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四年後


それから早四年の月日が流れた。

十三だった俺は十七となっていた。


この世界では十七で成人となる。

つまりこれで俺も大人の仲間入りって訳だ!



そしてダンテと一緒に今でも旅を続け、国を回っては人々を助けていた。


魔王の呪いはあちこちの村、街、城に襲い掛かり、国の人口は半分以下となったとも聞こえてきた。

ただしそれは俺達がいる国の話。


国によっては亡びた所もあるらしい。



世界には大小いくつのかの国があるらしいが、呪いへの対抗手段が無い国などはすぐに滅びてしまったと聞いていた。

更に追い打ちをかける様に魔王が魔族の軍勢を率いていくつかの国に攻め入ったとの情報もあった。



しっかし旅して分かったが……ほんと、世界って言うのは広いぜ。

俺のいた村なんて小さいったらありゃしない。




「おい、ルル。 日課の聖水作成は終わったのか?」

「当たり前だ! あんなのちゃちゃって出来るしな」

「お前……まぁちゃんと作成してるなら良いだろう」


朝飯の準備が終わるぐらいにダンテがテントから出てくる。

どうやら着替えていたようだ。

出てきて開口一番に日課の確認とは恐れ入るぜ。


「ルルいいぞ、今度は俺が火を見ておくから着替えてこい」

「あいよ。 じゃあ頼んだぜ」



俺はテントに入るとスルスルと服を着替えていく。


寝間着にしている毛皮から作った服を脱いで、シュミーズの上から僧侶見習の服を身に付けていく。

フード付きのローブで、腰は緩やかな紐で締められるようになっている。


(まったく……めんどーだよな。 十五からだっけ? こんな風になってきたのは……)

膨らんだ胸に手を当て溜息をつく。


(くそっ! おかげで神官じゃなくて僧侶になる羽目になるとは……)


そうなのだ、神官は男がなるもので女性は僧侶になる。

何ら違いがあるわけではなく名称が違うだけなのだが。


そして……俺はこう見えて女だ。

まぁこう見えてっても分からないだろうが。


ダンテ……こほん! えと今じゃ師匠だったぜ。


師匠も最初俺が女と気づかなかったしな。

考えてみたら初めから『神官』にならないかって聞いて来たし。


まぁ農村の村娘だし特に身なりも気にしてなかった上、ヤンチャして体中傷だらけだったからなぁ。


俺が水浴びをしていた時に初めて気付いて随分慌ててたっけ。

シッシッシ! 珍しく慌てる師匠にあの時は笑いが止まらなかったぜ。


……まぁそれからは口やかましくなったけどな。

「女として気を使え~」だの「身だしなみを~」だの。


はぁ……あのまま男として思われてた方が楽だったんじゃね?と思うが、まぁ今さら言ってもな。



着替えを終わらせ外に出ると、師匠が朝飯を皿に盛っていた。


二人揃って祈りの言葉を口にして、それから食べ始める。



「ルル。 お前ももう十七。 そろそろ神殿でスキルを取得して良いかもしれん」

「ん? スキルってなんだ?」

「『神の祝福』とも言われている。 大人になった者達は『神託の神殿』と言う場所で祝福を受けることにより、特殊な力を授かることが出来る」

「へ~」

「今のお前は私の元で修業しただけあり、一通りの回復魔法や強化魔法、そして護身方法や旅の仕方などを学んでいる」

「おうよ! もう師匠にも勝てるんじゃね?」

「……護身方法ならそうかもな。 それでだ」


師匠は真面目だ。

俺がいくら茶化してものってこない。


「もし神殿で『治癒師』『回復師』等を授かれば、魔法の威力を底上げできる」

「まじか」

「そして『魔力増加』『魔力節約』などがあれば魔法での疲労も和らげることが出来るだろう」

「おお! そいつは助かるぜ! 魔法って結構疲れるからなぁ」


俺はしみじみ呟いたが、ふと思った事を尋ねてみる。


「じゃあ、スキルを取るといいことだらけなんだよな? なんで大人にならないと駄目なんだ?」

「スキルって言うのはいわば体に急な変化をもたらすものだ。 成長中の体に急激な変化は負担を掛けてしまい悪影響を及ぼす」

「むぅ、そうなのか? 難しいもんだな」

「まぁ、どちらにしろお前は大人だ。 この後神殿に向かいお前のスキルを取ろうと思う」

「よっしゃ! 俺の力の底上げになるなら何でも来いだ! そうして俺は呪いを解いていくぜ!」


そう言って俺はガッツポーズをする。

師匠が俺を見て顔をしかめた。


(また女なのにはしたない~とかつまんねーこと思ってんだろうな~)




師匠の弟子になっていくつもの村や街を巡った。

助けられた人達、助けられなかった人達……。


助けられなかった場合は……倒すしかない。

それが彼等にとっての唯一の救済なのだ。


そしてそれは俺の心を責め続ける。

人だった者達……それを倒してきた事を。



そんな俺を支えてくれたのは、親父とお袋へ宣言した決意と、


「ありがとう! 貴方のおかげで……」

「貴方が居なければ……」

「俺の嫁を助けてくれて……」

「お兄ちゃんを……」

「子供を……」

「おばあちゃんを……」


沢山の感謝の言葉。

助けられた人達の涙ながらの言葉だった。


その言葉があるから……俺は呪いを解いて回る、旅を続ける。


まー俺の性格上、感謝に対して素直に言葉が返せねーんだけどな。

おかげでぶっきらぼうな言葉しかでてこねー。


師匠にも優しく答えてやれと言われるんだが……照れちまうんだよなぁ……。



「今日中には神殿に着くはずだ。 食べたらさっさと出かけるぞ」

「あいよ、師匠」


俺は返事をすると皿の中身を口の中に搔っ込んだ。





森を抜け山を越え歩き続ける事数時間。

少し高地になっている場所に大きな神殿が見えて来た。


神殿は大きな一戸建てと言う感じで、丸い石柱が何本も立ち並んで天井を支えている。

全てが真っ白い不思議な石で出来ていた。


神殿の入口には槍を携えた兵士姿の男性が見える。

入り口の左右に立ち並び警備をしているようだ。


俺達が近寄ると、お互いの槍でクロスを作り入り口を塞いだ。



「止まれ、確認をさせてもらう」

「ご苦労様。 これだ」


兵士は師匠から受け取った小さなカードを確認していたが、


「ダンテ=フェイと確認した。 通って良いが……」

兵士は俺に視線を向ける。


「お前は?」

「こいつは俺の弟子だ。 僧侶見習いで本日スキルの祝福を受けに来た」


兵士は俺をジロジロ見ていたが、師匠に視線を戻すと、

「よし、では神官ダンデ。 お前の保証の元そいつの通行を許可しよう」


「ああ。 ルル、行くぞ」

俺の手を取るとその手を引っ張り師匠が歩き出した。



入り口を抜けると薄暗い通路が続く。

師匠はその中をずんずん進んで行く。


「あ、お、おい! そんな引っ張んなって!」


力強く引っ張る師匠に思わず抗議の声を上げる。

すると、師匠がやっと手を離した。


「何すんだよ! そんな引っ張らなくても歩けるって」

「お前……今あの兵士に手出そうとしただろ?」

「う……」


いきなり図星を突かれて口がどもる。

ごまかす暇もなかった。


「だ、だってアイツの目見ただろ? 馬鹿にした様な目で見やがって! しかも師匠まで……」


師匠は喋る俺の頭に手を置いて腰を落とすと目線を合わせる。

その姿に俺は黙り込んでしまった。


「いくらイラついたからと言って手を出すのはいかん。 私達は人々を癒す存在であるべきだからな」

「む~だってよぉ」


コツンと頭を小突かれる。

それは師匠の合図。

これをされたら素直に従わないといけない。


「だってじゃない。 ハイ復唱!」

「わ、私達は人々を癒す存在」

「はい、良いでしょう」


顔に掛かる前髪の間から覗かせる瞳。

いつもと変わらないように見えるが、少し嬉しそうだ。


(チッ! 俺が素直に従ったからって……嬉しそうにしやがって)

俺は師匠から顔をそむけた。



そうして薄暗い通路を歩いていくと、明るく広い場所に出た。

部屋の中央には円い池の様な物が作られており、透き通る綺麗な水がコンコンと湧き出て溢れている。

その両側には神官と僧侶が一人ずつ立っていた。


通路は奥に続いているようだが、師匠と俺はその部屋で立ち止まる。

そして師匠が二人に対して、


「神官ダンデ=フェイ。 僧侶見習いのルル=ホリィへ『神の祝福』を享受願います」


すると僧侶が前に出て、


「神の祝福は分け隔てなく与えられるでしょう」


師匠は俺に向かって、


「ここで体を清めて先に進む事になる。 俺はそこの神官の方と先に行っている」


そう告げると、僧侶に頷いて見せる。

僧侶も師匠を見て頷くと、


「さぁ、若き僧侶よ、こちらへ」


部屋の隅に連れていかれる。


師匠と神官は通路の先へ進んで行って、部屋には俺と僧侶の二人だけとなった。


「では服を脱いでこちらへ。 そこの水で体を清めた後、この服へ着替えなさい」


俺は言われた通りに服を脱いで全裸になると、部屋の中央にある池に入る。


水は思ったよりは冷たくなかった。


全身を水につけ、髪を濡らす。

茶色の髪は昔より伸びて腰の上ぐらいになっている。

水に付けていくと広がり漂っていった。


そして顔、首、肩、腕……と全身を濡らし手でこする様にしていく。


(旅の途中でも水浴びはしていたけど、やっぱり綺麗にするのは良い気持ちだなぁ……)


胸……お袋もでかい方だったからか、俺もそれなりにありやがる。 

腹……余分な脂肪なんてないぜ。 これでも鍛えてるからな!

股……まぁ普通だと思うぜ? 他人と比べたことはないけどな。

脚……蹴りも走りも師匠より上だぜ?

足……今はどんな長旅でも痛くならなくなったな。


そうして全身を洗い流していく。


「これを」

上がろうとした俺に僧侶の女性がタオルを差し出してきた。


それを受け取り体を拭いて準備されている服を身に付けた。

真っ白いさらりとした肌触りの服で、上から下まで一枚の布で出来ている様なキトンと呼ばれる服だった。


服を着ると僧侶に連れられ奥に続く通路を進む。

既に師匠は先に行っているはずだ。


そして通路を抜けると、そこは真っ白い部屋だった。


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