表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/457

東へ……東へ……


なにかを思う間もなく衝撃が走り、俺は暖かいものに包まれる。


それがなにか気付いたのは、地面に転がっていることを認識して、俺を包む暖かな正体に気付いた時だった。


「し、師匠!?」


師匠が俺を抱きしめ二人して地面に横たわっていた。


「な!? お、おま! な、何を??」


かーっと頭に血がのぼり、口がうまく開かない。

ドギマギして心臓がバクバク早鐘を打つ。


(な、なんで? 何だこれ? 俺どうしちまったんだ!?)


抱き締められ暖かさを感じる。

何故か身を固くして縮こまってしまう。


「あ、あの……し、師匠?」


俺は必死に言葉を絞り出す。

ううう……何だこれ? 体が動かなくて全然声がでねーぞ!



師匠が俺を抱き締めたまま口を開く。


「大丈夫か? 怪我していないか?」

「あ……うん」


俺は訳が分からずただ返事して頷く。


顔が熱くなり頭クラクラして大丈夫では無いけど……怪我はしてない。


「そうか、良かった」

師匠はそう言うと、俺から離れて体を起こした。


俺は地面に横たわったまま固まって動けなくなっていたが……それを目にして声を震えさせる。


「し、師匠! それ……」


師匠の右腕が……消えていた。


(は? なんだこれ? 師匠の右腕が無くなって……血が吹き出して……)


唖然とする俺を背中に庇い、師匠が立ち上がり向き直る。



その数メートル先には、あの正体不明の生き物がいた。


「ルル、立てるか?」

「あ、ああ。 大丈夫。 それよか師匠、腕が……」


俺はすぐに立ち上がると回復魔法を唱えようとしたが、その前に師匠の左手が頭にぽんと乗せられた。



「ルル、よく聴け。 ここから東にまっすぐ行けばすぐに王都に辿り着く。 今すぐそこへ向かえ」

「は? 何言ってんだよ!? 師匠怪我してるじゃねーか! 今治してやるから……」

「私はいい、私に構うな。 それより今すぐ走れ! 王都に向かうんだ」


師匠はじっと正面の生き物から目を逸らさない。


……あいつか? あいつが師匠の腕を?


俺は黒いカマキリヤローに向き直ろうとした時、


「ルル手を出すな!」

師匠が鋭く告げる。


「だ、だけど」

「あいつの狙いはお前だ、ルル」

「え? 俺あんな奴知らねーぞ!」

「言っただろう。 お前は魔王に狙われていると……あいつは魔王配下の魔族だ」


その言葉が聞こえたのか、魔族が腕をこちらに向ける。


「『シールド』!」


同時に師匠が守護魔法を発動する。


バンッ!!


師匠の張った『シールド』の魔法に、光線が直撃して打ち消し合う!!

光線は魔族の腕から放たれていた。


(ま、まさかあれってさっきの?)



先程あいつが俺に腕を向けた……その後師匠が俺を押し倒して腕が無くなっていた。


師匠が……俺を庇った!?


「し、師匠!」

「気にするな、弟子を守るのも師匠の努めだからな」

「だから、何で考えている事が……って、そうじゃねー」


俺は師匠の横に並び立つ。


「何をしている? 早く行けと言っている」

「俺と師匠の二人ならあんな奴一捻りだろ?」

「……」


師匠は何も言わない。

いや……多分怒っている。


俺があまりにも馬鹿だから。

言う事を聞かないから。




そう思っていた…………師匠の涙を見るまで。


「し、師匠!? どうして……?」

師匠が初めて流した涙を見て俺は動揺してしまう。


「……ルル、お前は本当に良い子だ。 私はお前に出会え、お前を弟子と出来た事を誇りに思う」

「あ、ああ。 だからこれからも……」

「……師匠として初めて命令する。 行け! 王都を目指せ!」

「っ!? な、何だよそれ! 俺はこれからもあんたと一緒に……」


ポン!


と、頭に手が乗せられ……続いてコツンと小突かれる。


それは『私の言う事は正しい……信じろ』そう言う事。


「そ、そんな……い、嫌だ」

「ルル、私が時間を稼ぐ。 ……いや、稼ぎきって見せる。 お前が王都に着くまで必ずこいつはここに留めておこう」

「師匠はどうなるんだよ!」

「私は……『シールド』!」


再度光線が放たれシールドに当たり霧散した!


「どうやら連発は出来んようだな」

「二人なら倒せるって! 一緒に旅してくれるんだろ! なぁ!?」


師匠は残った左腕で俺を抱き締めた。

そして小声で、


「私は一緒には行けない。 すまない」


そう言って俺を突き飛ばした!!


ヨロヨロと師匠から離れた俺は、


「まだ全然教えてもらってねーよ! 師匠、頼む! ううん、お願い!!」

俺にもこんな面があったのかと思う程弱々しい声が出た。


しかし師匠は俺に背中を向けたまま、

「駄目だ! 早く行け、行かないと言うなら……」


初めて聞く声。

冷たくて怖くて……俺は二度とあの師匠の声を聞きたくない。


「師匠……」

俺は……躊躇しながらも……気付けば走り出していた。


俺の背中に声が届いた。

それは小さく……そして初めて聞いた嬉しそうな声。


「ルル、ありがとう……」





師匠に言われた様に東へ……東へ……。


(くそっ! なんで俺は!!  師匠……師匠……)

何もない暗い中、ただただ言われた方向へ走る。

転がる岩に足を取られつつ、ただひたすらに走る。


涙が溢れて止まらない。

あの日、師匠に初めて会った時以来の涙だった。


悔しい……どうして俺は師匠を置いて走っている?

悔しい……『聖者』なんてスキルを授からなければ良かったのに!


「クソっクソっクソっ!!!」

俺は溢れ出る涙を袖で拭いながらも走る。

いくら拭いても溢れる。


足は止めない……師匠が小突いたから……俺は走る。


その代わり、師匠に聞こえる様に大声で叫んだ!!


「師匠!! さよならは言わねーからなぁ!!  また今度魔法教えろよ!!」


星明かりしかない暗闇の中を俺は駆け続けた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ