帰国
どうもアレキサンドル スヴォーロフです。
二話目です。コミケに出発する直前にこの前書きを書いているのですが、今から楽しみで仕方ありません。
投稿ペースはこの作品もかなり不定期になると思うので気長に待っていただけると幸いです。
魔導馬車に揺られて二週間。
イリャーナはキリル帝国首都にして皇帝の住まう宮殿『華宮殿』があり、国名にもなっている都、キリルに到着する。
キリルは『華宮殿』を中心に同心円状広がっており、『華宮殿』の外側には帝国の政治の中心たる議事堂、陸海両軍の統合本部である古城、帝国最大にして世界有数の図書館等があり、その回りには大物貴族達の邸宅や大商会の本店が軒を連ねている。
更にその回りには赤煉瓦の町並みが広がり、平民達で賑わっている。
丁度お昼時であり、昼休みの労働者で賑わう街を見ながらイリャーナは対面に座るデュロワに話しかける。
「ねぇ、デュロワ。お腹も空いたし、どこかでご飯食べてかない?」
「宮殿では皇帝陛下が昼食を用意してくれているようですから、我慢しましょう、イリャーナ様。」
「でも、デュロワ、お腹減らない?」
「私もお腹の音がなりそうなくらいには減っていますが、我慢です。」
「あそこのお菓子屋のこの時期限定のケーキは美味しいんだよね。」
イリャーナは馬車の窓から通りのお菓子屋を指さして言う。
「ここで食べてしまって、イリャーナが昼食を食べれないとなると怒られるのは私もですので、我慢です。」
デュロワの後ろの壁に付いている小さな窓が開き、御者が中のデュロワに何か話しかける。
「イリャーナ様、直に宮殿に到着いたします。皇族として相応しい振る舞いをお願いします。」
デュロワはイリャーナに到着を伝えると共にその振る舞いに釘を刺す。
「わかってる、わかってる。さすがにもう子供でも学生でもないからね。その辺りは大丈夫だよ。」
「お願いしますね。」
二人を乗せた馬車は宮殿の門をくぐる。
「遠路ご苦労だったな、イリャーナ。」
イリャーナが従者を伴い、宮殿の食堂に入るとそんな声が奥から響く。
食堂の中には横に長く延びるテーブルがあり、奥側の特に豪奢な椅子に壮年の男が座っている。
「いえ、私は馬車に揺られていただけですから何の苦労もありませんよ。
それに苦労というならニコライお兄様の方が多いでしょう。」
声の主は、現キリル帝国皇帝でありイリャーナの同腹の兄ニコライ一世ことニコライ・アレクシア・ルマナフである。
彼は昨年末に崩御した前皇帝エカテリーナ二世の後を継いだ在位一年目の皇帝のため、仕事の引き継ぎを始めとする仕事に追われかなり忙しい日々を送っている。
「まあ、そうかもな。還暦を過ぎた身であの量の仕事をこなしていた母上には頭が下がるよ。」
「動いていないと落ち着かない鮪のような人でしたからね。」
「取り敢えず座れよ。話したいことは色々あるだろうが飯を食いながらでも問題ないだろう。後、今日の話には極秘の内容もあるから付き添いの従者は一人にしてくれ。」
「なら、デュロワは残って。他の二人はすまないけど出ていて頂戴。」
入って来た扉から出ていく従者二人を尻目にデュロワの引いたニコライの正面の椅子にイリャーナは座る。
「さて、食事も終えたのでそろそろ話をしましょう、兄様。」
兄と妹の団らんを交えた食事は終わり、デュロワが空のデザートの器を下げる。銀の食器が消え、ウォッカの注がれた2つのグラスだけが残ったテーブルを挟み兄妹の話は始まる。
「そうだな。まあ、最初は重くない話をしよう。イリャーナ、お前の進路の話だ。」
「手紙を見た時は驚きました。一年の時にはもう参謀部で決まりだったではないですか。何故、このタイミングで?」
「俺は近く、軍制改革に取りかかる積もりでな。それにお前も協力してもらうことにした。そのための進路だ。」
イリャーナは『重くない』と言いつつ、軍制改革というかなり重めの話になったことにため息をつく。
「これが『重くない』ですか…。軍制改革…お兄様、何をなさるつもりですか?」
「軍全体を若く、新しくする…具体的には、老害の排除と軍の近代化だ。」
「母上がお祖父様時代からの将軍の一部を軍の中枢から外したように、ですか?」
「いや、今回はもっと徹底的にやる。母上とお祖父様の時代の『古い』連中は殆ど全員外して、出来るだけ若いのを入れていく積もりだ。」
ニコライが真剣な顔でそう言うため、イリャーナは驚く。
そんなことをすれば軍の上層部の半分は空席になるからだ。
「相当席が空きますがそこに入る『若手』の人数は足りるのですか?」
当然の懸念についてイリャーナは尋ねる。
「大丈夫だ。その辺りのの人材については『スヴァルコフ将軍』の派閥に話がついてる。お前が『トゥリカレール』に入った四年前からこの世代交代の話は進んでる。」
イリャーナは気付く。
「母上からの引き継ぎですか、この案件は。ですが、かなり大規模ですね。母上は文化や内政には大きく手を加えていましたが、軍事方面はそこまで手をつけていませんでした。…お兄様、随分大きくなさりましたね。」
「即急な改革が必要になってな。」
「だとしても急ぎすぎではありませんか?他の引き継ぎの仕事もあり、母上の影響も強い今、やることですか、お兄様?」
「その辺はこの後の『重い』話に関わってくるから今は置いておけ。」
いつも通りの冷静さを持ちながら、どこか焦りの見える顔でニコライは話す。
「わかりました。では、近代化の方は今、どうなっているのでしょうか?」
イリャーナは軍制改革におけるもう1つの話題に話を移す。
「ああ、そちらに関しては殆ど問題なく進んでいる。技術者をプルーセン王国に派遣して最新の技術を学ばせているし、母上の時代に俺が進めた軍需工場の建設計画も順調だ。今後、大きな障害になりそうな物も今のところ見つかっていない。」
「よくプルーセンが技術を提供してくれましたね。あそこはまだ、七年前の戦争を引きずっている連中が幾らかいるはずですが……ですが、技術者が帰ってくれば生産は始められますね。」
「ああ、近代化に関してはそんな所だ。…『重くない』話も終わったことだし、本題の『重い』話に入ろうか。」
ニコライは大きくため息をつくと、ウォッカのグラスを手に取り、中身を一息で煽る。
そして、話し始める。
「トゥリカレールと戦争をする可能性が出てきた。」
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