スキル受託
壁も天井も床も……何もかもが白い部屋。
そして部屋の中心には台座があり、その前には大きな長方形の帽子をかぶった老人が立っていた。
白く長いひげが特徴的だが優しそうな眼をしている。
老人は赤地に金の刺繍が入った高価そうなローブを纏っていた。
そして台座の横には師匠と先程の神官が二人並んで立っている。
「ルル、こちらは司祭様だ」
「司祭様?」
聞き覚えのない言葉に首を傾げる。
「簡単に言うと神官や僧侶をまとめている人だ」
「おお、なるほどな! つまり師匠の師匠って事だな!」
「……すみません司祭様。 ルルはちょっと礼儀がなってなくて」
ん? なんで師匠が司祭に謝ってんだ?
礼儀ってなんだ?
司祭はしわの寄った相貌を崩して、
「ホッホッ、良い良い。 元気でいい子ではないか。 なぁアスラ?」
「は!」
神官が返事をする。
どうやらアスラと言う名前らしい。
「それではルル。 こちらへおいで」
司祭に言われて俺は前に進んだ。
「さぁ、この台座に座って目を閉じるのじゃ」
俺は素直に言われた通りする。
なんか……逆らうって感じじゃないし、声が……優しくもあり有無を言わさない様な……。
いや、別に逆らいたいわけじゃないぜ?
何となくそんな感じって事だ。
そして司祭は俺の前で神への祈りを捧げ始める。
俺はそれを目を閉じて聞いていた。
すると……なんか心の中に暖かな気持ちが溢れ出す。
(な、なんだこれ?)
もにょんと言うかグニョンと言うか、何かよくわかんねーー!!
とりあえず暖かな何かが俺の中に入り込むような、そんな感覚がする。
どれくらい経ったのだろう?
1分2分だったかもしれないし、5分とかかもしれない。
「いいですよ、ルル。 目を開けなさい」
司祭の声が聞こえ、俺はゆっくりと目を開ける。
気付くと心の中に入り込んだ暖かなものが消えていた。
何だったんだろう?
不思議そうな顔をする俺に、司祭は優しく微笑むと、
「ルル、貴方のスキルは『聖者』です」
司祭から伝えられた言葉に俺は目をぱちくりさせる。
聞いたことのないスキル名だった。
師匠から言われたのは『治癒師』『回復師』『魔力増加』『魔力節約』とかだったはず……。
(お、俺の欲しかったすきるじゃねー!)
思わず拳を握りしめ、ワナワナと震わせる。
そして師匠に目で訴えようとして……そこで気付いた。
アスラ、師匠、そして僧侶の三人は目を丸くして固まっている。
「し、師匠~」
まさかの情けない声が俺から漏れた。
自分ではそこまで思わなかったが、欲しいスキルじゃなかったのが余程ショックだったらしい。
「そ、そんな! 『聖者』のスキルですって?」
まず最初に声を出したのはアスラ。
先程までの物静かな様子は無くなり慌てたような……興奮したような感じだ。
そして師匠。
「ルルが……『聖者』……。 不思議な感じはしていたが……まさか『聖者』とは」
そんな師匠に俺は、
「あ、あの師匠? 俺、師匠の言っていたスキル貰えなくて……」
「いや、ルル。 お前のスキルは凄いものだ」
「え?」
聞いたことのないスキルだったけど……。
「『聖者』……世界で一人しかもらえないスキルで、この前お前に教えたスキル全ての効果がある」
「え? ええ!?」
(え、えと、つまり治癒効果と回復効果が上がって、魔力が増加して、魔力が節約できるって事か?)
なんか色々詰め込まれた気分だ。
「アスラ。 国王に連絡を」
「わ、分かりました。 大至急」
司祭にそう言われるとアスラは部屋を飛び出していった。
(そんなに慌てる事なのか?)
俺は首を傾げる。
確かにもの凄いスキルって事は分かるが……。
師匠が俺の頭にポンと手を置く、
「ルル、お前の力があれば多くの人達を救えるだろう。 もしかしたら死んだ奴を生き返られることだってできるかもしれない」
もの凄い事を言われ思わず口をポカンと開けてしまう。
「は? 死んだ奴が……生き返る? ははっ……え? まじなのか?」
徐々に言葉が浸透してくる。
「もしかしたら……だ。 修業は引き続き必要だろうしな」
師匠はそう言うと俺の頭をコンと軽く小突いた。
こうやって師匠が小突く時は、師匠が『自分の言っている事が正しいだから従え』と伝える時だ。
最初は分からなかったが、今では色々な事が分かる。
まー師匠って口下手だからなぁ……行動から読み解かないといけない事も多くて、弟子としては大変だぜ!
「神官ダンテよ。 『聖者』の顕現は今起きている世界の悲劇を救う事になるだろう。 ルルの事頼むぞ」
「はっ!」
司祭に恭しく頭を下げる師匠。
そこへ僧侶が一本の小振りな杖と服を持ってきた。
「聖者ルル。 これをお渡しいたします。 こちらに着替えると良いでしょう」
そう言った僧侶に連れられ、隣の部屋に連れられる。
服は純白のローブでフードが付いている。
いつも着ている僧侶服に似ているが……布の材質が違う感じだ。
肌触りもよく光沢を放っている。
杖の方はメイス程度の長さだが、二匹の蛇が絡み合う様なデザインをしている。
殴れなくはないだろうが、どう見ても鈍器用ではなさそうだ。
(俺はメイスとかハンマーとかの方がいいんだけどなぁ……)
とは思いつつも服を着替えて、杖を腰ひもに差し込んだ。
先程の部屋に戻ると師匠以外はいなくなっていた。
俺が戻ると師匠は俺に姿を一目見て、
「ほう、似合ってるじゃないか」
「え~。 服はともかく杖はメイスの方がいいんだけど」
「贅沢だな。 その杖も魔法の効果を上げるものだぞ?」
(え? そうなの? 何にも言われなかったけど……何で知ってるんだ?)
首を傾げる俺に構わず。
「それじゃ行くか。 とりあえず、まずは王都に行く」
「王都……ってなんだ?」
再度首を傾げる俺。
師匠は何とも言えない表情をした後、
「お前にはもっと色々教える必要があるな」
とため息交じりに答えたのだった。