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アーデルハイド家の令嬢 ※

 


「はい、では今日のレッスンはここまで」

「ありがとうございました……!」


 ピアノのレッスンを終え、先生に深々と頭を下げる。今日のお稽古はこれでおしまいではあるけれど、はっきり言ってもうクタクタだ。つい体から力が抜けていくのを感じる

 毎日たくさんのお稽古があって、覚える事もいっぱいで大変だけれど、公爵家の令嬢として必要なことである事もわかっているし、なにより新しい事を覚えるのは嫌いじゃない。最近は出来ることも増えてきているし、怒られる事も減り、刺繍なんかでは褒められる事もある

 それでも

 お稽古は嫌いではないけれど、やっぱり疲れるものは疲れるなぁ、なんて苦笑しながら歩いていると、前を歩くエレノアを見つけて声をかける。エレノアは、ゆっくりと振り返った。そんな動きですら絵になるのだから、彼女はすごいと思う

 歩き方や笑い方、話し方、食事の仕方、どの動きにも気品があり美しい彼女。

 本当の事を言うと、彼女と初めてあった時はすごく緊張していた。お父様のお屋敷に住める事になったのは嬉しかったし、妹ができる事も嬉しいとは思った。お父様からプレゼントされた、お父様の瞳と同じ色の石が嵌め込まれたペンダントはすごく綺麗で、嬉しくて、アーデルハイド家の第一子の証というのは、少しピンとこなかったけれど、なんだか誇らしい気がした

 けれど同時に不安でもあった。妹ができるという事。貴族として、令嬢として生きてきた彼女は、平民の私を受け入れてくれるかしら?仲良くなれる?私はお姉さんらしくできる?お父様からどんな子か聞いたこともないけれど、もしも意地悪な子だったらどうしよう。そんな不安を抱えながら行ったお屋敷で、私は彼女と出会った

 冬の寒さの中に立つ木々のようなホワイティアッシュのふわふわなロングヘア、瞳の色は、お父様以外で見た事のないアメジストからエメラルドへ変わっていくグラデーション。肌も唇も透き通るような透明感があり、桜色の頬に淡いピンクの唇。目を縁どる睫毛も美しくて、思わず目を奪われた。とても美しいと思ったけれど、どこか冷たさを感じさせるその容姿に同時に恐怖も覚えた


「お会いできて光栄ですわ

 わたくし、エレノア・クルス・アーデルハイドと申します

 よろしくお願い致します。ソフィア様」


 微笑む事で更に増す美しさ、声すらも美しく儚くて、触れてしまえば壊れてしまうような危うさと、誰も寄せつけないような孤高さを感じて、私はこの子のお姉さんになってこの子を守ってあげようと決めたんだ

 夕飯の時、学園への転校を反対された時は涙が出そうになった。私の何がいけなかったの?とすごく悲しくて辛くて、だけど、彼女が続けた言葉は私の為を思うもので。彼女は彼女なりに私を守ろうとしてくれている。それがすごく嬉しくて、すぐに学園に通う事が出来ないのは残念だけれど、1年間しっかり勉強すればいいだけの事だし、令嬢としての振る舞いを身に付けて、彼女と共に学園の高等部の入学式に出るのが、私の今の目標である


「ソフィア」

「………!お父様っ……!」


 思い出に浸っていると、前方から歩いてきたお父様に名前を呼ばれて我に返る。レッスンは終わったのか?なんて言いながら頭を撫でてくれるお父様

 私はお父様が大好きだ。優しい所も、厳しい所も、少しだけ不器用なところも、笑った顔も。見目の麗しさも、あの目を奪われるほど美しい瞳も。わたしはお父様似だとお母様は言ってくれるけれど、エレノアの持つ一目でお父様とのつながりを感じさせる瞳の色は純粋に羨ましい。勿論お母様も大好きで、お母様と揃いのこの瞳も気に入ってはいるけれど、やっぱりどうせなら、お父様の色が欲しかったなぁ


「明日は久し振りに休暇が取れた

 どうだ、習い事もお休みにして、久々に家族で出かけないか?」

「まあ、素敵っ!

 どこに行くの?」


 家族でお出かけなんていつぶりかしら?お屋敷に来てからは忙しくてなかなかお出かけできなかったもの。3人でよく行ったお花畑とかどうかしら?でも、この辺のことももっと知りたいし、近くを散策するのもいいかもしれない。それとも、街に出るのも楽しそうだわ。ウキウキと行きたい場所を考える。お父様は私の行きたい場所でいいと言ってくれるけれど、やっぱり皆で楽しめる場所がいいわね。考えただけでワクワクして、疲れが吹っ飛んだ気がする


「それでは、ソフィア様の先生にはわたくしの方でご連絡させていただきますわね」


 エレノアが、微笑みながらそう言った。ああ、そっか、お休みをとるなら先生にも言っておかないといけないのね。こういう所は少しだけ大変だなぁ。そう考えながら、エレノアにお礼を告げた

 それにしても楽しみだなぁ。家族でお出かけ


「お前は、明日も学校だったな」

「はい」


 お父様がそう言って、エレノアを見る。エレノアは笑顔を崩さずに肯定した。明日はエレノアは学校だから、お出掛けには一緒に行けない。折角の家族でのお出かけなのに、エレノアはいけない。学校……初めての家族でのお出かけよりも優先しないといけないのかしら……一日くらい、お休みしたっていいんじゃないの……

 そう思っているのが伝わったのか、エレノアは苦笑して明日はテストがあるのだと言った。行けないのはすごく残念だけど、テストは休めないのだと


「そう……テストなら仕方ないわね……

 でも残念だわ。折角家族でお出かけできると思ったのに……」

「……わたくしも残念ですわ

 ですけれど、週末のお茶会は、一緒に参加できますでしょう?」


 お茶会…………そうだ、お茶会

 どうして忘れていたのかしら。私とお母様のお披露目を兼ねたお茶会を開くんだったわ。確か、叔父様や伯母様も参加する、少し大きめなお茶会。マナーの先生に言われて、今お茶会に向けて勉強中だったのに……

 お茶会のことを思い出して、楽しい気持ちでいっぱいになる。明日はお父様とお母様とお出かけ。週末には家族4人でお茶会。お父様の家族に会ったこともまだないし、ご挨拶出来るだろうし、何より令嬢のお友達ができるかもしれない


「ふふっ」

「どうした?」

「楽しみだなぁ、って思って」


 たくさんの期待に、思わず口角が上がってしまう。先生には、アーデルハイド家の令嬢として初めての公の場なので気を引き締めなさい、と言われたけれど、やっぱり楽しみなものは楽しみなので仕方ない。それに最近は令嬢らしい振る舞いも少しはできるようになってきたとお父様に褒められているし、心配ばかりしても仕方ないわよね








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