ズルいズルいっていつも言うけれど、意味を知っていて?
すみません、クソ妹ブームに感化されました(笑
短いのでサクッと笑ってくださると幸いです(.◜ω◝.)
侯爵家で開かれた夜会。
その夜会はその家の長女が、公爵家の次男との婚約を発表するものだった事もあり、豪華でありながらも落ち着いた品のあるものだった。
これは娘しか居ない侯爵家へ、公爵家の息子が婿入りするもの。
侯爵家長女フランチェスカは、両親と婚約者である公爵家次男フリードとともに、招待客の挨拶を受けていた。
金髪碧眼、スマートにエスコートする様は紳士の鑑と評判のフリード。
控えめでお淑やか、おっとりとした物腰の上に総領娘。前に出ることはないが、鈴蘭の如く控えめな姿に密かに熱い眼差しを集めているフランチェスカ。
招待客は未来の侯爵家の安泰を確信し、羨望と少しの嫉妬の眼差しを向ける。
そんな二人の婚約発表も温かい拍手に包まれて終わり、夜会参加者は音楽に乗って踊る者、食事を楽しむ者と様々だ。
そんな中、主催者が一時休憩用に設けられたスペースで、突如として大声が上がる。
「なんでー!ズルいズルイですわぁぁぁ!お姉様ばっかりずるいですわぁぁぁぁぁ!!」
甲高い声に、近くにいた者は足を止めて振り向き、遠巻きに声の方向を観察し始める。
「まぁ…ジュリアナ、どうして此処に?」
主催者席には本日の主役であるフランチェスカとフリードの二人しかおらず、侯爵夫妻はどうやら別の場所で招待客に捕まっているらしく、席には居ないようだ。
「ずるいですわ!私がフリード様と婚約したかったのに!しかも新しいドレスも……!私も欲しい、お姉さまみたいに着飾りたいのに、お姉様だけなんてっ!ズルイですわぁぁぁ!」
未だ叫び続けるのは、会話からフランチェスカの妹、侯爵家の次女であることが察せられる。非常識な声量に眉を顰める者も出る中、フランチェスカは困り顔のフリードに微笑んでから、妹へと向き直る。
「ジュリアナ、お客様の前ですよ、シーーー」
「ずっっ、、ぅグッ。だって…私が婚約したかったのに……!」
「だってジュリアナ、貴女後継じゃないのよ?フリード様は、後継である私だからこそ婿として来てくださるの。貴女じゃ政略として成り立たないわ」
至極真っ当な意見だけれど、赤裸々なことを此処で言っていいのか……という空気が周りに流れる中、当のフリードは苦笑しながら頬を指先で掻く。
「それもあるけど、君だからこそ婿入りを決めたと言う事も、忘れないでくれると嬉しいな」
「ありがとうございます、フリード様…」
「じゃ、じゃぁ、私が後継になるわ!」
微かに漂い出した甘い雰囲気を、切り裂くように叫んだジュリアナは、またも姉に口の前で人差し指を立てて微笑まれてグッと息を呑む。
「でも、貴女、お勉強嫌いで逃げ回ってばかりでしょう?まだマナーの初歩も修了していないのに、後継教育は難しいのではない?」
「フリード様が居るから、私は大丈夫よっ!お家で楽しくお茶会とか、今日みたいにお洒落して夜会とかすればいいのでしょ?」
「ふふ、ジュリアナ。マナーが出来ていないのに、どうやって皆様のおもてなしをするの?マナーが出来ていない人が会を開いても誰も来てくれないわよ?」
「し、使用人がちゃんとしたらっ」
「使用人に指示を出すのは主催者よ?のんびりお茶をしているだけじゃ務まらないの。その為にもいろんな勉強が必要なのよ?」
貴族夫人の常識を優しく噛み砕いて説くと、ジュリアナは着ているワンピースのスカートをギュッと掴んで唇を噛む。
「……お姉様ばかり、着飾ったり、お出かけしたりズルいんですもの」
悔しげに呟かれた言葉に、フゥッと小さくため息をついたフランチェスカは、諭すように優しく話しかけた。
「何でもズルいズルイと言うけれど、その意味を知っていて?
“他の隙を突いたり騙して自分が利を得る、正しくない手法”ですのよ?
お勉強も頑張らない、マナーも逃げて学ばないのに、『ズルい』って言うのは可笑しいわよね?
ジュリアナ、あなたが淑女として隙だらけなのは私のせいかしら?
そんなに嫌なら全部頑張って、隙を無くさなきゃいけないわ」
「……!っだって!」
「それにね、何でも私のものを欲しがるけれど、自分で努力して本当に欲しいものを手にしなきゃ。私から奪ったものは貴女の手に残り続けてはくれないわ。だって、隙だらけなのですもの。隙を突かれなくても溢れ去っていってしまうわよ?」
「ふっっ、ぅううっ……!」
悔しさからか、ワガママの通らない現実への苛立ちからか、ボロボロと大粒の涙を零しながら泣き出してしまったジュリアナに、困り顔のフランチェスカはハンカチを手にして近寄る。腰を折って覗き込み、優しい手つきで流れた涙をハンカチで押さえると、頭を撫でてあげた。
「さ、もう部屋に帰りなさい。良いわね?子供はもう寝る時間よ?」
チラリと近くに目をやれば、ジュリアナに甘すぎる専属侍女が顔色を悪くして佇んでいた。恐らく、「ちょっと顔を見たいだけ」とか言われて、叶えてしまったのだろう。
目を合わせて呼び寄せると、ササッと近寄ってジュリアナの手を繋いで一礼して下がって行く。
フランチェスカは、二人を見送ってから周りで遠巻きに見聞きしていた招待客を見渡して、少し声を張った。
「皆さまお騒がせ致しましたわ。まだ8歳の子供の粗相をお許し頂けると有り難いです」
「物事が自分中心と勘違いしてしまう幼い時期は誰も通過する若気の至り。私からも目溢しをお願いするよ」
フリードが重ねてお願いをすると、音楽隊に合図を送って雰囲気を変えるような軽快な音楽を演奏させる。楽しげな曲が鳴り響き、皆二人の対応に笑顔を浮かべて軽く礼をして何事もなかったかのように動き出す。
「引っ込まずにその場で話し出すから、少し焦ったよ」
「ふふ、だって、次代は妹を蔑ろにしているなんて面白おかしく吹聴されては困りますもの。ワガママは身内であろうと通らない姿勢をお見せしておかなくては、変な人があの子に近づきかねませんし」
会話を近くで聞いていた何人かの貴族夫婦や夫人はドキリと胸を押さえて冷や汗を流し、早々の帰宅を考え始めた。
「流石。君がいてくれると心強いよ」
「それにしても、あの侍女は配置換えが必要かもしれません。駄々を捏ねられただけで夜会の会場に連れて来てしまうなんて」
「あぁ、夜会参加は成人してからだし、あれはいけなかったね。それにしても相変わらず人のものを羨ましがるけれど、君は大丈夫かい?被害がないと良いけれど」
「私の両親もあの子に甘いところはありますけれど何でも買い与えたり、私のものを横取りさせるようなことはさせませんわ。貰い癖が増長して他家の人のものを強請ったり、奪ったりしては取り返しがつきませんもの。今は隣の芝が青く感じすぎる時期なだけと、いなしながらも根気強く諭しておりますのよ」
「そうか、君に贈ったプレゼントはちゃんと手元にあるんだね。安心したよ。まぁあの手のワガママを真面目に受け取るなんて、貴族としても親としてもあり得ないか」
さらに周りにいた貴族夫婦や夫人が胸を押さえ出す。そして近くにいた何人かの令嬢が大きく頷き、目に涙を浮かべる。
「さ、気分転換にもう一度ダンスでも如何かな?私の姫君」
「まぁ、喜んで何曲でもお相手いたしますわ」
そうして本日の主役である二人は、手に手を取ってホールの真ん中へと睦まじい様子で進んでいった。
後日、何故か令息令嬢からの感謝状とお茶会のお誘いが届くのは、また別のお話。