第八話 しがなくないデート③
「ふぉぉぉ!! そうかここが天国というやつか・・・・・・」
テンションマックスの式夜、そんな彼女の回りにあるのはおびただしい数のレトロゲーム。
エスコートしてくれなんて言われたからにはやるしかないと腹を括ったのはいいのだが、生まれてこのかたデートなんてしたことない俺が考え付く最大限のエスコートというのはやはり、ゲームに関することだった。
そこで俺が訪れたのが、
「すいません、潤さん。こんな時間から店開けてもらって」
「おう、気にすんな。開店時間が一時間早くなっただけだからよ」
プロゲーマーチーム「スターゲイザー」のリーダー的存在、滝山潤さんが経営しているリサイクルショップ「滝山堂」だった。
滝山堂はリサイクルショップ、というよりはレトロゲームショップと言った方がいいくらいレトロゲームの数が豊富でレトロゲーマー達の穴場スポットになっている場所だ。
大抵この辺りのデートに向いてそうな場所は休日どこも開店時間が平日より遅い。
でも家にいてもどうにもならないからこうして知り合いに頼ったというわけだ。
「それにしてもルイ、あの嬢さん随分と美人だな。一体何者だ?」
「どこから説明したらよいのやら・・・・・・」
俺は潤さんに式夜との経緯を全て話した。
「・・・・・・なるほどな。大体話は分かった。まさかアルティメットゲーマーの正体がこんな美人さんだったとはな」
「俺も最初は驚きましたよ」
実は今でも今一信じてきれていない。
「それで、あれか。桜坂が言ってたテストプレイの企業案件でお世話になったお礼に・・・・・・」
「こんなことになっている訳です」
「そりゃまた・・・・・・エロゲーみたいだな」
「なぜに!?」
こんな状況がエロゲーみたいとはこれいかに。
「でも潤さん、やっぱり桜坂さんからテストプレイのこと聞いてたんですね」
「実は最初は受けるつもりでいたんだぜ?メシアの企業案件」
「そうだったんですか!?」
ならなぜ断ったのだろうか。やっぱり忙しいから?
「おう、けど断ったよ。綺麗さっぱりな」
「どうしてです? だってフルダイブですよ、ゲーマー達の夢ですよ?」
まあ俺も最初は断ったんだけどね。
「そりゃ決まってるんだろ。お前にちゃんとした実績をくれてやりたかったからさ」
「へ?」
「ルイがあそこのお嬢さんにご乱心だったのは、俺らスターゲイザーのメンバー全員が理解してる。そのせいでお前がプロゲーマーとしての実績が皆無だってこともさ」
「うぐっ・・・・・・確かにその通りです」
「だからその企業案件で「外国の有名なゲームメーカーのテストプレイ、それの依頼を受けた」っていう実績が、しかもフルダイブなんていう全く新しいゲームジャンルに対する何かしらの結果を得られるのはお前にとっても、スターゲイザーにとっても利益になる。これでわかったろ? 確かに本気で忙しかったってのもあるが俺や他のメンバーもスターゲイザーの仲間の一人であるお前が少しでもプロゲーマーとしてのキャリアを積んで欲しいから断ったのさ」
「潤さん・・・・・・!」
さすが超人気カリスマプロゲーマー、そこまで考えているなんて。
「陽奈子の奴はただめんどくさかったからだろうけどよ」
「あ、はい」
最後の落ちで台無しになった。
「ルイくん! これを見てくれ。ファミ○ンで発売したのに何故か四人対戦が出きる謎ゲーだ! とんでもないレア物だぞ!!」
俺たちの会話を他所に式夜はレアなレトロゲーム探しに夢中だ。
ファ○コンで発売したのに四人対戦とか、なにそれ欲しい。
「お、さすがお客さま、それに目をつけるとは」
そこから丸二時間以上、式夜が面白そうなレトロゲームを見つけては嬉々する時間が続いた。その都度潤さんがそのゲームの紹介をして、対戦が出きるなら俺と式夜が対戦するという流れだった。
対戦結果? 全敗だよ。
「それじゃ、また今度なルイ」
滝山堂でのショッピング? を終えて俺と式夜はその場を後にした。
式夜の手には紙袋一杯のレトロゲームのカセット。こんなに買ってどうするつもりなのだろうか。
「ふぅ・・・・・・大満足だ。ありがとうなルイくん」
「ありがとうって、別にお礼されるようなことじゃない」
「私が嬉しかったから、楽しかったからお礼をしただけだ。それにこういう時女子からお礼されたのなら男らしく受け止めておけ」
「うるせーよ・・・・・・」
未だに式夜のペースだ。どうにかして挽回しないと・・・・・・
「それで、次は何処に行くんだ?」
「え、あぁ一応決めてはあるけど・・・・・・」
「けど?」
「いや、なんでもない。とりあえず行くか」
時間はもうお昼時。朝食をとっていないのと昼食の時間ということもあってかなりおなかが空いている。
この近くで食事が出きるところ、俺は近所の喫茶店「陽炎」に向かうことにした。