第4話 満月を追いかけて
小4の頃のある夜。
あいつの家の日本庭園に自転車で乗り付け二階のマコの部屋に向かって叫んだ。
「おーい! マコ!」
そう呼ぶとすぐに開くマコの部屋の窓。
「お! リュージ! どーしたぁ!」
オレが空を指すと、そこには真っ黄色の大きな満月が浮いていた。
「なぁ! 月追いかけね?」
マコもその月を見上げて叫んだ。
「うわ! すげー! いいな! 行くか!」
バカみたいな話だが、あの大きな丸い月を追いかければ、追いつくんじゃないかと思ったんだ。
その黄色い丸にタッチしてみたい。
マコも赤い自転車を引っ張り出して互いに月を目指して自転車をこぎまくった。
市街地を抜けて、街灯の少ない道、坂道を越えて木々が生い茂った道をどこまでも、どこまでも。
オレたちの目には、逃げ続ける満月。
当然追いつけるわけもない。
やがて疲れてどちらともなく自転車を蹴って野っ原に寝転んだ。
「やーーーーめた!!」
「ずっけ!」
互いに野原に絡まり合い、大の字になって寝ころんで真ん丸のお月様を見上げた。
無言だ。こんな見事な月に心を奪われてしまったんだ。
「……きれーだな」
「……そーだな」
周りには背の高いススキがさらさらと風にゆれ、虫の声がリーリーと聞こえていた。
二人の瞳には黄色い大きな月が映っていた。
ふとマコを見るとの最近伸ばし始め耳にかかる髪の毛がわずかに揺れる。
なぜかマコに対してドキドキと胸が鳴ったことを覚えている。
その頃、二人の家は大騒ぎだった。警察まで出てきて帰るとしこたま怒られた。
だが、オレたちにはそれが勲章だったんだ。