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19歳の抗鬱剤

作者: こっこ

窓のカーテンを開けるといつもと同じ景色が広がっていた。

「なんだってこんな平凡な景色しやがって」

すぐにカーテンを閉めると部屋の中を睨んだ。

何もかもが気に入らなかった。

家出の計画をたてて高速バスに乗り込む。

遠ざかるこの憎らしい街はまるで、世話をするのが面倒くさくなってきたが仕方なく飼っているペットか、様々に形を変えて私を縛り付ける親の愛のように鬱陶しくて憂鬱なものだった。

全て捨ててしまいたかった。

東京での見放されたような感覚が心地良く感じられた。


TSUTAYAで待ってるから

ゆっくり来てね


彼に送るメールはいつも偽善と媚態が混ざって汚らしくなってしまう。

どうしたものかと考えていると、前からニコニコした彼が向かってきた。

知らない人の振りをしたくなったが、呆気なく彼の腕に絡まれた私の身体には喜びと切なさが共存していた。

赤い自転車に二人乗りをしてしばらく金木犀の香りに包まれる。

公園に群れている鳩の目は何か人間を軽蔑しているようだった。


ふと去年の光景が重なる。


彼とは2回だけ寝た。

私より6歳年上で歌手を目指している。

行く当てもなく新宿駅を歩いていた時にたまたま会って今日会う約束をしたのだった。

運命なんて言葉は今の私には安っぽく感じられた。

両手を首に回してほっぺをすり寄せると、そういうことにはすぐ照れる彼が憎らしくなった。


部屋は相変わらずごちゃごちゃしていて私の欲しいものなんて何一つ存在していない。

私が欲しいものは彼の身体の中の何処にあるのだろう?

固形の卵スープにお湯をかけたように、止まっていた彼との時間が溶け出す。

「お前野良猫みたいやな。たまにすごいキツい目するな」

そんなことを言う愛おしい彼の腕に何度も噛み付いた。

「ねえこの絶望から逃れられないの。殴ってよ私の頬を殴って?」

そんな私の主張を彼はすり抜けてわざとらしく優しく頭を撫でてくる。

冬の布団みたいに冷たくて、歯医者でたまに味わうとてつもなく苦い薬の味のような、そんなものを求めているのに、彼は安っぽくて甘ったるかった。


だけど心が安らいだのは腕枕のせいだった。

汗とボディーソープとダウニーの匂いが混ざった彼の香り。

絶望感に苛まれて破壊を望む私の心はそんな彼の香りを求めていた。

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