第38話 つきあってるよ
ヨロヨロになりながら、会場に戻ると、当たり前だがマコは順調に勝ち上がっていた。
「もう、どこに行ってたの〜?」
「いやぁ。ションベン」
「ちゃんと手洗った?」
「どうだったかな……」
「やだ〜。そんな手で触らないでよ?」
「……うん」
「ねぇ、おまじない効いちゃった」
「そっか……」
「ダメだよ。みんなの見てる前でなんて〜」
「そっか……」
「我慢出来なかったの? お父さん、真っ赤な顔して怒ってたよ?」
「はは……」
マコがなんて言ってるかなんか上の空だった。
マコの彼氏は将来有望な拳士。
年齢は3つほど上だし、正直ロリコン野郎と思ったが男女の恋愛だ。
ない話じゃない。
こんなチンケな大会で告白だなんて甘えてた。
今のオレにはどれをとっても勝ち目なんてない。
マコにふさわしい男になんて。
せっかくとった優勝だったけど、ひどくつまらないものになってしまった。
自分の出番が終わっているので、惚けたように他の試合を見ていた。
マコの試合。
さすがに心が沸き立つ。
マコも簡単に優勝を勝ち取ってしまった。
やはり、オレが及ぶレベルじゃない。
中学女子の試合が終わり、男子高校生の選手が入って来た。
山のようなガタイ。
だがオレは一点だけを見つめていた。
天心志館の神納正十郎。
アイツもオレを見ながら挑発的に笑っていた。
横でマコの声が聞こえる。
「神納さんがんばれー!」
その声に反応してオレの体がピクリと動いた。
「あの……マコ?」
「ん?」
「神納先輩ってさ……」
「なに?」
「あの……かっこいいよな」
「そーだね」
「その……神納先輩と……」
「うんうん」
「付き合ってんのか?」
「うん。そりゃそうでしょー」
ガーン!!!
やはりそうだった。
マコと神納正十郎は付き合っていた。
神納がマコの彼氏だったのだ。
しかも、そりゃそうだってかなり公認!
テツも知ってたし、オレだけだ。
間抜けなオレだけが知らなかったんだ……。
「突き合うし、蹴り合いもするよ。やっぱり男の人はパワーがあるよね。そりゃリュージも心配だよね。でも大丈夫。優しく寸止めしてくれるよ」
もはや、マコの声は聞こえていなかった。