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浅葱の花は月夜に輝く  作者: 燈《あかり》
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契約

 思いもよらない来客に、足をすくませる弥生。怒られるのではないか。大切な人を奪っておいて挨拶もなしだなんてなんて怒られるのではないかと思い、弥生は少し後退った。


「 そんなに、警戒しなくて大丈夫ですよ。怒ったりなんてしません。芹菜さんや芹華さんから、あなたが転生してからこの町に慣れるために毎日頑張っていることは聞いています。それに、姉がいなくなったことは弥生さんのせいじゃないですから。あそこの公園で少しお話していきませんか。」


 真っ黒で艶やかな髪。花子さんとは違い肩までの長さだが、後ろ姿はやはり酷似している。流石姉妹と言うべきか。

 辿り着いたのは、来栖神社の麓の公園だった。もう十一月の半ば。真っ赤な紅葉が空を舞う。なんて美しいのだろうか。朱音がベンチに座ると大量の猫が押し寄せてきた。どうやら、花子さんが手懐けてこの公園に住み着くようになってしまったらしい。花子さんがいない間は朱音さんが面倒を見ているそうだ。


「 ここ、きれいな公園でしょ。来栖神社はもっと綺麗だけどね。」

「 あの、お姉さんのこと聞いてもいいですか。私、知りたいんです。どんな人でどういうことが好きで、どういう風に生活をしていたのかを。」


 そうして彼女は語りだした。花子さんという人物を。

 

 姉は小さい頃から、優秀でした。私が物心着いたころには、お父様やお母様が使う高難度魔術を使いこなしていました。姉が7つになる頃に、ある神と契約を交わしたのです。七歳という若さで神と契約することは魔術業界の中でも、最年少でした。優秀なのは魔術だけではありません。もちろん、勉学にもとても励まれて小学一年生の頃から今に至るまで、ずっとトップクラスでした。身体能力にも恵まれ、幼少期からバレエ、バスケ、バレー、テニス、水泳を習っていましたし、私たち東雲家は弓道と華道、茶道が伝統で自宅でもそれら三つの習い事をしていましたが、姉は弱音一つ吐くことなく、とても楽しみながら学んでいたのです。

成績優秀な上に姉は来栖町に留まらず世界でも有数の絶世の美女とまで呼ばれるほど美しい方でした。ご先祖様にとても美しいと言われた姫がいたという書物と絵画が残っているのですが、その姫に瓜二つなのです。まるで、生まれ変わりの様に。性格は、好奇心旺盛で天真爛漫な絵に描いたような完璧な人です。

ここまでの話を聞いていると、誰も寄り付くことがないのではないかというイメージを持ってしまったかもしれませんが、実際そんなことないのです。とてもお茶目で悪戯好きで、渡来家で魂霊術式の手伝いをしているにも関わらず、姉は幽霊が苦手なのです。虫がめっぽう弱くて、以前家で蜘蛛が出たときは大騒ぎでした。

 でも、そんな姉のことがみんな大好きなんです。私も、私のもう一人の姉と渡来さんたちも、来栖町の人たちも、もちろん渚さんも―。

 みんな姉のことが大好きなんです。姉が誰よりもこの町を愛し、この国を愛し、世のため人のために常に頑張っていたことはみんなが知っているんです。だから、あの時の事故だっていつかは起きてしまうと思っていた。そんな些細な出来事なんです。弥生さんが、思っているより、みんなは姉のこと心配なんてしてないと思います。色んな神に認められた、世界最強の魔術師が負けることなんてないのです。絶対に無事に帰還することをみんなが思っています。みんなが信じています。だから、そんなに気に病まないでください。


 私が気にしていることを、最後に全力で安心させてくれた。朱音さんの花子さんへの愛は十分に伝わった。


「 じゃあ、最後に来栖神社にお参りしましょう。姉が帰ってきますようにって二人で。」


 朱音さんに連れられ弥生は来栖神社へと足を運ぶ。どことなく懐かしい。石段で出来た階段を上って行くと燃えるような真っ赤な鳥居が待ち構えた。あまりにも懐かしいので見入っていると朱音さんが、この来栖神社について語ってくれた。


 ここは、二千年近く続いているとされている古い神社なのです。かつては、縄文時代に生きていたとされる『卑弥呼』様がここに住んでいたという書物が残っていてね。まぁ、本当に住んでいたかは分からないけどさ。そのあとはこの国を動かしていた皇族が住んでいたの。鎌倉時代までは住んでいたと聞いてる。とても神聖なところだからか、ここはあの『天照大御神』が祀られているの。ここに住んでいたとされる皇族様が天照大御神と契約していたことから、天照様はこの神社に住み着いたとされてる。


 賽銭箱に五円玉を投げ入れ、二礼二拍手一礼し、弥生は願った。「どうか、無事に花子さんが戻ってきますように」と。

 お参りを済ませて賽銭箱から少し離れると脳内に直接誰かが話しかけてきた


「 浅葱弥生さんですね。私、天照大御神に仕える巫女でございます。この後、東雲家の別館に足をお運び頂けないでしょうか。別館にいる方に『四神との契約』と仰って頂ければ伝わると思いますので。」


 透き通った今にも消えてしまいそうな優しい声で弥生の脳内に語りかけた後、その声はスーッと消えていった。

 朱音が大丈夫ですか。と振り返ったが、弥生は横に首を振り東雲家の別館に案内してもらうようにお願いした。そのことに対して、朱音は疑問に思ったのかもしれないが、一切顔に出さず他愛のない話をしながら別館へと案内してくれた。

 来栖町に来てから半年が経つが、別館といえど東雲家に足を運ぶのは初めてだった。というよりも、あの事故が起きてから東雲家に辿り着くものはいないと言われており、渡来家や天海家はもちろん、東雲家に携わってきた人間すべてが「人祓い、結界を張って部外者の立ち入りを禁じているのではないか。」と声を揃えて言っていた。何故そのような処置を取ったのかは誰も知らず、誰も東雲家に連絡を取ろうとしたり接触しようとするものは現れなかった。


「 では、僕はこのあと買い物があるのでここでお暇させて頂きます。中に入ったら長女の琴音が出迎えてくれると思うので、彼女に要件を伝えてください。それでは。」


 朱音は深々とお辞儀をしたあと、小さく手を振って別館を後にした。


 東雲家の別館と呼ばれるこの建物は、代々受け継がれる儀式を執り行う場所。神聖な場所であるため、住宅街から少し離れた位置に存在しているそうだ。

 朱音に言われた通り、玄関をくぐり抜けると深い紫色の髪をした美女が出迎えてくれた。この人が先ほど言っていた東雲家の長女、琴音さんだろう。


「 こんにちは、あなたが浅葱弥生さんですね。お噂は兼ねがね。ご用件は…『四神とのご契約』でお間違いないでしょうか。」

「 は、はい、多分。でもなんでもう知ってるのですか。」

「 先ほど、天照大御神の仕いの巫女さんからお話をお伺いしまして。どうぞ、ご案内します。」

 

 その、紫色の艶やかな髪をなびかせながら琴音さんはゆっくりと案内してくれた。神聖な場所だからだろうか。真っ白な着物を着ているのだが、その染めた髪でも違和感がないほどに琴音さんは美しかった。朱音さんはどことなく花子さんに似ているなと感じたが、琴音さんは全く面影がない。朱音さんや花子さんは『大和撫子』という言葉がとてもしっくり来るが、琴音さんはどちらかと言えば洋風な顔立ちでフランス人形を思い浮かばせるような顔立ちをしていた。

 案内された場所は大きな二重丸の中に五方星が記された赤い絨毯が敷かれ、如何にも怪しげな雰囲気の部屋だった。神聖な場所なのだから「怪しげな」と表現するのは、罰が当たるかもしれないが、その方が読者の皆さんにはよく伝わるのではないかと私は思う。その部屋の奥に、赤い座布団の上にちょこんと座った少女がいた。外見は華奢な赤茶髪の少女で、背中に濃い茶色の羽が生えている。コスプレかと一瞬考えたが、彼女は至って真剣そうな(俯いた状態の)顔をしているので、人間ではないのだろうと推測した。

 その少女はゆっくりと目を開けて、弥生の顔をじっと見つめる。暫く見つめ合ったあと、ようやく彼女は口を開いた。


「 お主が、浅葱弥生というのか。我の名は東西南北を司る四神の一人、南を守護する神、朱雀という。天照大御神殿が、お主と契約するように命じたということは、お主はただの人間ではないということじゃろう。我は別名火の鳥とも呼ばれる。西洋ではサラマンダーとも言うそうじゃのぉ。要するにじゃ、炎を司る我とお主は契約するのじゃ。」

「 契約して何かが変わるとかあるんですか。」

「 ふむ、お主は未だ本来の力を発揮出来ていないようじゃから、我からも何も言えぬが、お主の命の危機に晒されたとき、我が命を懸けて守ると誓おう。という契約じゃ。」


 そこで、黙って聞いていた琴音さんが、「天照様が、弥生さんに何か良からぬ出来事が起きると予言されまして、あの子が気にかけている弥生さんを何としてもお守りしなければということで、天照様のご意向で朱雀様と契約なさるようにとご提案なされたのです。」と補足説明をした。

 神が自分の身を案じて提案してくれた案を取り消す訳にもいかないので、弥生は朱雀と契約することにした。

 儀式は、案外アッサリだった。朱雀と手を繋ぎ互いの額を合わせるだけだった。

儀式を終えて弥生は東雲家の別荘をあとにした。一刻も家に帰らなければならないからである。琴音に礼をして、すぐさま弥生は走り出した。しかし、後ろから「チッチッチッチ」という音が迫ってくる。振り返ると朱雀が勢いよく追いかけてきたのである。


「 お主、もしかして渡来家に向かっておるのか。」

「 そうですよ!私、先日図書館に泊りがけで調べものをしていたので、渡来家の皆さんに心配をおかけしてると思うんです。だから、急いで帰らないといけないので。」

「 ふむ、では我の背中に乗っていくとよい。遠慮せずとも早く乗るのじゃ。お主が一生懸命走り回ったところで、この敷地から一歩も出ることは出来ん。上級の人祓いの結界を張っておるからの。上級魔術師でもなければ、この大迷宮から出ることは出来ぬからの。」


 どうりで、誰も人が歩いていないのか。神様の背中に乗るなんて失礼もいいところだが、乗らねばこの敷地を出ることが出来ないのであれば仕方がない。神様の背中に乗れるだけでも最高の贅沢だと思って朱雀様の背中にまたがった。

 またがったというと一体どういう状況になっているのかというと、朱雀様は弥生を背中に乗せる前に、大きなスズメに変化したのである。勿論この姿は魔術師でない人間には単なる小さなスズメが飛んでいるようにしかみえないという。弥生は自分が見えているのは先ほど契約したからだと考えたが、そんな淡い期待も一瞬にして打ち破られた。


「 お主は我と契約しておらずとも我のこの姿を認知することは出来ただろう。お主の血は特別な血を継いでおるようだからな。天照の愛するあの子が自分を犠牲にして守ったのじゃ、信頼してもよいじゃろう。」


 そして、スズメの姿に変化した朱雀様は空高く舞い上がった。「しっかり捕まっておれよ。」と言われ朱雀様の襟元を強く握りしめた。しかし、バランスが悪かったのは舞い上がった直後くらいで、そのあとは安定した平行移動だった。


「 よく見たまえ、弥生。良い景色じゃろ。」


 ずっと怖くて朱雀様のもふもふの背中を見つめていた弥生だったが、そう言われ恐る恐る視線をあげてみると来栖町の一望が出来た。思ったより高いところを飛んでいたのでそれはそれは驚きだった。


「 あの、大きい山があるじゃろ。あそこははるか昔、酒吞童子と茨木童子が住んでいたとされる鬼の山じゃ。確かに、その二人を祀った祠が存在しておる。源頼光が倒したとかいう伝説があるがの。それが本当なのか否か。我には知ったことではないが。」


「 あれが、鏡区にある来栖町最大図書館じゃな。弥生は先日そこで、泊りがけで何かを調べておったのか。」

「 はい。東雲家の次女のことについてです。私のことを助けてくれた意味を調べてみたくって。」

「 なるほどな。あの女の謎を解くには時間はかかるじゃろうが、精進したまえよ。」


 来栖町を一望し、観光スポットや簡単な歴史の話をし沢山楽しい思いをした。前世の自分であればこんな有意義な時間を過ごすことだってなかっただろう。ゆっくりと下降し、ようやく渡来家に到着した。芹菜さんと芹華さんが二人揃ってお出迎えしてくれた。


「 おかえりー。おやおや、これまたお偉い方まで。」

「 おぉ、久方ぶりじゃな。えぇっと、こっちが芹菜で、こっちが芹華か。」

「 ご無沙汰しております。うちの弥生をここまで送っていただきまして、本当にありがとうございます。」

「 ほれ、ポンコツ華ちゃん。礼を言われることじゃないぞ。そういう契約なのじゃ、主を守らぬして何が神と言えようぞ。」

( ぽ、ポンコツ!?)


 契約が交わされている限り、弥生自身に危機が及んだ時、困っているとき、すぐに駆け付けてきてくれるという。ふっふっふ~。私も随分ヴィップになったもんだ。…とはいえ、朱雀様との挨拶の時に交わしたあの言葉が気になる。『お主は未だ本来の力を発揮出来ていないようじゃから、我からも何も言えぬ』と。『未だ本来の力の発揮出来ていない?』どういうことなのだろう。これも花子さんと何か関連しているのかもしれない。私は前世の記憶をあまり持っていない。魂霊術式の際に、事故の影響で一時的な記憶喪失とは聞いたが、もしやその失った記憶も関与しているのだろうか。

 

 家に着くなり芹菜さんが色々ご飯を用意してくれたが、エネルギー切れだったのだろう。椅子に座るや否や倒れるように意識を失ってしまった。

 今回は花子さんに会うことは出来なかった。流石に疲れているのだろう、久しぶりに普通に夢を見ていた。この夢は私の記憶にはない、あの少女は誰だろう。私はその夢の中で立ち尽くすしかなかった。






<つづく>


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