第60話 出来ました
それから六ヵ月。オレは中三になっていた。
マコからの連絡はない。
だが情報は入ってくる。
大会でよい成績を残し、段位も上がったらしい。
オレはと言えば、大師匠の道場で毎日同じことの繰り返しだ。
自分が強くなっているのかどうかもわからない。
だが、大師匠は筋が良いとたまに褒めてくれる。
ホントにたまに。それ以外は怒られっぱなしだけど。
ある日、大師匠は封筒を出してきた。
「?? 大師匠。何すかコレ」
「これぞ天心志館主催大会の招待状じゃ!」
「え!?」
「毎年、天心志館ではさまざまな流派を集めて試合をし、自分たちの強さを誇って来たものじゃ。寅道も天心志館出身じゃ。世界大会覇者でOBじゃから主賓で呼ばれておる」
「はぁ……」
「ワシもな、寅道の師匠ということで毎年来賓に呼ばれておるんじゃ。じゃが断っておった。ワシみたいなもんがいくと全員が緊張してしまうからの」
大師匠はやはり、空手家の中では一目置かれているのだろう。
それに気を使って来賓は辞退していたらしい。
「じゃが今年は違う。行ってみようと思う。そうするとだな、寅道辺りがワシに演武を披露してくれるよう頼んでくるじゃろう」
「な、なるほど」
「そこでじゃ。ワシは神納とワシの弟子を試合させるように言うつもりじゃ」
「で、弟子っすか? それってつまり……」
「リュージ。オマエだ」
「そ、そんな。無理っす」
「バカめ!」
大師匠は薄い木の板を手に取った。それをオレの方に向ける。
「指射してみよ」
「え?」
「木の板に向かってやってみよ」
「は、はい」
無理だと思った。短い期間の練習で水に波紋は起こせたものの、木の板をどうこうするなんて。
しかし大師匠の言いつけだ。形なりともと思い身構えた。
「すーーーーはーーーー。きぇーーーい!」
コっ。と小さい音。
それとともに板は二つに割れた。
オレは自分がしたことに驚いてしまい、固まってしまった。
「出来たな」
「は、はい」
「だが所詮は目くらましだ。いいか。試合は今までの甘っちょろいノンコンタクトの寸止めではない。有効打数を争うフルコンタクトだ。やみくもに接近戦で争おうとするな。指射で間合いをとってその隙に間を詰めて神納を倒す。いいな!」
「は、はい!」
作戦は決まった。
神納を倒し、師匠に今までの成果を見せ、マコに愛の告白をする!
って、そんなにうまくいくのかよ……。
不安しかねぇ!