第34話 ハグ、ワンチャン行けんじゃね?
親に会うとうるさそうだからマコとともに、マコの家の庭にある道場に入った。
少しばかり練習しようという名目だ。
そしてオレの頭の中にはもう一度ハグがしたいことで一杯だった。
「マコ、あのぉ〜」
「なに?」
「ちょ、ちょっと突きを見てくれよ」
「ああ。いいよ」
その場で少しばかりの正拳突きの練習。
マコもいつもの真剣なまなざしだった。
「いいよ。スピードもあるし、まっすぐだし、ブレがない。これなら大会でもいい成績だせる」
「そうか? 師匠にも言われたんだ」
「そうだろうね〜」
「あ、あのさ」
「なに?」
「オレも、がんばれ〜のハグ……ダメかな?」
「え?」
「やっぱダメ? ダメならいいんだ……」
「いいよ〜。全然いい」
「マジすか」
オレたちはまたまた向き合った。
マコは下げた両手を少しだけ浮かせている。
そこに手を入れて肩まで手を上げて抱きしめる。
「あ〜。いい。ハグはいいなぁ〜」
「なによ〜。さっきはあんなカッコいいこと言ってたのに」
「いや〜。これは別だよ。鼓舞だからな。頑張れって言う」
「そうだね。リュージ頑張れ〜」
「ありがとーう」
「リュージ頑張れ〜」
「ありがとーう。マコもがんばれ」
「うんうん」
誰も見ていないことをいいことに、そのままお互いに放しはしなかった。
抱きしめ合ったまま時間が過ぎて行く。
互いの体を密着させることがこんなに気持ちいいことだなんて。
昔は親友だったマコをこうしてハグしているのは変な感じだったけど、それ以上にマコをますます好きになった。
やがてオレたちは畳の上に隣り合わせに座り、話の途中でオレが耐えきれなくなってハグをする。
それをマコが受け入れる。
徐々にハグも雑になり、ハグをしながら寝転がるなんてことをやっていた。
「なぁ〜マコぉ〜。もう一回ハグいい?」
「もーう」
「さっきのマコが上に乗っかるのはハグが弱ぇえよ。マコは軽ぃからな。やっぱ、オレが上に乗るほうが密着感があるなぁ。もっと肩に隙間が空かないようにお互い集中してよぉ」
「なにそれ~。そこまでするならいっそのことキスしちゃえばいいじゃん」
とマコが言ったセリフを最後まで聞き取れなかった。
道場の扉が開いて、そこには師匠。
オレは寝転んでいるマコにハグを決めているところだった。
互いの顔も近い、5センチ空いてるかどうか。
厳密に言えばこれはハグじゃねぇな。
「リュージ、てめぇ!」
無人のはずの道場に電気が点いてるんだからそりゃ師匠も来るよ。
それにハグがやましいことがないなら二人きりの時にしねぇよな。
大勢の前でも気にせず出来る。
でも隠れてするってことはやっぱそれなりにハグもいやらしい行為なんだろうなぁ。と蹴り上げられて宙に舞いながら思った。
そして地面に衝突。
師匠の蹴り、今までで一番効いた。
「リュージ! 掃除して家に帰れ! 明日遅れんなよ!」
「お、押忍」
師匠はマコの手を強引に引いて母屋に引っ込んで行ってしまった。
殺されなくて良かった。
やっぱ師匠もこれをハグだと分かったから蹴り一発で済ませてくれたんだろうか?