Chapter:23
「三日月永眠、か。凄いタイトルですね」
「人目を集めるのにはちょうどいいだろ?」
煙草をくゆらせ、二宮は部下に笑みを見せた。
部下が持っているのは、明日発売される週刊誌だ。表紙にはでかでかとクレセントの文字が書かれている。
「それより頼んでた件、どうだった」
「あぁ……正直よくわかりませんでした」
胸ポケットから手帳を取り出した部下は調べた結果を読み上げる。
「静谷十夜の遺体というか、遺骨も見つかってないらしいんです」
「骨も?」
「はい。まぁ、あれだけ燃えたから仕方ないかもしれませんけど……」
あの日、二宮がクレセントの事務所に向かったときにはすでに火の手が上がり、どうすることも出来なくなっていた。
クレセントのメンバーと思われる男二人は刺殺され、奇抜な服装でごみ捨て場に転がっていた。それを見つけたのは、研一達だったのを二宮は見ている。
「皮肉なもんだな」
「え?」
「桐原明日香はクレセントの記憶を忘れて、静谷十夜は死亡すら確定出来ない」
瀕死の状態で助けられた明日香は警察病院にて保護されており、マスコミも容易に聞き込みが出来ない。
煙とともに吐き出した二宮の台詞に部下は首をひねる。
「それのどこが皮肉なんです?」
「クレセントの半数は確実に死んでないってことだよ」
「はあ……」
「永眠っていうより仮眠かもしれないな」
誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。
「二宮さん何か言いました?」
「いや、別に」
「それにしてもお手柄ですよ。クレセントの一人が昔の一家殺害事件の被害者だなんて」
興奮気味に部下は言った。ペンで記事を叩き鼻息も荒い。
「どこのメディアでも扱ってない情報です」
「そりゃあ努力と取引の賜物だ。お前も良いネタ探せよ」
大きな返事をして部下は二宮から離れていった。
「せいぜい世間を騒がしてほしいもんだ」
煙草を灰皿に潰して空を仰ぐ。真っ青なそれは、確かに彼の瞳に映っている。
「なぁ、誰かさんよ……」
その呟きはやはり誰の耳にも届いていなかった。
「ごめん、起こした?」
「……大丈夫」
昼寝から目を覚ました明日香は瞼をこする。その姿に研一は微笑んだ。
入院している彼女は以前より少し痩せた。記憶を失い、あまり食事を摂らずこんこんと眠る日が続いている。
「ねぇ海野さん」
「ん?」
「何か忘れてる気がするの。大切っていうか、そういう何かを」
自分でも上手く言えず、もごもごと濁す。
研一は一瞬驚いた顔をするがすぐに戻した。
「全然思い出せなくて、わからないの」
「さっき、美穂が見舞いに来たんだ。寝てるならまた今度来るって」
「そう……、次は起こしてね」
「わかった。花飾るから水入れてくる」
くしゃりと明日香の頭を撫でて研一は出ていった。
「行ってらっしゃい」
左袖をまくり、腕に残る赤い蝶の刺青を見つめる。自分で入れようと思っていなかったはずのそれは、色鮮やかだった。
「何か、忘れてる」
そう口に出した瞬間、どこからかバイブの音が鳴った。
辺りを見回すと警察から返された明日香の携帯電話が震えている。
データはすべて警察が消したため、番号が記載されても誰かわからないが、画面は非通知となっていた。
「もしもし」
「久しぶり」
「……どなたですか?」
「蝶はカゴに閉じ込められちゃったか」
残念だなと電話の相手は呟く。
「桐原。いずれ自分から出ないとその綺麗な羽根が腐るよ」
「何言ってるの。貴方は誰?」
「三日月が消えたら、次は満月だね」
明日香の質問には答えない。
「今度は満月に会おう」
通話が切れた。たった数分の話でも妙に頭からこびりついて離れない。
花瓶を持って帰ってきた研一は様子が変わった明日香に声をかける。
「どうかした?」
「……何でもない」
「そう?」
不思議に思いながら研一が背を向ける。
明日香は携帯電話を握り締めた。
「満月になれば、きっと会える」