第42話 テツ倒る
オレは強化選手を目指すという理由でサッカー部も退部させてもらった。
マコは下校時間になるとおばさんの迎えで別の道場に送迎されていく。
テツは剣道部へいき、オレは師匠の下へ。
『打倒、神納!』
そんな文字を部屋の机の前に貼った。
これでマコをこの部屋にいれるわけにいかない。
母ちゃんにもマコが来ても部屋にいれるなといった。
「ふぅ〜ん。大人になっちゃって」
なんて意味のわからねぇことを言ってたがかまわねぇ。
神納を倒す。それしか目標がねぇ。
しかし、中学生が高校生に試合を挑むなんて滅多なことじゃねぇ。
師匠は、優勝し続けて大会の余興みたいな感じで試合を組むかと言ってくれた。
それには優勝し続けなきゃいけねぇ。
神納の目に止まるようなヤツにならなくては。
鍛錬に鍛錬を重ね、県大会の優勝。
そして全国大会の切符を手に入れた。
トントン拍子ですまねぇ。
その辺はあまり話に関係ねーから、そうなったってことだけ。
中学二年の冬に全国大会でも優勝した。
中学生での優勝者。
当然、男子強化選手の2人の枠に入ることになった。
数日後に顔合わせがある。
マコと一緒の道場で練習ができる。合宿にも参加出来る。
マコとの時間が増えると気分が舞い上がった。
そんな嬉しい矢先だった。
テツが入院した。
いや、大したことはない。
盲腸。だが手術が必要だった。
オレとマコは、練習に行く前にテツのお見舞いに行った。
テツはすでに手術も終わり、4人部屋に移動していた。
テツの無様な姿を笑ってやろうと、終始ニヤついていた。
「おーす」
「オッス。なんだ。二人で来てくれたのか〜。仲がいいですね。お二人さん」
嫌みっぽい言い方にカチンと来たが、コイツは病人。
勘弁してやることにした。
「屁はでたのかよ。屁は」
「オマエはマコの前で本当にデリカシーがねぇな! クズめ!」
そう人を毒づいて、何がおもしれーのか一人で笑って、一人で苦しんでいた。
笑うと傷口に響くのだ。バカめ。
「テッちゃん、早く退院してね。待ってるから」
「ああ。任せとけ。オレが退院するまでオマエらケンカなんかすんなよ?」
「オレはケンカなんかしねぇよ。仕掛けてくるのはマコの方なんだから」
「は?」
「ゴメンナサイ!」
早めに謝った。最近鉄拳が前にも増して痛くなって来たのだ。
記憶を失うレベル。
そう思って頭をガードする姿を見て、テツはさらに笑い悶絶していた。バカめ。
テツはあと5日もあれば退院出来るらしい。
ホッとしてオレたちは病院を後にした。