第7話 マコトの誕生
「仕方ないよ。トラミチくん。時間が経てば許してくれるよ」
「し、しかし、親同然の先生だ。なんとか誠意を伝えたい」
「でも今はお腹の子のことを考えようよ」
「う、うん……そうだな」
しかし、ヒマを見てはこっそりと先生の庵の扉を叩いた。
いつものように扉の前で土下座をしていると、一枚の紙が戸の隙き間から落ちて来た。
すぐさまそれを受け取ると先生の字だった。
「眞寅人と名付けよ」
その文面に思わず涙した。
自分の一字が使われている。
真の寅の人でマコト。
多少皮肉かも知れない。オレ自身が寅に成りきれなかったから真の字が入っているのかも。
だが、先生は考えていてくれた。
オレはその手紙を握りしめ、家に帰って妻の美空にそれを見せた。
美空は複雑そうな顔をした。超音波検査で性別が9割間違いなく女児。
月日が満ち、産まれてきたのはやはり女児であった。
深くは語らないが美空はこの初産が難産で、次子が望めない体になってしまった。しかし、二人とも生き長らえてくれた。
オレは神に感謝した。
先生から頂いた名前『眞寅人』。
せめて音だけでもと『実』とした。
実はさすが先生の……魚心の孫だった。
世界大会優勝を飾った。その配偶者である竜司も全国大会優勝。
二人は国総出で迎えられ英雄となった。
それが産んだ子、『尊』。
将来空手家になるであろう彼は今、その空手の頂点である百木魚心に抱かれていた。
「先生」
「なんだ。寅道」
「けじめに、お手合わせ願いたく思います」
「ふふ。ワシも老いた。もしもワシに勝てたら、孫の美空をやろう」
「ありがとうございます」
オレは久々に先生の道場に上がり込んだ。
道場の隅に座布団を敷き、寝ている尊をそこに置いた。