第32話 キスは大人になってから
マコに手を引かれるまま、今度は観覧車に並んだ。
日も傾き始め、回りは大人のカップルだらけ。
並んでる間にチュウする奴らも出てきやがった。
おいおいこっちは子どもだぞ。目のやり場に困るだろ。
そんなのを目の前で見ちまったから、ドキドキして会話も少なくなっちまった。
マコも赤い顔をしている。
そりゃ免疫なんてねぇよなぁ。
オレたちまだ中学生だしな。
そんな中、オレたちの順番が来た。
周りの環境にいたたまれなくなったオレたちは早々に乗り込んだ。
今度は2対2の席。オレは自分の席の隣りに買い物袋を置いて座り込んだ。
当然マコは対面に座るのかと思ったら、マコはオレの横にある荷物を対面に置いて隣りに座り込んできた。
「お、おい」
「いーじゃん。こっちの方が景色もいいし」
マコがそう言って指差すと、遠くに港が見えた。
そして広がる海。
「うわー! すげぇー!」
「でしょ? ちゃんと調べて来たんだから」
それはそれでいいが、密着し過ぎだ。
マコは極度にベタベタしてきた。
「あんまりくっつくなよ」
そう言うと、マコはなんかめちゃくちゃ怒りだした。
「なに? なんなのその言い方? まるでウチだけがしたいみたいじゃん! リュージはどうなの? 手を握ったり腕を組むんじゃなかったの?」
慌ててオレは胸の前で腕を組んだ。
そう言えば忘れていた。これが大人の男。
しかしマコはさっぱりそれを認めてくれず、ガンガン言って来た。
「今日だってウチばっかり手を繋いでさ。リュージなんて全然ウチのことに関心ない! お父さんにお願いしてるウチバカみたいじゃん! ……キスだって期待してたのに。コンビニの帰りで一回だけじゃん。彼氏だったらもうちょっとしたりしないわけ?」
中盤から声がモゴモゴになって聞き取り辛かった。
だが一部分は聞こえた。
『キスを彼氏とした』とかなんとかそういうの。
なんかマコが遠くに行ってしまいそうで怖かった。
彼氏とキスとかして欲しくなかった。
大人になれってそういうことかよって思った。
ひょっとして彼って高校生とか大学生とかかよ。
そんなの男に遊ばれちまうだけだろ?
いつの間にかオレはマコの肩に両手を添えていた。
「あ……」
「マコ!」
「は、はい」
マコの顔が真っ赤になる。唇をモゴモゴと波のように動かしている。
コイツは昔から何かを期待する時にそんな顔をする。
だが、なんの期待かはオレには分からなかった。
「いいか? オレたちまだ中学生じゃねーか! そんなキスとかまだ早いと思わねぇか? それが大人か? オレはそうは思わねぇな! そんなことが出来たからって大人じゃねーんだ! もっともっとゆっくり進んで行こうぜ? な? オレたちの人生まだまだ長ぇんだから」
マコは真っ赤な顔をしてオレを見つめていた。
「う、うん」
「……ワリぃ。デカい声だしちまって」
「ううん! そんな! カッコ良かったよ……。うん。すごい。カッコよかった……」
「そ、そっか」
分かってくれたようだった。
大人ってチュウの上にもいろいろあるんだろ?
もう少し待ってて欲しい。
オレが強くなって告白出来るまで。
観覧車を降りて暫く歩いた。
今度はマコは強引に手を引こうとはしなかった。
それはそれで少し寂しさを感じたのだが。