第39話 力尽く
ただ呆然と大会が終わるのを待った。
オレは放心状態。
そんなオレをマコは心配してくれたが、回復するわけがなかった。
表彰式も無表情で行い、師匠の車に無言で乗り込む。
師匠は、「デコにキス」をどうたらこうたら怒り口調で言っていたが、オレは何の返答も出来なかった。
「初めての大きな大会で電池切れかよ」
「そうかも。そっとしといて上げてよ」
「オマエらは本当に青少年としてあるまじきだぞ。そんなんで将来を許せると思ってるのか?」
「だったら駆け落ちするもんね〜」
「クソ〜。オマエらならやりかねん」
「ふふふふ」
二人が何か言っていたが、オレにとっては雑音以外の何者でもない。
早く家で横になり泣きたかった。
マコのあの可愛らしい顔。
あの小さな胸。
愛らしい笑顔。
全てがあの男のものだなんて。
オレは家に帰り、両親に雑に今日の成績を報告すると早々に部屋に行ってベッドに顔を埋めた。
そして泣きじゃくった。声が漏れないように。
その内にそのまま眠ってしまった。
最初気付かなかったが、今日のオレを心配してマコが来てくれた。
本当は禁止だが、オレが疲れているから励ましてくれと親に言われて部屋に入ったらしい。
マコが部屋に入ったことに気付かずオレは眠っていた。
気付いたのはマコがベッドに座り、オレの顔を覗き込んだ時に長い髪が頬に触れたからだ。
「マ、マコ!」
「あ、ゴメン。起こしちゃった?」
オレはベッドの上で後ずさった。
「今日、帰りのとき変だったよ? 大丈夫?」
「あ、ああ……」
「そう。だったらよかった」
今ここにマコがいる。
大好きなマコ。
手を伸ばせば届いてしまう。
だが、マコはあの神納の彼女なんだ。
マコは、マコは……。
「ああ、くそう! マコ!」
「ひゃん!」
オレはマコをベッドに押し倒した。
そして上着を剥ぎスポーツブラをめくり上げる。
白い肌。丸い胸。空手で鍛えられたマコの体には無駄な贅肉がない。
見事なプロポーションだった。
マコはなぜか口を抑えていた。おそらくキスを阻止する為だろう。
「ああ! クソ! オレはこんなにも、こんなにもオマエを好きなのに、どうして! どうして……」
あらわになったマコの胸にオレは顔を埋めた。
マコは口を抑えた手を少しばかり開放し小声でオレに言う。
「ダメ。リュージ。声でちゃうよぉ〜。おじさんとおばさんが来ちゃうぅ〜」
オレは構わず、マコのズボンのボタンを外し、強引に下げ降ろした。
小さな可愛らしいショーツがあらわになる。
自分も上半分の服を脱ぎ床に放り投げたが、オレの知識はここまで。
どうしていいか分からずマコに抱きつき体を密着させた。
「クソ! クソぉ! マコぉ!」
「……我慢出来ないんだねリュージ。私だって……」
マコの体に貼付いているうちに徐々に冷静を取り戻して来た。
こんな力尽くでマコを裸にしちまうなんて。
オレはマコから離れ、彼女の服を集めて渡した。
「え……?」
「……スマン。詫びても詫びきれねぇ。絶交してもらっていい。服着て帰ってくれ」
「そ、そんな。リュージ。ウチなら大丈夫だよ」
「こんな手にでるなんてガキだ。クソだ。師匠になんて詫びりゃいいんだ」
オレは泣き出した。もう取り返しがつかない。
男泣きだ。立ち尽くし、さめざめと涙をこぼした。
そこにマコは裸のまま背中に胸を押し付けて来た。
「リュージ。疲れてたんだよ。だから冷静な判断ができなかったの。こっちへ来てよ」
「お、おう」
たしかに疲れていた。
ストレスで一杯だ。
マコをこんな風にするなんて。
オレはベッドに座るマコの横にドッと音を立てて座った。
マコは服を着直してからいつものハグをした。そしてオレの頭を抱きながらベッドに倒れた。
オレもその温もりで眠りに落ちて行った。
まどろみだ。
深い深い海の中。
マコの温もりを感じながら……。
「もう……。襲ってくるなんて。それでも我慢するなんて有言実行だなぁ〜。かっこいいよ。リュージ」




