第41話 勝つために
師匠との鍛錬が始まった。
邪念が入ると言ってマコ抜きの本格的だ。
マコも強化選手として忙しくなり、学校が終わると別の道場に送迎され練習する毎日。
会えない日が続いた。
神納とは顔を合わせてるんだなぁと思うとテンションが下がるがそうは言ってはいられない。
師匠の鍛錬は気が抜けないどころじゃなかった。
今までの鍛錬よりもさらに輪をかけての鍛錬。
体が締まって来ることが分かる。
そうかと言えば正座だけを二時間もすることがある。
瞑想。お坊さんの座禅のようなものだ。精神をゆったりとし空を旅するような境地に入る。
落ち着く。このようなことも大事なことらしい。
たまにマコとおばさんが練習から帰って来た時の車のドアが閉まる音で現実に戻ることがある。
師匠はそれを敏感に察知する。
「集中していない証拠だ。それでは試合に負けるぞ」
「お、押忍。そうですよね」
みっちり夜10時まで鍛錬を重ね、朝は5時に起きて15キロのランニングは変わらず。
自分が強くなっていくことが分かる。
膨らんだ腕。割れた腹筋。丸太のような足。
「神納正十郎に近づけてますかね?」
「まだまだ。オレがお前くらいの時は神納如きはぶち殺してたけどな」
「え? そんなに」
「当り前だろう。小学校のころからタイトルを搔っ攫ってたからな」
すげぇ。まじすげぇ。
師匠はやっぱり師匠だ。
マコが強いわけだ。
鍛錬がキツくて学校のことがおろそかになってしまう。
休み時間も机で寝てしまっていた。
ますますマコやテツともなかなか話せなくなってしまったが、二人とも応援してくれていた。
「リュージのやつ、疲れてるみたいだな」
「うん……。でもウチ、寂しいよ。テッちゃん……」
「リュージはお前に近づこうとしてんだろ。ちゃんと見守っててやれよ」
「うん……。分かってる。分かってるんだけど……」
「けど?」
「ホントにそれだけなのかな……って」
「ん? どういう意味?」
「ウチは今のままでいいの。空手だってやめてもいい。でもリュージ、ぜんぜん構ってくれないし……」
「そりゃ、練習があるからだろ」
「他に好きな人がいるのかなって……」
「バカなことばっかり言うなよ」
「だって……」
「心配なのは分かるけど、無駄な心配だ。アイツは一途なやつだよ」
「そうだよね……。ウチが一番知ってるはずなのに。フフ。杞憂か」
「そうそう。キユー。……どういう意味?」
「知らんのかーい」
そんな会話を二人がしていたらしいが、オレは机の上で夢の中だった。