第31話 腕を組んでみよう
買い物はなんてことなかった。
二人で白シャツを買ったり、ソックスを買ったり、テーピングを買ったり。
同じスポーツをしてると買うものも同じだ。
マコがたまに入り込むファンシーショップは遠慮して廊下に立ってアクビをしていた。
昼食にはエムドエヌドパンバーガーで100円のパンバーガーとシェイク。甘いジャムのパイを買って一つのテーブルに座って食べた。
「なんかこういうの久しぶりだよぉ」
「えー。オレはもっと山とかで遊びたい」
「まー、リュージはそうだろうね。子どもだもん」
カチン。ムカついた。
自分は彼氏でもできて大人になったつもりかよ。
少し前まで一緒に山小屋で遊んでいたのによぉ〜。
「どーせ、オレはガキですよ」
「そうだよ。もっと大人になってよ」
「あっそ。大人ってどうやってなるんだよ」
そう言うとマコは真っ赤な顔をした。
「そのぉう……。手を握ってみるとか……。腕を組んでみるとか……」
「何それ。まぁ、たしかに大人に見えるかもな。やってみるか」
「うん!」
手を握る。聞いたことがある。裏稼業のマフィアとかが敵対するグループと利害が一致したとき一時的に仲間になることだ。
たしかに大人だ。そう言う割り切り方が大事とかって意味だろう。
だが今すぐには出来ない。
腕を組む。それは簡単だ。
オレは胸の前で腕を組んでみせた。
たしかに大人っぽい。足も組むとサラリーマンみてぇだ。
オレは体を斜めに向け、腕と足を組んだ体勢でシェイクを飲みパンバーガーを食う。
まさに都会の大人。かっこいいと思った。
大人の少しばかりの休息の気分を味わったところで立ち上がった。
「じゃ、遊園地行くか」
「うんうん」
マコは何やらモジモジしながら横に並んで来た。
オレたちはそのまま遊園地に行くバス停留所へ向かった。
遊園地に着いたはいいが、なんで遊園地ってこんなに二人横並びになる乗り物が多いんだ?
絶叫系から、コーヒーカップ、ただ上下して回転するやつとか密着度が多すぎるだろ。
まさか彼氏持ちの女と横並びになるわけにいかねーだろって思ってても、マコが手を引いて強引に連れて行く。
「ねねね。今度、あれに乗ろ!」
「お、おう」
「んふんふ。楽しいね! 楽しいね!」
「お、おう」
「楽しいだろ? なぁ!」
「お、おう。たのしー。こんなに楽しいの久しぶり〜……」
「んふふ。だろと思った」
確かに楽しい。マコとこうしている時間。
つか、そりゃそうだろう。
オレはマコのことが好きなんだから。
でも心から楽しめねぇのはやっぱ、彼氏の存在。
それがなきゃ、マコに繋がれるこの手。
これを強引に引きたい。
引っ張ってオレのものにしたかった。
まぁ、マコには負けちまうだろうけど……。