第51話 テツの励まし
大阪を出て、新幹線に乗りながら考えた。
マコをあんなに傷つけたのに、今更ノコノコ顔を出して、マコの将来に責任を持てるのか?
たしかにあの先輩の言う通りだ。
マコには大きな将来がある。日の丸を背負うことだって充分可能性がある。
オレはクズで、あいつを泣かせた。
バカな幼なじみ。
だけどそのバカの勘違いでマコは逆に大きく羽ばたくことが出来た。
それはそれでよかったかもしれない。
オレのバカさがマコの背中を押せたのは、オレの最後の仕事だったのかもしれない。
新幹線の窓の外が徐々に暗くなって行く。
それとともに、オレの情けない顔が窓に反射され、無様に泣いている姿が映ったので笑ってしまった。
未練だ。どこまでもクズだと思った。
やがて地元駅に到着し、小さくなりながら家に戻ろうとすると、部活帰りのテツが自転車をこいでいた。なんかバツが悪くて物陰に隠れようとしたが、アイツは勘がいいのかすぐに見つけられてしまった。
「なんだ? なんで隠れようとしてんだよ。それ何ゲーム?」
「いやぁ……はは……」
「どうだ。マコと会えたのか?」
テツはオレの表情が暗いことを敏感に察知した。
「会えなかったのか?」
「いやぁ。遠くから」
「なんだそりゃ。いつもバカ見てぇに直情のまま動くお前らしくねぇな」
「バカ見てぇだと?」
「あ、違うわ。バカだった」
「うぉい!」
やっぱり親友との会話はいい。辛いことを忘れさせる。
テツとオレは肩を組んで笑い合った。
「あのなぁテツ」
「おう」
「マコを追いかけるのはオレの独りよがりだったわ」
「そうか?」
「そうだよ。アイツは未来を嘱望された空手の選手になる女だぞ?」
「だな」
「うん。オレと一緒にいちゃダメだろ」
「ん? なんで?」
「なんでって……。オレはマコと一緒にいちゃダメなヤツなんだよ」
「なんだそりゃ。マコはお前と一緒じゃ空手が出来ないのか?」
「いやぁそういうわけじゃ……。ホラ。天心志館ならいい指導も教育も受けられるだろ?」
「まぁ、そりゃそうだろうけど、お前がいちゃダメって理屈はおかしいぞ?」
「おかしいかな……?」
「そうだよ。どうせまた、神納の手下に言いくるめられたんじゃねーの?」
ドキリ。こいつ鋭すぎる。
つか本当にそうならオレ、バカ過ぎだろ。
今後、詐欺師に騙されまくりじゃねーか。
「リュージ。お前も空手をやり続けりゃいいじゃねーか。一緒に世界をとれるカップルになれば何の問題もねぇよ」
「は?」
「だろ?」
「だろって、そんな簡単なことじゃねーだろ」
「マコの父ちゃんが言ってたぞ。お前は筋がいいって。オレの後継者に丁度いいって。つまり世界を獲れる男。そういう意味だろ」
ハッとした。だからこそ師匠はオレに空手を教えてくれた。
前に、オレの後を継げってそういうことだったのか!
「テツ! オレ師匠に頭を下げて、もう一度空手を教えてもらう! そしてマコに近づくんだ!」
「そういうこった。ガンバレ!」
オレは近内家に走った。テツも自転車で付いて来てくれた。
師匠はマコと一緒に大阪には行っていない。それはそういう意味なんだろうと思っていた。