第2話 彼女との出会い
今から20年前のことだった。
早くに父を亡くし、母は入退院を繰り返していており、ほとんど一人の人生を送っていた。
だが、昔からの資産家であるオレの家は家賃収入や駐車場の収入で普通の家より裕福であった。
それがため、幼い頃よりやっている空手に専念することができたのだ。
小学校に全国大会優勝。中学もその勢いは衰えなかった。
師匠はいたが、自分自身のトレーニングを信じ、河原の土手の上をランニングしていた。
いつも走る河原の土手。息荒く折り返し地点まで急ぐ。
今まで気にしていなかった小屋が土手の中腹にある。
粗末な小屋だ。気にもしないで走りすぎようとしたとき、その小屋から同年代の女子が出てきたのだ。
惚れた。
この漢、寅道初めて女に惚れた。
まさに一目惚れだった。足を止めて彼女に見入ってしまった。
どうしたらいいんだ。
ずっと空手一辺倒で、女のことなんて考えたこともなかった。
しかしあれはまるで可憐な小さい花。
小さな小屋の前で花に水をやるその姿。なんと可愛らしかった。
その彼女のオレに気付いて笑顔で話しかけてきた。
「あら。おはようございます」
「おおおおっおはようございます」
「うふ。近内くん」
「えええ? な、名前」
「やだなぁ。同じ学年じゃない」
「え? マジ?」
「え~。知らなかったの? ちょっとショック」
「あああゴメン ……なさい」
「まぁ、仕方ないか。近内くん空手ばっかりだし、私も転校してまだ二月だもんね」
「そ、そうなんだ」
「知ってるよ。中学で全国1位になったんだって?」
「そそそ、そう」
「私も空手やってるよ。ウチのお爺ちゃんも空手家だし」
そう言って彼女は自分の住まいであろう小屋を指差した。
その言葉に急に闘争心が湧いてくる。
恋に堕ちたとはいえ、格闘家。
こんな小さな小屋に住む空手家の老人を見てみたくなった。
「へー。お爺さんに会える?」
「ああ。喜ぶよ。近内くんの活躍ぶりを知ってるから」




