第62話 謝罪の言葉
やがて開会式が始まり、一通り進行した後で司会から説明があった。
「百木十段先生よりたっての希望で、当館の神納選手と、先生の弟子であります、世界覇者で当館OBの近内七段先生との試合があります。皆さん、参考にして下さい」
パッと並みいる選手たちが会場の端に寄り、師匠と神納正十郎が中央に出て来た。
そこに大師匠が司会からマイクを取り上げ、師匠に近づいてその胸を押した。
「寅道。誰がお前だと言った」
「お、押忍。先生が弟子ととの仰せでしたので」
「お前ではない。控えよ」
「お、押忍」
大師匠は顔を観客席二階に向けた。
「リュージ! 降りて来い!」
「押忍!!」
オレが観客席から立ち上がり、上着を脱ぐと一気に道着姿に。
それを一斉に選手や観客がこちらに顔を向けた。
だがオレはマコのことだけを見ていた。
マコの顔もこちらを向く。
二人の視線が数ヶ月ぶりに合った。
なかなかそれを離せない。
互いに視線をそらせずにいた。
「リュージ。モタモタするな! さっさとせい!」
大師匠の言葉に正気に戻る。
オレは駆け足の構えを取りながら叫んだ。
「マコ! 見ていてくれ!」
会場がざわつく。
この並みいる選手の中の一人だけ名指しの声に。
一階に下りて、会場のドアをあけると、神納までの道のりへの人の壁が二つに分かれた。
だが、そこにいくまでに中央に一人だけ立っていた。
マコだ。
オレはアゴを引いて彼女へ近づいて行きすれ違いざま
「あの時はすまなかった。オレの勘違いでお前を傷つけた」
と謝罪を伝え、試合会場にたどり着いき、神納の前に立った。
本日正午にもう一話アップします。