第七話 しがなくないデート②
「そりゃお前、デートなんだからさ・・・・・・」
「デートなんだから? なんだ、教えてくれルイくん!」
式夜は目を輝かせながらこっちを見てくる。ここは男らしくいきたいところではあるんだけど・・・・・・
デート、やっぱりこれしかないよな。
「ゲーム、するとか?」
「君さては馬鹿だろ」
ひでぇ!? いやだって仕方ないじゃん。生まれてこのかたデートなんてしたことないんだからさ。
「いやほら、俺たちプロゲーマーだし。やっぱりそこはお互いの技術力を上げるためにも対戦を・・・・・・」
「君私より弱いじゃないか!」
グサッ、と(恐らくは)悪意のない一言が俺の心に突き刺さる。わかってるけどさ、わかってるけどさぁ・・・・・・そんなハッキリと言わなくてもよくないかぁ?
「ならどうするんだよ!? だいたいデートしたいって言ったのは式夜からだろ! ならお前こそなんか案ないのかよ」
「あるのならとっくに提案している。無いからこそ君に聞いているんだよ」
「そう言われてもな・・・・・・」
俺はそもそも目の前のこいつに勝つことだけを考え毎日のようにゲームをしていた。それが原因で、というのは違うかもしれないがリアルに異性と出掛けるとかほとんどしていない。
そもそも周囲にいる女性の大半はゲームショップのオタク気質な店員だったり、少し頭が弱い変人やクッソ真面目な妹、ハッキリと言ってこんな状況でデートしたことあるやつの方が少ないんじゃないか。
「君男だろ。ならばエロゲーやギャルゲーの一つや二つやったことあるんじゃないのか? そういう経験を今ここで役立てるんだ!」
「とんだ言いがかりにも程があるだろ!?」
そもそも俺は未成年だからその手の物は買いたくても、もとい買うつもりはない。
「プロゲーマーのくせにか?」
「謝れ! 世界中の男性プロゲーマーに謝れ!」
だいたい男だからといってそんな風に思われるのは心外だ。これでも俺は紳士のつもりなのだが。
「それならどうするんだ? このままではデートができないではないか!」
「いや別に俺はしなくてもいいんだけど」
「それは私が困る!」
わけがわからないよ。そういえばこいつにまだデートしたい理由を聞いていなかった。あとどうやって自宅を特定したかも。
「なあ、式夜? お前なんで今日・・・・・・」
「類さん、隣まで声が響いてきています。私は今とても眠たいのでもう少し静かにしてくださ・・・・・・はい?」
式夜に話し掛ける俺の声を遮るように、眠たげな千尋が俺の部屋のドアを開けた。
瞬間、式夜を除いた世界が停止した。
「なにを、やっているんですか? 兄さん。こんな朝早くから女連れ込んで? 一体何をヤッていたのですか?」
千尋の声には一切の人間味が感じられなくて、それこそ機械の音みたいな。
「ち、違うんだ、千尋。別に兄さんは何もしていないぞ? 本当にナニ一つしていないんだ。千尋はいい子だから分かるよな?」
「? ルイくん、この子は誰だ? 君の元カノか?」
馬鹿なのかアルティメットゲーマーァァァ! 普通家にいる異性なんて姉か妹か母親くらいだろうが!! 火に油をそそぐなよォォォ!
「誰なんですか? 貴方は、兄さんのなんなんですか?」
「私か? 私はかんな・・・・・・ムグッ!?」
これ以上余計なことを言われる前に俺は式夜の口を手で塞ぐ。
「千尋、こいつは俺のゲーム友達なんだよ。それで今日はプロゲーマーの俺に聞きたいことがあってこの場にいるだけで別にやましいことなんて無いんだよ」
「そうは見えませんが?」
「へ?」
「りゅ、りゅひきゅん・・・・・・」
手で塞いでいるため式夜はモゴモゴしながら口を動かす。
ふと、自分の手元に目線を落とす。そして察した。
もっと早く気づくべきだった。式夜の口を手で塞ぐためとはいえ我ながらとんでとないことをしてしまった。
右手の有りかは、式夜の口元。では余った左手の有りかは?
早く式夜を黙らせなくては、その一心で慌てた行動をとってしまった俺の左手、もとい左腕は式夜を後ろから抱き締めるようになっていた。
端からみれば、「彼女が出来たチェリーボーイが初めて自室に彼女を呼んだら我慢できなくなっちゃって抱きついてしまった」の図。
「いや、これはその、あの」
「最近のゲームは随分と面白いですね。ゲームをクリアするために、女の子とイチャつく必要があるだなんて?」
チヒロノ カオハ ワラッテイナイ。
イマニモ コチラニ ホウチョウヲ ナゲテキソウダ。
コマンド?
逃げる
「逃げるぞ式夜ぁぁぁぁ!!」
生命の危機を感じた俺は反射的にスマホと財布を取ってから半分抱き抱えていた式夜を寄せて、俗にいう「お姫様抱っこ」の形で抱えて一心不乱に部屋から飛び出す。
「る、ルイくん!? いや私はまだ心の準備が!?」
「この状況で何を抜かしやがる! 逃げなきゃ殺られるんだぞ!」
「待ってくださいよ? ニイサン?」
後ろから千尋が追いかけてきそうな気がした俺は一階への階段を滑り下り、玄関までの数メートルを全力ダッシュ。玄関に辿り着いたのと同時に式夜を下ろしてから靴をはく。
「早くしろ式夜! 包丁が飛んでくるかもしれん!」
「い、一体全体君の元カノはどうなっているんだ? というかなんで包丁が飛んでくるんだ!?」
「いやだからあれ妹だから! 俺のこと兄さんって呼んでるだろ?」
そういえば千尋また俺のこと兄さんって呼んだよな。でも今はそれどころじゃねえ!
「まあ詳しくは後で教えるからとりあえず今は靴はいてくれ! 逃げるから!!」
「わ、私ハイヒールなのだが?」
「マジか!? な、ならまた俺が抱えていくからほら!」
事態は生か死かを争う状況。
俺は式夜を背負い死物狂いで家から出た。
幸いにも追ってくるようなリアルバイオ的なことにはならなかったので家からおおよそ百メートル程度離れたところで俺は抱えていた式夜を下ろした。
「し、死ぬ。体力的に死ぬ・・・・・・」
普段から部屋に引きこもりゲームばっかやってる俺には人一人抱えて走ることはそれこそ鬼の所業だ。
「君の妹、確か千尋と呼んでいたな。あの子はなんだ? なぜ私たちに対してあんなに怒る必要がある?」
「まあ・・・・・・多分理由としては許せないからだろうな」
「というと?」
「あいつ昔はそうでもなかったんだけどいつからか、具体的には俺がプロゲーマーのジュニアライセンス獲得した辺りくらいから俺に対する当たり障りが強くなったんだよ。簡単にいうならすごく真面目になった。急に他人行儀な態度をとるようになったし、何かある度にとやかく言うようになったんだよ」
「ふむ、それは君も難儀だな」
「まああいつも多忙な時期だからさ、兄貴として冷静に受け答えするしかないんだよ」
それに、千尋も俺のことが全面的に嫌いというわけではないようで。時折ちゃんと「兄さん」と呼んでくれる。それだけでも救いがあるというものだ。
でも今日怒ってたのは別な理由な気がする。
「まあいい。それはそれとしてだルイくん、これからどうする?」
「へ?」
どうする、というのは・・・・・・どうしましょう。
「私的には、折角家から出たんだ。やはり、デートするしかないと思うのだが?」
「まあ、それは、その通りな気がしないこともないけど・・・・・・」
結果的にとはいえ俺たちは揃って家の外。今自宅に戻ったらぶっ殺されるかもしれない。それなら素直に従っておくのも一理ある。
「では決まりだな。ルイくん、」
「なんだよ・・・・・・」
「エスコート、よろしく頼むぞ?」
「~~~~~っ!」
男勝りな喋りとは裏腹なその可愛すぎる笑顔に、俺の心は意図も簡単に貫かれてしまった。