Chapter:22
目を覚ましたとき、明日香の周り以外は暗かった。寝かされた彼女は天井のライトに手術室を思い浮かべる。
そうして気付く。ここが彼の部屋であることを。
「気分はどう?」
「……最悪」
死体の座る椅子に腰掛けて十夜は問い掛けた。それを一瞥して明日香は短く返す。
「そう。インターネットで買った薬だからかな」
「それ以前の問題よ」
動かそうにも首から上しか言うことをきかない状況に彼女は危機感を覚える。
「アンタ、何がしたいの。葵さんも七緒さんも殺して私も殺すわけ?」
あれは夢ではなかった。事切れた二人の姿が脳裏をかすめ、明日香は下唇を噛む。
「この前両親に会ってきた」
不意に彼は言う。
「他人のことを僕がとやかく言える立場じゃないけど、あの人達は光の下で生きてるべきじゃなかった」
「親はいないんじゃなかったの」
「生きてるけど、一緒にはいないね。だいぶ前に縁も切ってる」
「……アンタを生んだ親なのに、ずいぶん冷たい言い方するのね」
「そっちこそ酷いなぁ。僕は桐原に感謝されるべき存在だよ」
十夜は形の良い唇で薄く笑った。
「君の両親の敵を討ったのは、僕なんだよ」
「何、言ってるの」
理解が出来ず上手く話せない。
「わからない?」
椅子から立ち上がり、ゆっくりとした動きで明日香の横までくる。
「家族を殺して君一人を生かした犯人は僕を生んだ両親だ」
徐々に目を大きく見開いていく彼女の姿に満足した十夜は話を続けた。
「僕と同じで殺生好きな両親は、動物や虫を殺して欲望を抑えてたんだ。でも我慢出来なくなって十年前初めて人を殺そうと考えた。偶然にも選ばれたのは桐原の家」
耳をふさぎたくなるような話に、手足が動かないせいで瞼を下ろして堪えるしか方法がなかった。
「昔からあった習癖を知ってた両親は子供の僕に言ったんだ。残しておいた、あとはお前がやれ」
いつになく饒舌な十夜は小さく息を吐いた。
「そのときは意味がわからなかったけど、初めて桐原を見て気付いた。君は僕が殺さなきゃいけない」
血で染まったナイフが明日香の真横に突き刺さる。恐らく刺された七緒のものだ。
「でも両親がこれ以上醜い快楽殺人者になるのを見てられないから別の事件を引っ張り出して逮捕してもらった」
警察を騙すのも案外簡単だったよ、そう彼は口にした。
「勿論、桐原の事件を口外しないと両親に約束させてね。知られたら面白くないだろ?」
「……私を殺す理由はわかった。でも七緒さん達の理由にはなってない」
平静を装う明日香は十夜を見つめる。
「桐原をメインとするなら今までやってきたのはサブかな。君を殺すために、僕は他の人間で腕を磨いた」
「やり直そうなんて甘い夢を見た私が馬鹿だったのね」
彼の人を殺す理由に自分が関わっていたのだから。
すべてを悟った明日香はどこか穏やかだった。
「自首でもする気だった?」
「一瞬考えた」
「それは蓮見さん達の意見?」
「それもあるけど、これは私の意思」
生き方をやり直すことを彼女は望んでいる。きっと今も、だ。
「桐原、僕と新しい道に進む気はある?」
「……例え本人が望んだとしても、人が人の命を奪うことはいけない。それが私の結論よ、第一あんたとは徹底的に反りがあわないから悪いけど進むなら一人でお願い」
「残念だな。皆僕から離れていく」
刺さったままのナイフを彼は引き抜いた。
ライトに反射して光るそれに彼女は目を細くした。
「神にでも何か祈る?」
「人を殺めた私達に、神を信じる権利があると思う?」
「そう言うと思ったよ」
いつもと変わらぬ冗談めいた掛け合いを聞いていた人間はもういない。
「そろそろ時間だ」
十夜はナイフを振り上げ、明日香は静かに目を瞑る。
「さよなら、明日香」




