第37話 彼氏あらわる!
中学男子の個人戦。
オレがマコに溺れて負けちまったと思うだろ?
それは違う。優勝した。
やはり師匠の教え方は偉大だった。
中学三年との一年の差を埋めたんだ。
動きが見えると言うか、読めると言うか。
マコと比べると全然幼稚だ。楽勝だった。
決勝戦でも、対格差が違う牛島すら秒殺できた。
マコの隣りに戻るオレに会場はよどんだ。
『美少女すぎる新星の女拳士』の元に進むオレはやはり世間にはよく映るものだろう。
これで、マコに告白出来るとオレは有頂天だった。
この時までは。
やがて、マコの中学女子個人戦が始まろうとしていた。
有頂天で調子に乗っているオレは、正座しているマコの前に立ち、身を屈めておまじないをした。
みんなの見ている前で。
というか、みんなしているもんだと思ったからそれが普通だと思ってたんだ。
会場は静寂に包まれた。
マコは真っ赤な顔をして額を抑えていたがその顔にささやいてやった。
「マコ、がんばれ〜!」
「なによぉ。バカ」
そう言いながらマコは他の選手の元に駆けて行った。
女子の試合が始まる。
マコはシードなのでしばらく試合がない。
今のうちにトイレに行ってしまおうと立ち上がって廊下に出た。
「オマエ強かったな」
と他の中学のヤツに背中を叩かれながらトイレへ。
用が終わって外に出ようとすると、小柄の男がオレを指差した。
「あ! いた!」
「はぁ?」
見ると、高校生だ。天心志館の刺繍が入っている。
スポーツ強豪高校だ。
なぜそいつに探されているのか分からなかった。
「オマエ、ちょっと来いよ」
「なんでですか?」
「神納さんが呼んでるぞ」
神納……。誰だそれ。
ひょっとして神納正十郎か?
マコと同じく強化選手に選ばれてるやつ。
将来は世界大会で金メダルとかっていわれてるやつだよな。
なんだろ?
オレの試合ぶりを見て褒めてくれんのかな?
そう思いながらその小柄な先輩に付いていくと、天心志館にあてがわれている控え室に連れて行かれた。
ガタイの大きな男たちが、入るなり睨み倒して来た。
なんだ、それがゲストに対する態度かよ。と思いながら前に進んで行った。
「神納さん、連れて来ました」
「ほぉ。テメーか」
「押忍。なんでしょう」
「テメー、さっきオレのマコトに良からぬことをしてくれたな?」
「はい?」
「テメーはマコトのなんだ」
マコトってマコのことだよな。
なんだこの胸騒ぎ。
マコはオレにとって……。
「押忍。親友です」
「ケッ! 胡散臭ぇやつだ。マコトはオレの女だ。もうマコトに近づくな!」
落雷。
全身に響くような轟音。
そして何よりショックな宣言。
コイツが……。
神納正十郎がマコの彼氏……。




