第53話 やる気回復!
師匠に見放された。
当り前だと言えば当たり前だ。
一人娘のマコの夫になる男と思っていたヤツは、クズでその一人娘を傷つけたってわけだから。
オレは腐りきってしまった。
もうマコにも会えず、空手で強くなってマコのそばに近づくこともできなくなったのだ。
学校もサボりがちになり、人と会うのを嫌った。
そんな二週間。
親も、入院して体調が戻らないのだから仕方がないといっていた。
部屋の中でふさぎ込んでいるオレのところに、母ちゃんが昼食の膳を持ってきてくれていた。
「アンタ。マコちゃんにヒドイこと言ったって言ってたけど……」
「…………」
「マコちゃんのこと嫌いになっちゃったの?」
「……そんなわけねーよ」
「じゃ、冗談だったの?」
「……いや。オレはマコに片思いしてるって思ってて……」
「は?」
「だよなぁ。母ちゃんもマコとオレは結婚すると思ってたんだろ?」
「そうだけど……」
「いつの間にか、そんな話になってたみたいだな。オレだけがバカだからそれに気付いてなかったんだ。でも徐々にマコに惹かれ初めて、その頃にはマコには彼氏がいるって聞いて……。ま、それは結局オレだったんだけど、オレ自身には自覚がなくて……」
「ふーん。なんだそりゃ」
「だから、二人して空回りしてたんだよ。クソぅ。悔やんでも悔やみきれねぇよ。空手でマコに近づこうと思っても師匠はもう破門だって言うし……」
「そっか。でも母ちゃんは破門でもよかったよ」
「……え?」
「近内のダンナさんはアンタを婿に欲しがってたけど、ウチだって一人息子だもんね。マコちゃんをヨメに寄越せって思ってたよ。それが破門? ハァ? って感じ。いいかい? リュージ。あんた、近内のダンナさんを見返してやんな! そんなねぇ、人の息子を欲しがったり捨てたりするような義理のオヤジなんてウチから願い下げだよ! あんたいつまでもクヨクヨすんな! さっさと昔みたいな走って来な。足腰強くして空手に復帰だよ。近内さんだけが空手の師匠じゃないからね!」
「お、おう」
母ちゃんに言われて、幾分気持ちが和らいだ。
漠然とだけど空手を続けてればマコにまた会えるかもしれない。
オレはランニングウェアに着替えてスニーカーの靴紐を固く結んだ。
本日正午にもう一話アップします。