の手を握りしめました。
そして契約は契約ですが、期間中に僕のことを好きにさせてみせますよとにっこりわらったのでありました。
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