第16話 そりゃ誤解するよ
マコは中学一年にも関わらず、オレたちがお守りに託した空手の大会で優勝した。
オレとテツは互いに喜んで、マコに激励の言葉を伝えに行った。
マコもとても喜んでいた。
そしてオレとテツの手を握り、握手をしてきた。
テツはその後なぜか照れて、部活があるからと言って帰ってしまった。
マコの家の玄関先にはオレとマコの二人。
「何だアイツ」
「何だろね」
久しぶりにマコと時間が合った。
マコは部屋に上がってくれといったのでそうすることにした。
リビングにはマコの母ちゃん。
挨拶をすると、久しぶりだと歓んでくれた。
空手の強化選手となって遊ぶ時間が短くなったのだ。当たり前だ。
「仲良く……しすぎないように!」
おばさんは最後に声を大きくした。どういう意味かわからなかったが適当に返事をしておいた。
マコが部屋のドアを開ける。
だがオレは驚いてしまった。
以前と雰囲気が変わっていたのだ。
カーテンもなんかキレイだし、ベッドも白いのになって掛け布団にフリルがついていた。
パステルピンクと白の基調。
昔はオガクズとカブトムシの匂いがしたのに、今じゃさわやかな……女の匂いがした。
落ち着かずに部屋を見渡していると、その様子にマコは笑った。
「クソ~。なんなんだよ」
「けっけっけ。悪ぃ悪ぃ」
しばらく、空手の試合の話をした。
オレは今でもたまにマコの家の道場には行ってはいたが、マコレベルではない。
やはり試合の話は凄かった。
「すげ~! オレも会場に行きて~!」
「休みと試合の日が合うといいなぁ」
「そーだな~。練習もやっぱり違うのか?」
「だな。ウォーミングアップもウチの道場の10倍くらいやるぞ」
「マジかよ」
「リュージ。腕立て。やってみろよ」
「ああ」
その場で腕立てを20回ほどやると、マコはオレの悪い部分を指摘した。
「なるほどなぁ。言われてみりゃそうだなぁ」
「二人並んでやってみるか?」
「ああ。どうやって?」
「まず、ベッドに足を乗せて、床に手をつく。こうすると手に体の重心がかかるだろ?」
「なるほど。負荷が多くなるわけか」
「そう。どっちが先にバテるか競争だ」
「まぁ、オメーには敵わねぇけどオーケー」
二人並んでマコのベッドにつま先を立てた足をかけ、床に手をついて腕立て伏せ。
その度にベッドがギシギシ、キュキュと音を立てる。
「なかなかやるな」
「ン……。ハァハァ。キツいな、やっぱ」
ギシギシ、キュキュ。
「ヒッヒッヒッ。まだ100回いかねーぞ? せめて100回はやるぞ」
「ハァハァ。うそ? 後何回?」
ギシギシ、キュキュ。
「ヒッヒッヒッ。教えなーい」
「うそ? もう行く? あーも~ダメ。行く? もー行く?」
ギシギシ、キュキュ。
キツいし疲れるからついついオレの声だけがデカい。声の制御が効かないんだ。
その時、階下が慌ただしくなった。
おばさんの階段を駆け上がる音が聞こえた。
ドアを申し訳程度にノックすると、すぐにドアは開かれた。
「ちょっと! アンタたち何やってんの!」
オレたちは腕立てをしながら顔を上げた。
「ハァハァ。……え?」
「どうしたのお母さん」
おばさんは、ヘナヘナとその場に膝をついた。
オレたちもそのまま中断。
おばさんの元に駆け寄った。
「腕……立て伏せ……」
「そうっす。やっぱマコにはかないませんね~」
「ははは……」
おばさんは力なく立ち上がると、リビングに戻って行った。
オレたちの頭の中には「???」が並んだ。