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赤薔薇の女帝  作者: アレキサンドル スヴォーロフ
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どうもアレキサンドル スヴォーロフです。

新シリーズのスタートです。今回の作品では、今までの作品とは違い、政治や戦争、宗教に思想などの要素をかなり多く盛り込む予定です。

読者の皆さまと書き手である私が楽しめる作品にしたいと考えていますので、どうか期待しないでお待ち下さい。

このシリーズも楽しんでいただけると嬉しいです。

からりと晴れた夏の初旬、プルーセン王国の世界有数の学術都市『ミュンベルグ』。

『学びを広く』をスローガンの一つとしているこの学術都市では在籍している学生の身分差を気にせず、あらゆる学問の教育、研究が行われている。

そんな、学術都市から物語は始まる。



今、ミュンベルグでは今年卒業する学生達の卒業式が行われており、そこでは今年の卒業者代表が燃えるような赤い髪を風で揺らし、良く通る声で代表挨拶をしていた。

「~。そして最後に、今、世の中は魔物との長きに渡る戦いが終わり、世界は復興から発展の段階に移行しつつあります。

ここにいる私たちはそんな発展の時代で背負っていく責任があります。

多くの苦難が私たちの前に立ちはだかり、繁栄への道程を遮るでしょう。

しかし、我々は苦難に克ち、道程を切り拓き、それぞれの栄光をつかみ取らなければなりません。

例え先を阻む相手が血を分けた兄弟や生みの親、そして、共に学んだ仲間であっても。

これからは魔物ではなく、人と人との戦いが未来を作っていくのです。

日々の食べ物や暮らしに始まり、様々な道具や行き交う人々、果てには軍隊や政治まで。

暗い時代を過去へ押しのける様にあらゆるものが急速に変わっていくでしょう。

その時の奔流の中で皆さんが立派に自身の責任を果たすことを私は切に願っています。

以上、卒業者代表 イリャーナ・アレクシア・ルマナフ

我らの行く末、そして、これからの『人の時代』に神々のご加護があらんことを。」

真紅の皇女は挨拶を終えると、壇上から式場を見渡す。そして、その端正な顔を凛々しく結び、流麗な動作で出席者に礼をしていき、彼女は自身の席に戻っていく。


数時間にも及ぶ長い卒業式典を終え、待合室に戻って来たイリャーナ。

彼女は先ほど演説していたのとは同一人物とは思えない態勢で部屋に備え付けてあるソファーにドカッと豪快に腰掛ける。

「あ~、疲れた~。」

股は大きく開き、背もたれの上に首を置き、上を向いて、大きく息をつく。

そんな彼女を見て、やれやれと首を振る人物が二人。

「イリヤ、あなたは皇女でしょう?

何度も言っていますが、もう少し普段もシャキッとできないのですか?」

イリャーナの向かいのソファーに背筋をピンと伸ばして座る細身の男は、肉の無い細い指で丸眼鏡を押し上げ、イリャーナのおよそ皇女とは思えない行動にいつものように苦い顔をして、注意する。

彼は西の島国バルティン連合王国の伯爵家の1つであるカザン伯の次男であるウィリアム・カザンである。

「俺も大概だが、お前ほどではないと思うぜ、イリヤ。」

少し離れたカウンター席に座るガタイのいい色男はそういうと豪快に笑う。

彼は東の大国オロスタリア神聖帝国の公爵の家の1つであるテシャル大公の次男カラル・テシャルである。

「そうはいうけど、あの長さの式典の後なんだから幾らか気を緩めても、何も言われないと思うんだ。」

男二人に言葉を返し、頭を起こすのは北の大国キリル帝国の前皇帝の子である皇女、イリャーナ・アレクシア・ルマナフ。

「私も疲れる長さだったのには同意しますし、多少の休憩はいいと思いますが、休むにしてももう少し淑女らしい休み方をして下さい。

あと、カラル!

あなたも何で昼間から酒を飲んでいるんですか!」

「いやいや、デュロワちゃんがわざわざ用意してくれたんだ。

飲んであげなきゃかわいそうでしょ。」

カラルはそう言い、ワインの入ったグラスをあおる。

カラルの前のカウンターには容器に入った氷と、数本の種類の異なる酒瓶数本、様々な形のグラスが用意されていた。

「そうそう、いつも言ってるけど固すぎだよ、ウィル。」

ウィリアムは大きくため息をつく。

「いつも言っていますが、私自身、自分が固いのは理解しています。

ですがそれ以上に、あなた達が緩すぎるのです。そもそも貴方達はですね…」

「あー、わかった、わかった。」

イリャーナはウィリアムの小言もそこそこに、カウンターの上の酒瓶に目を向ける。

「カラル、ウォッカある?」

「あるある。」

「じゃあ、それで。ウィルもいる?」

イリャーナは絶賛お小言中のウィリアムズに声を掛ける。

ウィリアムはなんとも言えない表情を作り、1つため息をつく。

「…はぁ、相変わらずマイペースですね、あなたは。」

「まあ、これからはできるだけ直すようにするよ。

色々許される学生時代も今日で終わりだしね。

で、いる?」

「はぁ……もらいましょう。バルティッシュ・エールはありますか、カラル?」

カラルがウォッカとエールをそれぞれ別々のグラスに注ぎ、二人に渡す。

「それじゃあ、何に乾杯しようか?」

「これからはそれぞれ、自分の国に戻って動く事になるのですからその辺りでいいのでは?」

初めにカラルが紫のグラスを掲げる。

「なら、俺は神の為に。」

次にウィリアムが黄金色のグラスを掲げる。

「相変わらず、熱心ですね。でしたら、私は王権の為に。」

最後にイリャーナが琥珀色のグラスを掲げる。

「私は…国の為に。」

そして、三人は掲げたそれぞれグラス同士を軽くぶつける。

「「「乾杯!」」」

待合室にはしばらくの間、明るい声が響いていた。


コン、コン

誰かが待合室のドアをノックする。

イリャーナが尋ねる。

「誰?」

「ご歓談中に申し訳ありません。

デュロワです。イリャーナ様。」

ドアの奥から女性の声がする。

「入室を許可するわ、入って来なさい。」

「失礼いたします。」

ドアが開き、執事服を着た背の高い女性が入って来る。

「どうかした?」

「皆さまの荷物の馬車への積み込みの報告に参りました。」

「ありがと、デュロワ。積み込みはどれくらいで終わりそう?」

「既にどの馬車も積み込みは始めているのでさほど時間は掛からずに終わります。」

「わかった。ありがと、デュロワ。

下がっていいわよ。」

「では、馬車の用意が出来次第、御呼びに上がりますので。

失礼いたしました。」

デュロワはそう言うと一礼し、入って来たドアに向かう。

「あっ、そうだ。

デュロワちゃん、デュロワちゃん。」

部屋から出て行こうとするデュロワにカラルが声を掛ける。

「お酒ありがとうね。

最後に随分楽しめそうだよ。」

「…いえ、イリャーナ様の従者としては当然の務めですので。

ですが、楽しんでいただけたのならこれに勝る喜びはありません。」

デュロワはそう言うと薄く笑みを浮かべ、再度三人に向かって一礼すると、部屋の外に出ていく。

イリャーナはデュロワが部屋の前からいなくなったのを足音から判断するとカラルの方を向き、言う。

「おいこら、カラル。

人の従者を口説くな。」

「いやいや、イリヤ。

これは素直に感謝の気持ちをだね…。」

「カラル、君はそう言って何人の女性を口説き落としたんだ?」

二人から攻められ、カラルは苦笑いを浮かべる。

「まあ、今後は会う機会も減るだろうから問題ないだろうけどね。」

「全くだ、これでやっと女関係の問題から離れられる。」

カラルは眉間に皺を寄せながら、軽いため息をつく。

「いえ、一概にそうとも言えませんよ、カラル。

それこそ告白されたり、付きまとわれたりといったことの回数や頻度で言えば少なくなるでしょうが、この相手が家臣の妻だったり、よその国の女性だったりすると今までよりも対応は遥かに面倒ですよ。」

「ウィルの言うとおりだぞ、カラル。

特に平民の女には気を付けろよ~。

ただでさえ、あなたは産まれに無頓着なところがあるんだから。

公爵家の男が平民との間で子供ができたなんてのは大問題だからね。」

「う~ん…ままならない。」

現実を見て再び、再び顔を顰めるカラル。

「そういえばこの後、二人はどうするの?」

「この後?」

イリャーナの突然の疑問に、ウィリアムが尋ね返す。

「そう、この後。

前も聞いたと思うけどこの後、国に戻ったら二人とも何をするのかなって。」

「俺は多分、軍かな。

そのためにここで戦術やら戦略やらを学んだ訳だし。」

カラルが答える。

「私はおそらく父の補佐ですかね。

いくらここで学んだといっても政治というのは定まった形を持つものではないですからね。

国に戻って、現状を把握しないと始まりません。」

ウィリアムも答える。

「じゃあ、ウィルはいきなり政界に入るって訳じゃないんだ?」

「そうですね。少なくとも一、二年は父のもとで色々学ぶので、政界にはでないでしょう。

…と言うか、そう言うあなたはどこ行くのです、イリヤ?

前は軍の参謀部に入るとか話していましたけど。」

「私?…う~ん…」

質問を返され、イリャーナは幾らか困惑する。

「いや~、つい先週くらいまではそうだと思ってたんだけどね。」

「変わったのか?」

「うん、先週もらった兄様からの手紙でムードレストの戦術・戦略科で教鞭をとれ、って言われちゃってさ。」

話を聞く二人の頭の上に疑問符がつく。

「ほとんど進路は決まってからここに来たって前に言ってたけど、いきなりだね。

キリルの皇帝陛下って結構、気分屋?」

カラルが尋ねる。

「いやいや、兄様は物事をしっかり考える人だから、そう言うことはないと思うんだよね。」

「ムードレストというと、確かキリルの学術都市ですよね。

確かにイリヤの戦略の成績は特優ですし、教授をやるのもわからなくはないのですが、随分変わりましたね。」

「まあ、兄様もなんか考えがあっての事だと思うし、その辺りについては国に戻ったら聞いてみるよ。」

皇帝の意図を掴めていない三人は揃って首をかしげる。


コン、コン


再び待合室のドアがノックされ、イリャーナが答えると、デュロワが部屋に入って来る。

「デュロワです、ご歓談中失礼しますイリャーナ様。

御出立の準備が整いましたので御呼びに上がりました。

お二方の馬車はもう少し掛かるようでしたので、もう少しお待ち下さい。

後から別のものが呼びに上るので。

…では、イリャーナ様。」

「わかりました。」

イリャーナは席を立つと、座る二人に向き直り、言う。

「それじゃあ、一足先に出発させてもらうわね。」

「おう、気を付けてな。

まあ、これから何があるかはわからんがお互い頑張って行こうぜ。」

「体調と暗殺には気を付けてくださいね。

死んでしまっては何にもなりませんから。」

「了解、あなた達もその辺りは気を付けてね。

じゃあね~。」

イリャーナは軽く手を振りながら、待合室から出ていく。

「では、失礼いたしました。」

デュロワが二人に一礼し、待合室から出ていく。

待合室には男二人と三つの形の異なるグラスだけが残った。


「行っちまったな…。

飲み直すか?」

「ええ、そうですね。」

「何に乾杯する?」

二人のグラスにそれぞれの酒を注ぎつつ、カラルが尋ねる。

「そんなのは決まっているでしょう?」

二人はにやりと笑うとグラスだけが残った彼女の席に向かって、杯を掲げ、言う。

「「イリヤの未来に!」」


誤字、脱字の発見にご協力下さると幸いです。

感想やレビュー、評価をしていただけると作者が大いに喜び、投稿ペースが上がるかもしれないです。

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