第56話 超必殺技
大師匠の稽古。一体どんなもんだろう。
身長は150センチにも満たない、じーさん。どんな動きをするのか想像がつかなかった。
小さな道場に入り、構えろというので構えてみた。
「ほほう。結構、結構」
「大師匠は強いんすか?」
「ん?」
「いえ、失礼しました」
「強くもなし、弱くもなしといったところか」
「そっすか」
やっぱりだ。大師匠と言っても弟子に越えられる場合がある。
師匠には近寄りがたいオーラがあった。
でもこのじーさん。大師匠にはそれがない。
やすやすと近づいて転ばすことだって平気で出来そうだ。
「少しばかり組み手をしてみるかの」
「はぁ」
逆にこの80を越えた老人と組み手をして間違って当てでもしたら、死んでしまって殺人罪になって鑑別所送りになったらマコどころじゃねーだろ。
仕方ない。すぐにやられた振りでもして接待組手と行くか。
そう思って、大師匠の構えるのを待った。
ん?
足が動かない。
それどころか震える。
空気が変わった。
大師匠が正面に立つとさらにそれが増した。
大地や大気が震えているようだ。
「ホッホッホ。どうした攻めてこい」
だが見るとやっぱりよぼよぼのじーさんだ。
これは簡単な暗示だろう。
自分を大師匠だと言わせておいて、プレッシャーを与えるというやつだ。
こんなしょぼくれたじーさんから一本取るくらいわけない……はず。
しかし、また体が動かない。
蛇に睨まれた蛙状態。
どうしても一本とれるビジョンが思い浮かばない。
「そうか、そうか。寅道め。大して教えておらんな」
大師匠からオレまでは大分離れている。
大師匠の間合いではなかった。
踏み込んだところで届くわけないないと思ったが違った。
「ええーい!」
大師匠は利き手の中指と人差し指の二本を付けたものをただ振り下ろして気合いを叫んだだけだった。
それだけでオレの体は吹き飛んで、後ろの木の壁に激突していた。
体は一撃をも受けてはいない。だが、胸に鋭い痛みがあり、そこを抑えた。
まるで先ほどの指が突き刺さったようだった。
「??? ???」
「ホッホッホ。分からないという顔をしておるな。これは奥義『指射』である」
「し、指射?」
「そうじゃ。これを覚えるには十年や二十年では無理じゃぞ。寅道はついぞ覚えられんかった。君にはできるかな?」
オレは急いでその場にひれ伏し、教えを乞うた。
「大師匠。どうかオレに極意を教えてください」
「ホッホッホ。では明日から練習に来なさい」
「は、はい!」