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第4話 最強を超えた人

「ミソラさん。それは万にひとつもないよ」

「ほう。大した自信だな」


「もちろんですよ。実戦に実戦を重ねてきたんです。空気で分かります」

「ほう。ではキミが勝ったらミソラをヨメにやろう」


「え?」

「ちょっとお爺ちゃん!?」


俺の顔が急激に赤くなる。

まさか会って直ぐに恋に堕ちた彼女をヨメに出来る?

まだ付き合ってもないが中学生の特有の初恋妄想も手伝って、オレのテンションはマックスとなった。


「マジですか。ミソラさんをヨメに。婚約者ってことですよね。オレは全然オッケーです」

「ちょ、ちょっと近内くんまで」


「ほう。乗ってきたな。よろしい。祖父のワシが見てもなかなかの器量好しじゃ。ワシに勝ってミソラを手に入れてみよ!」

「……もう。お爺ちゃんたら。言い出したら聞かないんだから」


ははーん。

これはオレの輝かしい成績を見ての計略だなと思った。

自分も空手家だ。孫が未来を嘱望されたオレのヨメになればいいと考えての挑発だったんだろう。

望むところだ。むふむふ。


美空さんが旗を持ち、試合の審判となった。


「それでは試合を始めます。始め!」


美空さんの号令。オレは前屈の姿勢のまま爺さんに近付こうとした。

だが……動けない。

なんだこの緊張感は。ランニングの疲れが出てしまったのか?

いや違う。


巨人だ。


目の前に巨人がいる。

なんだこの感覚。今まで幾戦も戦い抜いてきた。

だがどうだ。こんな感覚に襲われたことはない。

思わず後ずさってしまった。


しかし早い!

爺さんはオレの出足を蹴り、すかさず中に入り込んでみぞおちに寸止め。


「うっ!」

「一本!」


美空さんが爺さんの方に旗を上げる。


「どうした近内くん。動きが悪いぞ」

「お、押忍」


「さぁもう一本だ」

「おおお、押忍」


爺さんが俺の前に立つ。

しょぼくれた小さい爺さんだ。

なんの気の迷いだ?

オレはもう一度構えた。


「始め!」


美空さんの声。

途端に爺さんが巨人となる。

どこを攻めていいのか分からない。

こんな……。こんなバカな。


「お見逸れしました!」


オレはすぐさまそこに土下座をした。

勝てっこない。こんな相手に。

今までオレはその名の通り「寅」だと思っていた。

全ての大会を呑み込んでやろうと息巻いていた。

だがこの非公式の試合でオレの空手観は変わった。


オレはこの百木もものき魚心ぎょしん先生に弟子入りを申し込んでいた。

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